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第653回 令和3年11月15日      
    

例会は、コロナ禍も少々落ち着いて来たため会員の投句から成る「清記」を材料にして大阪倶楽部で実施されました。

席題による即吟も行われました。


出席者

 瀬戸幹三・山戸暁子・鈴木輝子

 鈴木兵十郎・瀬戸橙・寺岡翠

 東中乱・宮尾正信・向井邦夫

 山田安廣

投句者

 植田真理・碓井遊子・覚野重雄

 草壁昴・西條かな子・鶴岡言成

 中嶋朱美・中村和江・西川盛雄

 根来眞知子・東野太美子・平井瑛三

 森茉衣

出席者10名+投句者13名 計23名


兼題

 初時雨・水鳥(幹三)

 冬めく・落葉(暁子)

 当季雑詠 通じて8句
 卓上に 石蕗の花・藪柑子(即吟一句)


選者吟
話し出すやうに落葉の散り始む    幹三
鳥たちの鳴き止まぬまま初時雨
胸で水分けて水鳥泳ぎ来る
初時雨雲を縁取る光かな       暁子
水鳥の羽搏くときは口開けて  
初時雨宇宙より人帰還せり
 
幹三選 
水鳥の身を寄せ合ひて暮るる沼   かな子
逆光の夕日湖北の浮寝鳥      兵十郎
陽だまりに憩うて丸き浮寝鳥     安廣
水鳥の眠り早かり湖畔宿       瑛三
重き胎さすり帰路なりオリオン座   真理
初時雨祈る御堂の広さかな      安廣
◎橡落葉とは足音も大きくす    太美子
◎導かれゆく道すがら初しぐれ    盛雄
パン種の膨らみてきし初時雨      橙
水鳥の立ちて広がりゆく波紋     真理
◎水鳥の二三羽水に潜りたる     邦夫
音もなく遠嶺越え行く初時雨      昴
老犬の弱き遠吠冬めきぬ      兵十郎
寂聴がまた来るやうな秋暮かな    盛雄
◎赤き実のいよいよ赤く初時雨    暁子
初しぐれ洒落て小蓑をまとひたし    乱
松落葉気配も音も消して散る    眞知子
今年酒待ち焦がれたる顔揃ふ     遊子
◎水鳥の胸に泥付け帰り来ぬ    兵十郎
落葉積む階の果て西行堂        翠
◎水鳥の羽搏くときは口開く     暁子
◎音も無く森奔り行く初時雨     安廣
冬めくや橋の袂の屋台の灯      正信
小さな目の海豚に見つめられに行く   橙
水平線越えて岬に冬来る       正信

幹三特選句講評

・橡落ち葉とは足音も大きくす   太美子
 秋の森を歩く楽しさが伝わる。落ち葉を踏む自分の足が大きな音を立てた。どうしたのか?その答が句になった。

・導かれゆく道すがら初時雨     盛雄
 どこへ誰と行くのであろう。連れて行かれているようにも、案内されているようにも思える。冬の始まりを告げる雨がなんだか不安。ミステリアスなトーンが初時雨らしい。

・水鳥の二三羽水に潜りたる     邦夫
 淡い水彩画のような冬の池の景。何を見るでもなく散策していると波紋がいくつかできた。たぶん鳥 が潜ったのであろう…俳句の妙はやはり軽みにある。


・赤き実のいよいよ赤く初時雨    暁子
 時雨の暗さも含めて、初冬の色を感じる句。この句も軽々としている。軽く作るほど余白ができ、読 者の心の中に入っていく。命や生きざまを詠むとそうはいかない。


・水鳥の胸に泥付け帰り来ぬ    兵十郎
 水鳥の搏くときは口開く      暁子
 どちらの句も水辺で水鳥をよく見ていた人の句である。

 1句目、何があったのか、なぜ帰って来たと思ったのか、とにかく白い羽根が汚れているのである。

 2句目、気が付かなかった。確かに大きくはばたく時、水鳥たちは口を開けているように思う。喜びのようにも、決意の叫びのようにも思える。


・音もなく森奔り行く初時雨     安廣
 森に降る雨には音がある。ところが音を立てる間もなく駆け抜けて行くような雨、それが初時雨である。初時雨の速さ、消滅していく様子がよく描かれている。

暁子選
ひかりつつ樹々の間に消ゆ初時雨  太美子
紅淡き夕雲流れ冬めきて        乱
◎冬めくや始発バス待つビルの底   正信
水鳥の眠り早かり湖畔宿       瑛三
日差しあれど耳元の風冬めきて     乱
落葉踏む音は彼奴や待ち人の     重雄
冬めくや経過観察落ち着かず    眞知子
水鳥の一気に飛ぶも水静か      言成
大楠の瘤に脂透く初時雨       正信
借景の山駆け降り来初時雨     兵十郎
陵の濠に水鳥争はず         輝子
水鳥をのせ湖中句碑暮れゆける   太美子
◎音もなく遠嶺越え行く初時雨     昴
冬めくや廃船洗ふ波高し       安廣
登り詰む西行堂の初時雨        翠
無窮動奏でるごとく散る落葉    眞知子
行く手には冬めく雲をおく車窓   太美子
初しぐれ縁側借るや落柿舎に      乱
初しぐれ我が名を刻む墓標にも   かな子
◎落葉積む階の果て西行堂       翠
初時雨上り薄日の青畝句碑       翠
水鳥の騒めき始む午前五時      輝子
◎暁のうねる海刺す尾白鷲      正信
◎小さな目の海豚に見つめられに行く  橙

暁子特選句講評

・冬めくや始発バス待つビルの底   正信
 日々の通勤、出張、帰郷、旅など様々な状況が想像される。長距離バスターミナルかもしれない。冬のはじめの早朝、まだ動き出す前の都会の侘しい感じがよく出ている。

・音もなく遠嶺越えゆく初時雨     昴
 日本画のような無音の遠景を静かに眺めておられる作者。


・落葉積む階の果て西行堂       翠
 西行法師終焉の地、南河内の広川寺であろう。桜の名所として有名で、大阪みどりの百選に選定されているから、さぞ今頃は落葉が多いことだろう。堂から墓所までは更に登りが続いたように記憶している。


・暁のうねる海刺す尾白鷲      正信
 夜明け、尾白鷲が魚を見つけて急降下する様を「海刺す」と表現された。


・小さな目の海豚に見つめられに行く  橙
 「小さな目」の与えてくれる大きな癒し。


互選三句
朱美選        
ひかりつつ樹々の間に消ゆ初時雨  太美子
風の来て落葉蹴り行く御堂筋     安廣
初時雨雲を縁取る光かな       暁子
 降り始めたばっかりの空、雲、情景が目に浮かびます。


瑛三選        
曲芸の猿の背に降る落葉かな     正信
初時雨前垂れ濡るる六地蔵      輝子
安土なる夢の城址や冬の虹      遊子
 一瞬の光芒。信長の城も冬の虹のごとく消え。


和江選        
初時雨祈る御堂の広さかな      安廣
一枚の帆布の如し冬の空       幹三
橡落葉とは足音も大きくす     太美子
 バサッと落ちる橡枯葉、グシャと踏むには心決めてから。


かな子選        
初時雨無人販売早終ひ        輝子
初時雨前垂れ濡るる六地蔵      輝子
初時雨宇宙より人帰還せり      暁子
 情緒ある美しい季語と科学の粋の取り合わせの妙。


邦夫選        
初時雨無人販売早終ひ        輝子
冬めくや愛用茶碗手が滑り      和江
落葉籠あふるる嵩の軽きかな     輝子
 特に雨の少ない地域では落葉は軽く集めるのが楽しい。


言成選        
地に返す命抱きて散る落葉     眞知子
赤き実のいよいよ赤く初時雨     暁子
落葉径足音だけを道連れに      輝子
 落葉を踏む音を楽しみながら、独り行く作者の心理。


重雄選        
パン種の膨らみてきし初時雨      橙
音もなく遠嶺越え行く初時雨      昴
初時雨祈る御堂の広さかな      安廣
 さみしさ、静けさが出ています。


橙選        
冬めくや廃船洗ふ波高し       安廣
うひうひしこれより山茶花の日々に 太美子
鳥たちの鳴き止まぬまま初時雨    幹三
 お喋りに夢中な鳥達が気づかないふわっとした時の流れ。

太美子選        
京の京らしうなりけり初時雨     幹三
暁のうねる海刺す尾白鷲       正信
老犬の弱き遠吠冬めきぬ      兵十郎
 来るべき厳しい冬を無事越えて欲しい祈り切なり。


輝子選        
借景の山駆け降り来初時雨     兵十郎
話し出すやうに落葉の散り始む    幹三
重き胎さすり帰路なりオリオン座   真理
 女性にしかわからない句。疲れと寒さが伝わってくる。


兵十郎選        
橡落葉とは足音も大きくす     太美子
小さな目の海豚に見つめられに行く   橙
暁のうねる海刺す尾白鷲       正信
 「海を刺すような眼差」が鷲の強さを引き出している。


昴選        
風の来て落葉蹴り行く御堂筋     安廣
背の丸き媼グループ冬めきぬ     輝子
借景の山駆け降り来初時雨     兵十郎
 遠くからあっという間にやって来る初時雨の臨場感。

茉衣選        
庭に敷く錦の衣柿落葉       兵十郎
日々変る庭木それぞれ冬めきぬ    言成
赤き実のいよいよ赤く初時雨     暁子
 寂しく色あせた冬の庭を彩る赤い実が時雨に濡れて光る。


正信選        
初時雨雲を縁取る光かな       暁子
行く手には冬めく雲をおく車窓   太美子
太腿に犬を寝かせて冬めける      橙
 犬の体温(暖かさ)より冬を感じとる精細な神経と描写。


眞知子選        
初しぐれ縁側借るや落柿舎に      乱
京の京らしうなりけり初時雨     幹三
落葉踏む音はあやつや待ち人の    重雄
 嬉しいんだけどちょっと拗ねてるしんどい人ね。


真理選        
冬めくや橋の袂の屋台の灯      正信
皇帝ダリア冬めく空に勇み立つ     翠
冬めくや始発バス待つビルの底    正信
 都会の朝のひとときの清浄な空気を感じました。

翠選        
パン種の膨らみてきし初時雨      橙
背の丸き媼グループ冬めきぬ     輝子
初時雨宇宙より人帰還せり      暁子
 まさに時宜を得た句。平凡な日常と最先端の取合せ。


盛雄選        
陵の濠に水鳥争はず         輝子
水平線越えて岬に冬来る       正信
逆光の夕日湖北の浮寝鳥      兵十郎
 逆光の赤い夕日に浮かぶ浮寝鳥のシルエットが美しい。


安廣選        
水鳥の一気に飛ぶも水静か      言成
冬めくや転寝に布掛くる手も      乱
冬めきて手の甲に風触れてゆく     橙
 手の甲の感じを風が「触る」と表現。皮膚感覚を感じる。


遊子選        
水鳥の身を寄せ合ひて暮るる沼   かな子
初しぐれ縁側借るや落柿舎に      乱
借景の山駆け降り来初時雨     兵十郎
 山が借景の庭。時雨が駆け降り来て静から動へと変る妙。


乱選        
結界の落葉転生の眠りかな      瑛三
日々変る庭木それぞれ冬めきぬ    言成
うひうひしこれより山茶花の日々に 太美子
 山茶花の咲いた日と、咲き続ける日々を喜ぶ句。


参加者自選句
晴天に花への返礼落ち葉掃く     朱美
松のみな腰に菰巻き冬めける     瑛三
昆虫館落ち葉の溝に飛び込む児    和江
初しぐれ我が名を刻む墓標にも   かな子
いきなりの森の落葉の走り音     邦夫
風に舞ひ日に輝いて落葉かな     言成
水鳥もねぐらへ急ぐ池の夕      重雄
パン種の膨らみてきし初時雨      橙
橡落葉とは足音も大きくす     太美子
初時雨前垂れ濡るる六地蔵      輝子
逆光の夕日湖北の浮寝鳥      兵十郎
祇王寺の灯り悲しき落葉かな      昴
おとうとの葬送かなでる初時雨    茉衣
冬めくや始発バス待つビルの底    正信
冬めくや経過観察落ち着かず    眞知子
水鳥の立ちて広がりゆく波紋     真理
落葉積む階の果て西行堂        翠
寂聴がまた来るやうな秋暮かな    盛雄
音も無く森奔り行く初時雨      安廣
マスターの隠しメニューや零余子飯  遊子
初しぐれ洒落て小蓑をまとひたし    乱

即吟の部
 句会の最後に卓上の石蕗の花と藪柑子を席題に、みんなで即吟会。甲乙つけがたい作品ができました。


◎老幹の瘤に凭れて石蕗の花   正信 5

石蕗の花の長さの花瓶かな    幹三 4
廃屋の裏一面の石蕗明り     暁子 4
うつむける吾を覗き込む石蕗の花 翠  4
藪柑子コロンと赤き身のこぼれ  輝子 4

  浅野りょう様 (10月5日逝去)

君在さでこの秋天の寂しさよ     暁子
句を残し紅葉とあそぶ風になる    朱美
白映える妻の見つけし実南天     和江
寅さんの如旅されるらむ秋天空   かな子
心ある哲学の徒の秋に逝く      邦夫
とらわれぬ句柄好もし秋のくれ    言成
金木犀より解き放たれし香のやうに   橙
行秋や待てど還らぬ下駄の音    太美子
友の行く径は紅葉に燃ゆるべし    輝子
秋深し隠岐を想ひて逝きし君    兵十郎
投句なき友の報聞く秋の暮      正信
秋空を飛魚となり逝きし君     眞知子
宍道湖に爽涼の風吹くやうに     幹三
見ゆなく逝かれし句友冬の雲      翠
君の魂還る宍道の秋桜        盛雄
引揚げの思い出語る仲なりし     遊子
天高し今聖賢と語るらむ        乱

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