top of page

第652回 令和3年10月31日

大阪城吟行
 ドーンセンター地下1階多目的室
出席者

 瀬戸幹三・山戸暁子・植田真理

 鈴木輝子・鈴木兵十郎・寺岡翠

 東中乱・宮尾正信・向井邦夫


 新型コロナウイルスの為、吟行会は企画すれども開催されずとの2年間となりました。漸く、ワクチンの2回接種、緊急事態宣言の解除、新規感染者数の激減との状況となり、待望の吟行会の開催となりました。広大な大阪城公園を心置きなく歩き回り、歴史に触れ、句作に耽る楽しい時を過ごす事が出来ました。普通の事を普通に出来る喜びを満喫した一日でした。

 

選者吟
すれ違ふ人しづかなり秋の雨     幹三
色鳥と十尺ほどに間を詰めぬ
鯱鉾の金色に秋時雨かな
人避けて音を楽しむ落葉径      暁子
登城坂落葉踏みつつ遅れゆく
紅葉の濠を巡れる金の船
      
幹三選
昨夜の雨残る巨城の落葉かな     正信
◎天守より四方を望み秋惜む     邦夫
秋水の絶えざる井筒鳩憩ふ       翠
先陣の鴨の来てをり堀静か      輝子
銃眼を覗けば濠の葛ばかり       乱
◎人避けて音を楽しむ落葉道     暁子
秋深む堀に悠々ヌートリア      輝子
◎冬めくや家紋消えざる城の石    正信
刻印の残り石行く石たたき     兵十郎
秋晴や古城に響く竹刀の音      真理
対岸に石蕗の群れ咲くひとところ   暁子
◎池静か天守逆さに小鳥来る      翠
◎雨降れば雨の香りや金木犀    兵十郎
◎紅葉の濠を巡れる金の船      暁子
城めぐるバスは満載秋うらら     輝子
選挙終へ銀杏黄葉に人集ふ      邦夫
亀浮きし濠に着水初の鴨      兵十郎
切り裂きぬ逆さ天守を鴨の水脈   兵十郎
登城坂落葉踏みつつ遅れゆく     暁子

幹三特選句講評

・天守より四方を望み秋惜む     邦夫
 殿様の気分である。空を山を川を、そして人の世を見て秋の行くことを思うのである。

・人避けて音を楽しむ落葉道     暁子
 厭世的ではあるが、休日の大阪城公園の人出を避けたい気持ちは分る。自分が立てる自分だけの音、自分だけの秋でもある。

・冬めくや家紋消えざる城の石    正信
 何百年も前のこと、家紋を彫った人彫らせた人にはどんな思いがあったのであろう。その石も冷え冷えとする冬が近い。

・池静か天守逆さに小鳥来る      翠
 中七での展開が肝。きらびやかな大阪城天守と可愛い小鳥の渡り来る取り合わせが実にいい。

・雨降れば雨の香りや金木犀    兵十郎
 秋の空間を支配するような香りである。その 金木犀に雨の日は雨の日ならではの香りがあると言う。ほんとかなぁ?と思わせるところも心憎い。

・紅葉の濠を巡れる金の船      暁子
 観光地の観光船。しかしこういう風に詠まれ るとあでやかでゴージャスな感じがする。この日の吟行の鮮やかな記憶である。


暁子選
供華に菊加へ淀君自刃の碑     兵十郎
◎天守より四方を望み秋惜む     邦夫 
秋水の絶えざる井筒鳩憩ふ       翠
先陣の鴨の来てをり堀静か      輝子
石垣の弾痕丸し草紅葉       兵十郎
綿虫や城に機銃の掃射痕       正信
水澄みて客を待ちたる屋形船     真理
◎自刃せし母と子の碑に秋惜む     乱
色鳥と十尺ほどに間を詰めぬ     幹三
冬めくや家紋消えざる城の石     正信
◎秋晴や古城に響く竹刀の音     真理
秋驟雨爆撃跡に茂る木々       真理
鎮魂の森を秋風吹きぬけり      真理
◎城巡る深き秋思に身を任せ      乱
◎空堀は葛の天下や大阪城       翠
亀浮きし濠に着水初の鴨      兵十郎
切り裂きぬ逆さ天守を鴨の水脈   兵十郎
自刃の地寂しき彩に石蕗咲ける    輝子

 

暁子特選句講評

・天守より四方を望み秋惜む     邦夫
 朝出かけるときはまだ小雨が降っていたが、やがて晴れてきた。遥かに山脈、手前に広がる積木のようなビル群、間近には公園の紅葉。十月最後の日曜日、存分に秋を惜しまれたであろう。

・自刃せし母と子の碑に秋惜む     乱
 豊臣秀頼とその母淀君は落城直後に自刃した。大阪城裏のその場所に碑がある。菊が供えられ、周りには落ち葉。しみじみと去り行く秋を惜しまれたのであろう。

・秋晴や古城に響く竹刀の音     真理
 公園内に大阪市立修道館があり、柔道、剣道、薙刀の鍛錬の場になっている。公園では剣道着姿や薙刀を持った若い人たちに出会った。城と若者の対比、明るい未来が感じられる。

・城巡る深き秋思に身を任せ      乱
 やや下火になったとはいえ、コロナ禍に喘ぐ今年の秋は思うことが多々ある。晩秋の城という背景の生きた句。

・空堀は葛の天下や大阪城       翠
 歩けない私はどこへも行けず、一番近い、秋水を湛えた濠しか見ることが出来なかったが、石垣にとりついている葛の勢いは見た。従ってこの情景は想像できる。「天下や」という措辞が何となく秀吉と響き合う。

  
互選三句
邦夫選
鎮魂の森を秋風吹きぬけり      真理
名城の巨石の罅や蔦の蔓       正信
供華に菊加へ淀君自刃の碑     兵十郎
 供華は絶えることはないが菊は淀殿にふさわしい。


輝子選
秋雨のあがるや薄き影生まる     幹三
森の熊さんホームに紅葉かつ散れり   翠
銃眼を覗けば濠の葛ばかり       乱
 戦うことのむなしさ。そう城は戦のためのものだった。

兵十郎選
綿虫や城に機銃の掃射痕       正信

水澄みて客を待ちたる屋形船     真理
蛸石を押してみる子や蚯蚓鳴く    幹三
 蛸石を押したら蚯蚓が鳴いたという意外性。


正信選
雨水を心ゆくまで吸ふ落葉      暁子
空濠の底を飛びゆく秋の蝶      幹三
蛸石を押してみる子や蚯蚓鳴く    幹三
 子供の愉快な行動と下五の取り合わせが面白い。


真理選
銃眼を覗けば濠の葛ばかり       乱
蛸石を押してみる子や蚯蚓鳴く    幹三
名城の巨石の罅や蔦の蔓       正信
 巨石に刻まれた年月が胸に迫ります。


翠選
天高し天守のはるか航空機      真理
空堀の日を照り返し荻の風      正信
切り裂きぬ逆さ天守を鴨の水脈   兵十郎

 うまい一瞬をとらえられました。


乱選
切り裂きぬ逆さ天守を鴨の水脈   兵十郎
登城坂落葉踏みつつ遅れゆく     暁子
空堀は葛の天下や大阪城        翠
 往古は大事だった濠も今は葛が支配。「天下」が利いている。

 

自選句
天守より四方を望み秋惜む      邦夫
雨空堀の日を照り返し荻の風     正信
秋晴や古城に響く竹刀の音      真理
天高く人影小さし大阪城        翠
桜紅葉櫓の下に穏やかに        乱

bottom of page