待兼山俳句会
第633回 令和2年4月20日
兼題 風船・蝶(幹三)
春昼・馬酔木の花(暁子)
選者吟
初蝶のまづ花びらのやうに飛ぶ 幹三
子の欠伸母にうつりて蝶の昼
風船に頭痛薬の名書かれをり
春昼のテレビは危機を報じをり 暁子
花馬酔木聞こえぬ鈴を振りつづけ
放したる蝶の鱗粉指にあり
選者選
幹三選
◎息太き父の出番やゴム風船 輝子
風船のやうな顔して風船吹く 安廣
◎野に出でて空の音きく春の昼 邦夫
初蝶の右に左に迷ひたり 遊子
春の昼催眠術と青空と 橙
羽先まで命の充ちて蝶孵る 安廣
ミッキーの耳の伸びゆくゴム風船 正信
◎電線に赤き風船暮れなづむ かな子
◎別の世へ誘ふか蝶のまとはりて 暁子
春昼や庭にけだるき鳩の声 太美子
空を飛ぶ恋人の手に蝶生まる 昴
乳母車風船握りさあ発車 りょう
◎初蝶やふわっふわっと風のまま りょう
風船を結んで蛸をつくりたる 言成
◎見つめゐしはずの風船もう見えぬ 輝子
輪になつて踊る乙女ら馬酔木咲く 昴
青空を縺れゆきたり紋白蝶 邦夫
纏ひつく蝶に童の弾みをり 洛艸
風船をキュッと鳴らせば鉢巻きに 乱
春の昼美容師の口よく動く 輝子
幹三特選句講評
・息太き父の出番やゴム風船 輝子
肺活量を頼られているお父さんの笑顔。春の家族の団欒が伝わってくる。
・野に出でて空の音きく春の昼 邦夫
空の音が聞きたくなるのは、どこかけだるさがある昼のせいであろうか。外出自粛の折、特に心に響いた句。
・電線に赤き風船暮れなづむ かな子
それは春の昼間の出来事。その時べそをかいた子どもは、もう風船のことは忘れたであろうか。やがて風船の色も闇に包まれる。
・別の世へ誘ふか蝶のまとはりて 暁子
あの現れ方、飛び方は確かに異次元空間から来たよう。作者はその蝶に選ばれたのであろうか。
・初蝶やふわっふわっと風のまま りょう
蝶に生れてまだ飛び方が確としていない。行き先のあてもない。そんな様子をじっと見ているのも春のひとときなのである。
・見つめゐしはずの風船もう見えぬ 輝子
どこまで昇っていくのであろう。見える間は未練もあったが、実は風船はもともと天のものであったのではないか、と考えてみたりする。
暁子選
コロナ禍で身をもて余す春の昼 洛艸
丈低き花に寄り添ふシジミチョウ 眞知子
息太き父の出番やゴム風船 輝子
風船のやうな顔して風船ふく 安廣
野に出でて空の音きく春の昼 邦夫
春昼や片手まくらに眠る猫 茉衣
鈴鳴らせ白寿の祝花馬酔木 兵十郎
流刑地の墓碑凭れあふ蝶の昼 正信
◎初蝶のまづ花びらのやうに飛ぶ 幹三
赤いハートふはりふはりと風船屋 太美子
◎嬉々と戯る蝶々に声あれば 太美子
歓喜天酔はす寺苑の花馬酔木 言成
◎風船に頭痛薬の名書かれをり 幹三
風船と明日を約束嬰眠る 翠
透きとほる小えび岩間に春の昼 安廣
言祝がむ俳兄白寿春日燦 瑛三
籠る日の鬱に風船割れるかも 和江
てふてふの小さき渡船追ひて舞ふ かな子
風船をリュックにつけて飛んでみる 兵十郎
放たれて自由と不安知る風船 眞知子
乳母車風船握りさあ発車 りょう
◎アサギマダラ印をつけて旅立てり 朱美
子の欠伸母にうつりて蝶の昼 幹三
友好の種の風船空高く 和江
海峡を渡る蝶あり今日も又 眞知子
初蝶の黄のいでたちの凛々しかり 瑛三
◎国宝の塔見ゆる径花あしび 輝子
◎そつと突き紙風船を雲に乗す 昴
春の昼美容師の口よく動く 輝子
暁子特選句講評
・初蝶のまづ花びらのやうに飛ぶ 幹三
ひらひらとおぼつかなく飛びはじめた蝶を、恐らくは桜であろう、舞いながら散り来る花びらに例えられた。
・喜々と戯る蝶々に声あれば 太美子
「戯る」が終止形になっているので、ここで切れるのか、或いは「戯るる蝶々」を略されたのか、一寸わかりかねるが、もし蝶に声あればどんな音色で啼くのだろうかと想像するだに楽しい。
・風船に頭痛薬の名書かれをり 幹三
今でも置き薬屋さんが廻ってくるが、昔は子どもがいると、宣伝用の風船をくれた。現在は薬局で貰えるのかもしれない。風船の句として変わった切り口。
・アサギマダラ印をつけて旅立てり 朱美
浅黄斑は大型の蝶。その翅に印をつけて分布を調査する様子かと思う。珍しいところに目を止められた。
・国宝の塔見ゆる径花あしび 輝子
馬酔木といえば奈良を思う。その奈良の象徴的な風景を描かれた。
・そつと突き紙風船を雲に乗す 昴
紙風船を静かに突いて、雲にふわっと乗せるというファンタジー。