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第659回 令和4年5月16日      

例会は、4月の例会同様、会員の投句からなる「清記」を材料にして大阪俱楽部で行なわれました。


出席者

 瀬戸幹三・山戸暁子・鈴木輝子

 鈴木兵十郎・瀬戸橙・寺岡翠

 東中乱・東野太美子・  宮尾正信

 向井邦夫


投句者

 植田真理・碓井遊子・覚野重雄

 草壁昴・西條かな子・鶴岡言成

 中嶋朱美・中村和江・西川盛雄

   根来眞知子・平井瑛三・森茉衣

 山田安廣

  出席者10名+投句者13名 計23名


兼題

 豆飯・桐の花(幹三)

 新茶・若葉一切(暁子)

 当季雑詠 通じて8句


選者吟
桐の花しづかに空の動きをり     幹三
ひとまはりして来し鳶や谷若葉
豆ご飯宇宙の穴の話など       
シーソーの上がれば触るる若葉かな  暁子
椅子三つあちこちに向き若葉蔭
病床に秒針の音窓若葉

 
幹三選 
雨あがり若葉は光すかしおり     重雄
◎椅子三つあちこちに向き若葉蔭   暁子
豆飯の水玉模様喰うてみた       橙
母の日や母の写真に赤ワイン     茉衣
病篤き母にひと口豆の飯       輝子
桐の花うすれゆくもの皆愛し    眞知子
◎お代りの声にいそいそ豆ごはん  太美子
◎ひと山を覆ひて余る橅若葉    兵十郎
ほっこりと豆飯母の割烹着      盛雄
樗咲く昔を今と語るごと      かな子
◎円卓の二人の上の桐の花      邦夫
シーソーの上がれば触るる若葉かな  暁子
熱のある手にしつとりと若葉かな   真理
窓若葉はるかに海もきらめきて   太美子
◎ころがせる舌のうなづく新茶かな  邦夫
◎窓外の万緑襲ひ来るごとし     真理
若葉してまぶしき道を退院す     瑛三
新茶淹れ話題新茶に移りけり     輝子
海遥か煌めく峠桐の花         翠
新緑やキャンプ地からの子の便り  かな子
ふる里は若葉一切大和川       盛雄
夏座敷手毬のごとく猫眠る      盛雄
◎子供の日子に守られて退院す    瑛三
芭蕉読む一人新茶を濃く淹れて    安廣
新緑や長く大きな木の机        橙
沖縄の土産にバナナありしかな     橙
県境を越ゆる街道若葉風       輝子
   
幹三選句講評
・椅子三つあちこちに向き若葉蔭   暁子
 居心地のよさそうな場所である。先ほどまで三人連れがここでくつろいでいた「形跡」がある。このうちの一つの椅子に座ってみたいものである。

・お代りの声にいそいそ豆ごはん  太美子
 お母さんの嬉しそうな顔、動き、気持ちが伝わってくる。幸せってなんだっけ?というCMソングがあったが、まさにこれである。「ごはん」という表記もいい。

・ひと山を覆ひて余る橅若葉    兵十郎
 「余る」とはよくぞ言った、と。すっと出て来た言葉なのか、考えてたどりついたことばなのか、興味がある。もこもこの新緑の山が眼前に浮かぶ。

・円卓の二人の上の桐の花      邦夫
 俳句はぶっきらぼうに詠むのがいい、と師匠に教わった。卓の上に何があるのか、そもそも二人の関係は?年令は?すべて読者に任せられている。桐の花の高さが、さらに空間を広げている。

・ころがせる舌のうなづく新茶かな  邦夫
 擬人化はなかなかうまくいかないが「舌がうなづく」は納得できる。結局は舌の持ち主が頷いているのであるが。何よりも新茶がおいしそうに描けた。

・窓外の万緑襲ひ来るごとし     真理
 爽やかさ、若々しさという手垢のついた感覚を飛び越して「怖れ」に到達したことに脱帽。そう言いながらもこの季節を愛でているのである。「ごとし」の直喩がよく効いている。

・こどもの日子に守られて退院す   瑛三
 もうどちらが「子ども」なのか分らない。心の通い合うあたたかい風景に、爽やかな諧謔が仕込んである。退院の句は多いが、この作者ならではの個性・味がある。


暁子選
◎ひと山を覆ひて余る橅若葉    兵十郎
豆飯の塩気の湯気や日暮どき     真理
もうひと駅銀杏若葉の御堂筋      翠
ひとまはりして来し鳶や谷若葉    幹三
畝の豆つみし夕べの豆ごはん    眞知子
走り茶や知覧の兵士汲みたるか    遊子
天霧らふ山里の黙桐の花      太美子
紫の雨を落せり桐の花        安廣
亡き夫の郷より新茶今年また      翠
◎桐の花面ざし浮かぶ夕まぐれ   眞知子
初孫の恋人迎ふ新茶淹れ       安廣
窓若葉はるかに海もきらめきて   太美子
すずやかな朝や新茶の封を切る   かな子
ころがせる舌のうなづく新茶かな   邦夫
◎窓外の万緑襲ひ来るごとし     真理
刃物屋に刃物いろいろ走り梅雨    幹三
◎若葉してまぶしき道を退院す    瑛三
夏座敷手毬のごとく猫眠る      盛雄
芭蕉読む一人新茶を濃く淹れて    安廣
◎見上ぐるも吾に娘無し桐の花     乱
畦道の行く手遠くに桐の花      邦夫
栃若葉城下を巡るたらひ舟      遊子
日本海へ鯖街道は若葉道        乱

暁子特選句講評
・窓外の万緑襲ひ来るごとし     真理
 誰もがこの句のような一寸恐ろしいほどの新緑の勢いを感じられた経験をお持ちでしょう。「窓外の」は随分苦労された結果選ばれた表現かと察します。「万緑の窓より襲ひ来るごとし」では弱いでしょうか。


・若葉してまぶしき道を退院す    瑛三
 ご退院おめでとうございます。ご入院中の季節の移り変わりを詠まれた。病室を出るとすっかり若葉の季節になっていて、木々の緑が退院を祝福してくれているように感じられた。

・見上ぐるも吾に娘なし桐の花     乱
 かつて女の子が生まれると庭に桐の木を植え、その子が嫁入りするときに、その桐で箪笥や長持ちを作るという風習があった。作者は息子さんばかりなのであろうが、もし娘がいたらどうであっただろうなどと想像しながら立派な桐の木を見上げておられる。

・ひと山を覆ひて余る橅若葉    兵十郎
 橅は山地に群生する落葉高木で、樹高三十メートル、直径一、七メートルに達するものがあるという。雄大で美しい姿から森の女王と呼ばれている。上五中七でスケールの大きさを、下五で色彩を想像させる。

・桐の花面ざし浮かぶ夕まぐれ   真知子
 夕闇迫る頃、淡淡とした紫の花から浮かぶのはどなたの面影でしょうか。

互選三句
朱美選        
道譲り譲りて山頂若葉風        翠
庭中を新緑に染め雨上る       茉衣
初孫の恋人迎ふ新茶淹れ       安廣
 ドキドキわくわくの幸せなおばあちゃんにあやかりたい。


瑛三選        
論文を書き継ぐ夜の新茶かな     正信
花桐や村の外れの喫茶店        翠
豆飯の豆つまみ出す子もありて    暁子
 七才位まで豆は異物。私の様な子もいるのですね。


和江選        
ひとまはりして来し鳶や谷若葉    幹三
海遥か煌めく峠桐の花         翠
若葉してまぶしき道を退院す     瑛三
 久々の外気、きらめく若葉からも元気づけられ自宅へ。


かな子選        
新緑や長く大きな木の机        橙
豆飯よさう言ひ親に供へけり      乱
走り茶や知覧の兵士汲みたるか    遊子
 無残な特攻作戦、知覧に散った若い命を悼む。


邦夫選        
椅子三つあちこちに向き若葉蔭    暁子
退院の吾が家で汲める新茶かな    瑛三
豆飯よさう言ひ親に供へけり      乱
 私達も親と同じように毎年仏前に豆飯を供えています。
           
言成選        
雨あがり若葉は光すかしおり     重雄
色もよし湯気も香もよし豆の飯    輝子
庭中を新緑に染め雨上る       茉衣
 雨上がりの庭の新緑に改めて覚えた感動がよく伝わる。

重雄選        
豆飯の豆つまみ出す子もありて    暁子
紫の雨を落せり桐の花        安廣
豆飯のおにぎり三つのピクニック    昴
 夕べの豆ご飯を握って今日はピクニック、楽しいね。

橙選        
畝の豆つみし夕べの豆ごはん    眞知子
刃物屋に刃物いろいろ走り梅雨    幹三
お座敷に豆飯五膳運ばるる      邦夫
 仲の良い五人が豆飯を楽しみに集う幸せな時。


太美子選        
豆飯の水玉模様喰うてみた       橙
桐の花しづかに空の動きをり     幹三
ころがせる舌のうなづく新茶かな   邦夫
 一読して新茶の旨さが伝わってくる。

輝子選        
ひと山を覆ひて余る橅若葉     兵十郎
走り茶や知覧の兵士汲みたるか    遊子
豆飯の水玉模様喰うてみた       橙
 たしかに豆飯は水玉模様。意表を突く表現に脱帽した。

兵十郎選        
豆ご飯宇宙の穴の話など       幹三
桐の花しづかに空の動きをり     幹三
荘開けてうつし絵置きて若葉風   太美子
 山荘に遺影を置くと待っていたように風が吹き抜けた。

昴選        
豆ご飯昼の喧嘩のなかなほり     幹三
桐の花灯ることなき常夜灯      和江
鈴蘭の出会ひを遠く老ひたまふ   太美子
 幸運の鈴蘭を介した出会いの二人、老いて尚幸せである。


茉衣選        
海遥か煌めく峠桐の花         翠
古井戸に若葉影さし鯉二匹       昴
夏座敷手毬のごとく猫眠る      盛雄
 植木鉢やお鍋でまんまるく眠る子と比べて優雅な情景。

正信選        
豆飯の水玉模様喰うてみた       橙
病床に秒針の音窓若葉        暁子
シーソーの上がれば触るる若葉かな  暁子
 シーソーの動きに合わせリズミカルに揺れる若葉が愉快。

眞知子選        
シーソーの上がれば触るる若葉かな  暁子
窓外の万緑襲ひ来るごとし      真理
ころがせる舌のうなづく新茶かな   邦夫
 お茶好きだった父の新茶を味わう時の姿を思い出す句。

真理選        
本堂へ我が背を押せり若葉風     邦夫
栃若葉城下を巡るたらひ舟      遊子
洞塞ぐセメント朽ちて楠若葉     正信
 朽ちるセメントと鮮やかな若葉の対比が鮮烈です。


翠選        
頂きし新茶主が封を切る       輝子
桐の花しづかに空の動きをり     幹三
豆ご飯宇宙の穴の話など       幹三
 豆からブラックホールとはスケールが大き過ぎます。

盛雄選        
帰省子に合わせ豆飯スイッチオン    翠
子供の日子に守られて退院す     瑛三
シーソーの上がれば触るる若葉かな  暁子
 公園でシーソーの上った方が若葉に触れる一瞬がいい。


安廣選        
道譲り譲りて山頂若葉風        翠
豆飯や茶碗の底の豆の艶       正信
窓外の万緑襲ひ来るごとし      真理
 「襲ひ来る」と言う言葉に勢いのある新緑の力を感じる。


遊子選         
落城の哀史をよそに桐の花      輝子
豆ご飯昼の喧嘩のなかなほり     幹三
論文を書き継ぐ夜の新茶かな     正信
 新茶傍らに気分爽快、閃き弾む論文作業の姿が伝わる句。

乱選        
病床に秒針の音窓若葉        暁子
姉妹の桐の花咲く旧家かな      暁子
天寿とて短きいのち牡丹果つ    太美子
 牡丹を詠いつつも、華ある生を送った人への弔句とした。


参加者自選句
三杯目友の育てし豆のめし      朱美
子供の日子に守られて退院す     瑛三
祖祖父の馴れ初め辿る古茶新茶    和江
すずやかな朝や新茶の封を切る   かな子
ころがせる舌のうなづく新茶かな   邦夫
山々も庭木もなべて若葉色      言成
飯を炊く湯気に青き香豆ご飯     重雄
若葉して体ごと浸されてをり      橙
お代りの声にいそいそ豆ごはん   太美子
頂きし新茶主が封を切る       輝子
ひと山を覆ひて余る橅若葉     兵十郎
思い出の小道の空に桐の花       昴
金雀枝が語る王家の盛衰史      茉衣
退職の日の学食の豆御飯       正信
桐の花うすれゆくもの皆愛し    眞知子
熱のある手にしつとりと若葉かな   真理
亡き夫の郷より新茶今年また      翠
ほっこりと豆飯母の割烹着      盛雄
紫の雨を落せり桐の花        安廣
走り茶や知覧の兵士汲みたるか    遊子
桐の花一輪呉れし孫娘         乱


即吟 「金魚」を詠む  出題・幹三

玄関にすべて見てゐし金魚かな   幹三4
戻り来て先づ挨拶す金魚鉢     暁子3
我が庭や金魚の墓のあちこちに   邦夫3
見つめれば目の合うた気の出目金魚  橙3

 

おめでとうございます
更けてなほミューズ舞ひたり牡丹雪  遊子
 碓井遊子さんが俳句四季(月刊誌)の浅井慎平選で五月の特選句に選ばれました。

*来月から安廣さんに代表を務めていただきます。皆様、よろしくご協力くださいますようにお願いいたします。    輝子・邦夫

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