top of page

第651回 令和3年10月18日      
    

例会は、コロナによる緊急事態宣言が9月末日をもって解除されたため、会員の投句から成る「清記」を材料にして大阪俱楽部で行なわれました。


出席者

 瀬戸幹三・山戸暁子・覚野重雄

 鈴木輝子・鈴木兵十郎・瀬戸橙

 寺岡翠・宮尾正信・山田安廣
投句者

 植田真理・碓井遊子・草壁昴

 西條かな子・鶴岡言成・中嶋朱美

 中村和江・西川盛雄・根来眞知子

 東中乱・東野太美子・平井瑛三

 向井邦夫・森茉衣
出席者9名+投句者14名  計23名


兼題

 豊の秋・鶺鴒(幹三)

 小鳥来る・藪虱(暁子)

 当季雑詠 通じて8句

 

選者吟
笑ふ子の生え初めし歯や豊の秋    幹三
ゆつくりと歩めぬ鳥よ鶺鴒よ      
小鳥来る母の日記を読みをれば        
ほんのりと赤き脚して小鳥来る    暁子
鶺鴒の来てをり静寂乱さずに  
探検の子らはどこまで藪虱   

 
幹三選 
怒涛へと棚田千枚豊の秋       正信
◎鶺鴒に逢う町に住む風きよく    朱美
◎草じらみ意志持つごとくしっかりと

                 眞知子
せきれいの急いでいるかいないのか   橙
鶺鴒のさも忙しなき河原かな    かな子
ほんのりと赤き脚して小鳥来る    暁子
秋の暮うす紅色になびく空      茉衣
恐るべき吾子の食欲豊の秋      真理
楽しげに小鳥来てゐる帰宅かな   太美子
行合の空の彼方を小鳥来る     かな子
◎独り笑ひして取つてをり藪虱    輝子
農終へて静まる里や豊の秋      和江
ビル街の鶺鴒あどけなく鳴けり    真理
空を行く白雲に聞く秋の聲      言成
鵯去りて庭の静けさ深まりぬ    兵十郎
鶺鴒の来てをり静寂乱さずに     暁子
抜け道を来て背に袖に草じらみ    瑛三
鶺鴒に出会う楽しみ川歩道      茉衣
探検の子らはどこまで藪虱      暁子
◎石たたき横断歩道渡り切る    兵十郎
素粒子の講義の窓や銀杏散る     正信
◎過ちはこの一歩なり藪じらみ   兵十郎
丹波路は豊年の香に満ち溢る     邦夫
村はずれ遠き太鼓や豊の秋      安廣
長風呂の人心地あり鉦叩        橙
生駒嶺の雲の奥より小鳥来る     正信
開け放つ窓に小鳥や教会葬      暁子
◎母の手の中で剥かれしラフランス   橙
◎豊の秋棚田の底の老夫婦       翠
デパートで気付きし裾の藪虱     暁子
   
幹三特選句講評
・鶺鴒に逢う町に住む風きよく    朱美
 清潔で住みやすい町なのであろう。その町に沿って鶺鴒の棲む川がある。時折町中に姿を見せる日の風は決まって清々しい、そんな景が浮かぶ。

・草じらみ意志持つごとくしつかりと

                 眞知子
 しがみつくように、むしゃぶりつくように服の裾を離れないことを「意志」と見立てたのは面白い。いっしょに遠くまで連れて行ってくれと懇願しているようである。

・独り笑ひして取つてをり藪虱    輝子
 身に覚えがあるのであろう。どこでこの大量の藪虱をもらって来たのか。とってもとっても思わぬ所に付いている。もう笑うしかない。
 
・石たたき横断歩道渡り切る             兵十郎
  鶺鴒を車の多い交差点などで見かけるとハラハラする。しかし例の速足で以て無事道をわたり終えた鶺鴒…ほっとする作者の気持ちがよく分る。三段切れになるので上五は「せきれいの」としたい。

・過ちはこの一歩なり藪虱            兵十郎
  この道を行かなければ服のあちこちに藪虱を付けてしまうことは無かった、と平明に理解出来るが、人生の分岐点のことを言っているようにも思える。広い解釈の出来る句。

・母の手の中で剥かれしラフランス   橙
 剥きにくい洋梨を扱う母の手つきを見ていた思い出であろう。句の調べがとてもいい。「母の手」と「ラフランス」という言葉が心地よく響き合う。ラフランスの優しい曲線も思い浮かべられるのである。

・豊の秋棚田の底の老夫婦       翠
 「底」に棚田のボリュームを感じる。上から下まで、稲の匂いがする風景の中の老夫婦。長年働いて来た顔がほころんでいる。


暁子選
遺句刻む墓碑や小鳥の二羽三羽    輝子
出来秋のつづく車窓や伊勢詣    太美子
石庭の石を次々石叩き         乱
行合の空の彼方を小鳥来る     かな子
◎草じらみ放り出されし三輪車   眞知子
農終へて静まる里や豊の秋      和江
藪虱嫌だと逃げた児今五十      朱美
空を行く白雲に聞く秋の聲      言成
草じらみ買ひ替へやうか洗濯機   眞知子
庭に聞く小鳥の声も入れ替り     重雄
◎田に弾む三代の声豊の秋       乱
淀川の流れは速く秋の空       言成
気づかれず旅に出ました草じらみ  太美子
湯の町へ向かふ車窓や豊の秋     遊子
◎鶺鴒来古都の早瀬の石に沿ひ    正信
素粒子の講義の窓や銀杏散る     正信
鶺鴒や瀬を跳び瀬を越え瀬を上り    昴
丹波路は豊年の香に満ち溢る     邦夫
新築の槌音ひびく豊の秋       正信
山里は自給自足や豊の秋      兵十郎
小鳥来る母の日記を読みをれば     幹三
豊の秋棚田の底の老夫婦        翠
山の辺の無人売場の熟柿かな     正信

暁子特選句講評
・鶺鴒来古都の早瀬の石に沿ひ    正信
 一読情景が目に浮かぶ。作者はご自分の句の特徴を絵葉書俳句と謙遜されるが、決してそのようなことはない。この句も鳥が動き、水が動いている。漢字の並ぶ句であるが、調べがよいのでごつごつした感じはなく、柔らかい。

・草じらみ放り出されし三輪車   眞知子
 乗っていた子はどうしたのだろうと、読み手の想像が広がる。草じらみと三輪車から物語が紡げそう。

・田に弾む三代の声豊の秋       乱
 後継者問題が深刻な農業。三代が力を合わせて得た収穫の喜びの声が聞こえる。

*全体に季題に対してよく合うものを持ってくるという取り合わせの句が多かった。また逆に他の季題でも合う、所謂季題の動く句も見受けられた。作品の出来が平均していたので、特選句を選ぶのが難しく、3句に留めたことをお詫びいたします。


互選三句
朱美選        
空を行く白雲に聞く秋の聲      言成
箸持ちて寝入る子の肘藪虱       翠
草じらみ放り出されし三輪車    眞知子
 驚いてママの所に走る子の真剣な顔が目に浮かぶ。


瑛三選        
ほんのりと赤き脚して小鳥来る    暁子
田に弾む三代の声豊の秋        乱
笑ふ子の生え初めし歯や豊の秋    幹三
 楽しい句。孫は特に可愛ゆい。豊の秋にぴったりの句。


和江選        
豊の秋北上の地は広かりき     兵十郎
石たたき横断歩道渡り切る     兵十郎
ほんのりと赤き脚して小鳥来る    暁子
 「ほんのりと赤き脚」に小さな驚きと新鮮な季節感を。


邦夫選        
抜け道を来て背に袖に草じらみ    瑛三
鶺鴒来古都の早瀬の石に沿ひ     正信
嬉々として木の揺れてをり小鳥来る   橙
 「嬉々として木が揺れる」は新鮮。待望の小鳥の到来。

言成選        
月影を玉と抱ける心字池       遊子
青空に似あふ色なり豊の秋       橙
草むらに遊びし証拠藪しらみ     重雄
 ズボンについた草虱は藪で遊んで来た何よりの証拠だ。


重雄選        
里山に幟はためく豊の秋       盛雄
川を飛ぶせきれい川に映りをり    幹三
庭先のお茶の時間や小鳥来る     遊子
 なに気ない日常の楽しみと幸せ。


橙選        
空青く後ろ姿を見せる秋       言成
探検の子らはどこまで藪虱      暁子
草じらみ放り出されし三輪車    眞知子
 草虱がくっついたって全然へっちゃらの楽しい日々。


太美子選        
鶺鴒の来てをり静寂乱さずに     暁子
ピノキオを語る窓辺や小鳥来ぬ    安廣
たたなづく棚田黄金に豊の秋     安廣
 リズムが心地よく、いきいきと喜びを表現されている。


輝子選        
鵯去りて庭の静けさ深まりぬ    兵十郎
気づかれず旅に出ました草じらみ  太美子
ふいに鶺鴒が走り来て沸く始球式   盛雄
 こんなことがありそうな。こども会の大会だったかも。


兵十郎選        
独り笑ひして取つてをり藪虱     輝子
生駒嶺の雲の奥より小鳥来る     正信
今年また水禍の地あり豊の秋     瑛三
 自然との付き合いは難しいが水禍の後にも希望がある。


昴選        
息災と鶺鴒つつと伝へ来る      和江
藪虱埋もれて読めぬ道しるべ     輝子
草じらみ放り出されし三輪車    眞知子
 走り回っていたのが、今や草虱と格闘する子供の情景。


茉衣選        
草抜けば万両の実のまだ青く     言成
川を飛ぶせきれい川に映りをり    幹三
猫帰る藪虱つけ悠々と         翠
 澄ました顔で身体についたものを気にも留めず歩く猫。


正信選        
石庭の石を次々石叩き         乱
鶺鴒や車途切れし交差点        翠
箸持ちて寝入る子の肘藪虱       翠
 食欲に勝る程の遊びを堪能。肘の藪虱がその証拠。


眞知子選        
嬉々として木の揺れてをり小鳥来る   橙
コンバイン倉庫に憩ふ豊の秋     安廣
独り笑ひして取つてをり藪虱     輝子
 もう随分昔に私もそんな経験したなあと独り笑い。


真理選        
箸持ちて寝入る子の肘藪虱       翠
素粒子の講義の窓や銀杏散る     正信
湯の町へ向かふ車窓や豊の秋     遊子
 旅行に向かうわくわくした気持ちが湧き上がりました。


翠選        
草じらみ夕餉待ちかねせかす夫   眞知子
小鳥来る母の日記を読みをれば    幹三
独り笑ひして取つてをり藪虱     輝子
 ええ年して何やっててん?ひとり苦笑い。自分の経験です。


盛雄選        
癌の児の窓の小庭に小鳥来ぬ     安廣
四万十の浅瀬小走る石叩き      正信
陵に寄り添ふ畑も豊の秋      兵十郎
 古代からの御陵に寄り添う畑の実りの風景がいい。


安廣選        
鶺鴒の河原に彩を配りゆく      暁子
箸持ちて寝入る子の肘藪虱       翠
長風呂の人心地あり鉦叩        橙
 風呂に浸っていると鉦叩きの声がする。ほっとした満足感。


遊子選        
四万十の浅瀬小走る石叩き      正信
笑ふ子の生え初めし歯や豊の秋    幹三
田に弾む三代の声豊の秋        乱
 収穫に家族三代が協力しあう幸せ。その後の宴や団欒も。


乱選         
藪虱埋もれて読めぬ道しるべ     輝子
庭に聞く小鳥の声も入れ替り     重雄
清楚なる花の鬼子や草虱        昴
 対照的な「清楚」と「鬼子」が草虱を見事に捉えている。


参加者自選句
鶺鴒に逢う町に住む風きよく     朱美
今年また水禍の地あり豊の秋     瑛三
遠き日や老ひの背を超す草虱     和江
過疎の地も神はあまねく豊の秋   かな子
丹波路は豊年の香に満ち溢る     邦夫
草抜けば万両の実のまだ青く     言成
空高し我れ昇天の道の見ゆ      重雄
長風呂の人心地あり鉦叩        橙
楽しげに小鳥来てゐる帰宅かな   太美子
遺句刻む墓碑や小鳥の二羽三羽    輝子
豊の秋北上の地は広かりき     兵十郎
鶺鴒や瀬を跳び瀬を越え瀬を上り    昴
小鳥来る隣家の庭にわが庭に     茉衣
怒涛へと棚田千枚豊の秋       正信
草じらみ放り出されし三輪車    眞知子
恐るべき吾子の食欲豊の秋      真理
藪虱はたき思い出拾いをり       翠
里山に幟はためく豊の秋       盛雄
癌の児の窓の小庭に小鳥来ぬ     安廣
秋風に愛の琴弾くイラクリオン    遊子
石庭の石を次々石叩き         乱

哀悼

 浅野りょう様
10月5日、長い闘病生活の後、ご自宅でお亡くなりになりました。

一度も句会に出席されることは適いませんでしたが、毎月欠かさず投句をいただきました。

謹んでご冥福をお祈りいたします。
弔句をご霊前に捧げたいと思います。今月中にお寄せください。(輝子)

bottom of page