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第673回 令和5年4月30日 吟行


会場  京都市国際交流会館交流サロン

吟行地 南禅寺・南禅院・水路閣 
 新緑の東山に抱かれた南禅寺界隈を吟行地として各自それぞれ散策した。雨は朝方に止み、快晴とは言えなかったが、まずまずの天候だった。堂内も新緑に満ち、随所に「緑立つ」景が見られた。南禅寺では、小堀遠州作庭の方丈庭園で瞑想し、渡り廊下で若葉風に吹かれた。交流サロンはゆったりとしたきれいな部屋で、窓外には池泉を中心とした庭が広がっていた。

参加者 瀬戸幹三・山戸暁子・鈴木輝子

    鈴木兵十郎・寺岡翠・東中乱

    向井邦夫(計7名)

  
選者吟
三門の柱抱へて春惜む         幹三
直角に曲る疎水や夏近し
石垣にからだあづけて春愁ふ
庭新樹異国の人も靴脱ぎて       暁子
葉桜の下闇匂ふ湿りかな
明るさを池に広げる若楓
 
幹三選
松の花なべて天指す禅の寺        乱
水路閣ひかる新樹を貫けり       邦夫
葉桜の下闇匂ふ湿りかな        暁子
◎明るさを池へ広げる若楓       暁子
◎春深し太き柱にあるむかし      輝子
三門に異人と話し春惜む         乱
三門へ導く道や椎の花        兵十郎
列柱に湿り残して春の雨        輝子
法堂へ左右の新樹の石畳        邦夫
春惜しむ一人で知らぬ道歩き      暁子
増水の疎水に二羽の残り鴨       輝子
禅の寺吟行ゆるり暮の春         乱
ねじりまんぽ抜け吟行へ新緑へ      乱
南禅寺藤咲き満つる高処かな      邦夫
石庭に心字描きて松緑          翠
◎大寺の石段険し松の花        輝子
囀や石庭に人黙しをり          翠
◎老鶯の息づかひさへ庭の黙       乱
庭新樹異国の人も靴脱ぎて       暁子


幹三特選句講評

・明るさを池へ広げる若楓       暁子
 初夏の景である。若楓の枝が水面に向かって伸びている。そのさまを明るさを広げていると表現したことは秀逸。「広げる」は葉の形・成長も連想させる。


・春深し太き柱にあるむかし      輝子
 創建の時からずっと三門を支えてきた柱である。さまざまな思いを胸に何人の人間がこの門をくぐったことであろう。そんなことを思う暮春である。


・大寺の石段険し松の花        輝子
 何の誇張も修飾も言い換えもない、筋肉質の句とでも言おうか。それ故に景がクリアに見える。寺と石段と松の花、それぞれが自然にうまく取り合わされている。


・老鶯の息づかひさへ庭の黙       乱
 大きく息を吸い、吐くことでウグイスは鳴いている。その息づかいを思うような静けさである、と。「さへ」の使われ方がやや曖昧であるがよく「老鶯」が効いている。


暁子選
松の花なべて天指す禅の寺        乱
水路閣ひかる新樹を貫けり       邦夫
黒揚羽出入りしてゐる金地院      幹三
春深し太き柱にあるむかし       輝子
新緑の隙間に赤き水道橋         翠
◎膝ほどの松に花咲く南禅寺     兵十郎
直角に曲る疎水や夏近し        幹三
◎増水の疎水に二羽の残り鴨      輝子
極楽へ渡り廊下を若葉風         乱
◎苔むせる枝池の上へ花楓      兵十郎
禅寺に摘み残されし母子草       輝子
井守ゐて人の流れの滞る        輝子


暁子特選句講評

・膝ほどの松に花咲く南禅寺     兵十郎
 三門に向かう参道の両側につんつんと立つ松の花が目についた。それがうんと背の低い松にも見られたという発見。松の花は新芽の頂に二、三個の雌花をつけ、その下に沢山の雄花をつける。つまり雌雄同株の花で、この雄花から花粉が飛び散り、辺りが黄色くなるほどである。従って「松の花」を詠んだ句は花粉が散るというのが多い。

・増水の疎水に二羽の残り鴨      輝子
 吟行の前夜から当日の朝まで雨が降っていた。そのせいの増水か。私は残念ながら実景を見ていないが、「残る鴨」は三月の季題「引鴨」の傍題である。四月の末になっても帰らない鴨もいる。寂しいが二羽というのが救いである。

・苔むせる枝池の上へ花楓      兵十郎
 暗紅色の小花をつけた楓の若葉が池の面に水平に延びて、さみどりの影を映している。その木の枝は苔むしているというからかなり古木であろう。楓の花はやがて翅のような実となり、風に乗って飛散する。「池の上」は「池のへ」と読むのだろう。

 

互選三句

 

邦夫選
昨夜の雨石楠花崩れ散る無残      輝子
京薄暑四肢たくましき異国人      暁子
新緑の隙間に赤き水道橋         翠
 初夏の木の葉の緑と古い水路閣の薄れた赤の対称。

輝子選
石垣にからだあづけて春愁ふ      幹三        
我が眉の高さに揺るる若楓       幹三
囀や石庭に人黙しをり          翠
 石庭の縁に座す人は皆無口。それぞれ深く思うのだ。

兵十郞選
葉桜の下闇匂ふ湿りかな        暁子  
明るさを池へ広げる若楓        暁子
囀や石庭に人黙しをり          翠 
 石庭では囀がよく聴こえる。皆黙っているからだ。

    

翠選
三門の柱抱へて春惜む         幹三
明るさを池へ広げる若楓        暁子
舟だまり渦をかすめて燕の子     兵十郎
 一瞬をとらえられた。        

 

乱選
昨夜の雨石楠花崩れ散る無残      輝子
花菖蒲インクラインの夢の跡      輝子
囀や石庭に人黙しをり          翠
 禅寺の庭で囀る小鳥、押し黙る人間。対比やよし。

参加者自選句 

水路閣ひかる新樹を貫けり       邦夫      
禅寺に摘み残されし母子草       輝子
膝ほどの松に花咲く南禅寺      兵十郎
石庭に心字描きて松緑          翠
松の花なべて天指す禅の寺        乱

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