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第647回 令和3年6月21日

6月の例会は、コロナによる緊急事態宣言がまん延防止等重点措置に切り替わって
さらに延長されたため、5月の例会と同じ方式の通信句会と致しました(全員5句出句)。


出句者

 瀬戸幹三・山戸暁子・浅野りょう

 植田真理・碓井遊子・覚野重雄・草壁昴

 西條かな子・  鈴木輝子・鈴木兵十郎

 瀬戸橙・鶴岡言成・寺岡翠・中嶋朱美

 中村和江・西川盛雄・根来眞知子

 東中乱・東野太美子・平井瑛三

 宮尾正信・向井邦夫・森茉衣・山田安廣
                 (計22名)


兼題

 藻の花・暑さ(幹三)

 黴・さくらんぼ(暁子)

 当季雑詠 通じて5句


選者吟 
かうやつて話す間も黴増えてをり   幹三
坪庭の火鉢の池の花藻かな    
暑き日の目に目薬をひとしづく
黴匂ふわが最後まで捨てぬもの 暁子
一事あり延ばせば暑くなるばかり
さくらんぼのやうな子の食ぶさくらんぼ

 

 
幹三選 
◎酒蔵の梁に住むてふ黴の声    兵十郎
黴にほふ藍商ひし作業小屋      和江
◎黴匂ふわが最後まで捨てぬもの   暁子
客待ちの駱駝寝そべる暑さかな    正信
◎几帳面な父と草笛吹いたこと     橙
せっかちに言伝て頼み去る暑さ    和江
藻花咲く里に旧友訪ね行く      安廣
◎乳飲み子を抱きて可愛き暑さかな かな子
勝手よのうチーズの青かび旨しとは   昴
小満や少し大きくなつた犬       橙
青田風余呉一周のツーリング    かな子
藻の花や水底に影揺れてをり     重雄
さくらんぼよもやま話ひとつづつ   和江
藻の花の揺れて川面の風光る     盛雄
目と鼻と手と舌愉しさくらんぼ    邦夫
さくらんぼのやうな子の食ぶさくらんぼ

                  暁子
◎父親の説教のごと目地の黴    かな子
◎帯締めて暑さに挑む心意気    りょう
退院の朝市に買ふサクランボ     遊子
藻の花に一粒の泡生まれけり     輝子
水軍の島に足留め梅雨しとど     遊子
さくらんぼ贈るよろこびありにけり 太美子
◎雨しとど頭蓋の黴びる心地あり   真理
藻の花や水の精なるひとに会ひ     昴
読むはずの読まねばならぬ本に黴   輝子
尺蠖の精一杯の速さかな        橙
黴びし豆腐蠢くやうに見えもして   安廣
    
幹三特選句講評
・酒蔵の梁に住むてふ黴の声    兵十郎
 黴の擬人化として「声」は面白い。囁くような、何かを示唆するような声でしょうか。なにせその蔵に何百年も生きているのですから。声くらいは出すでしょう。

・黴匂ふわが最後まで捨てぬもの   暁子
 捨てられないのはその物にまつわる記憶や思い出があるからであろう。その気持ちにも今や黴のにおい。そろそろ捨てたらどうか、と余計なことを思ったりした。

・几帳面な父と草笛吹いたこと     橙
 きちんと作り、丁寧に吹かないと草笛は鳴ってくれない。父上の人柄の思い出が遠くに聞こえる草笛から蘇って来たのである。座五は「吹きしこと」と。

・乳飲み子を抱きて可愛き暑さかな かな子
 もう久しく抱いていないが、嬰児独特の匂いと湿り気と体温を思い出す。「可愛き」が嬰児のみならず「暑さ」にもかかっているように思える設えが心憎い。

・父親の説教のごと目地の黴    かな子
 「くどい」「きりがない」「執拗」「念入り」ということであろうか。風呂掃除をしながら思う父のこと。ユーモアがあり父上との関係は良好、とお察しする。

・帯締めて暑さに挑む心意気    りょう
 きりっとして爽やかである。少々肩に力が入り過ぎていると思うが、そういう心持にさせるほどの暑い日であったのであろう。颯爽と歩く後姿が目に浮かぶ。

・雨しとど頭蓋の黴びる心地あり   真理
 同感できる諧謔。梅雨だけでなく、疫病のまん延による外出自粛があり心持は暗澹とするばかり。その気分は、まさに頭蓋に黴である。

 

暁子選 
老犬に生きているかと問ふ暑さ    輝子
酒蔵の梁に住むてふ黴の声     兵十郎
黴にほふ藍商ひし作業小屋      和江
◎青黴に命救われ今ここに     りょう
桜桃忌最後の佳編そつと撫で     真理
黴の香のチーズに合はせ貴腐ワイン  正信
◎家族揃ひ醤油に黴の生えし頃     乱
客待ちの駱駝寝そべる暑さかな    正信
飛び立ったはらぺこあおむし夏の宵  朱美
なよなよと靡く花藻の根は確と     翠
祇園へと花藻靡ける疎水かな     遊子
せっかちに言伝て頼み去る暑さ    和江
坪庭の火鉢の池の花藻かな      幹三
◎乳飲み子を抱きて可愛き暑さかな かな子
勝手よのうチーズの青かび旨しとは   昴
青田風余呉一周のツーリング    かな子
死のレース編み時を待つ女郎蜘蛛   真理
黒黴や住み心地良き老いの厨      翠
◎梅花藻咲く近江の里の水清し    瑛三
藻の花や野菜も鯉もこの水に    眞知子
暑さこぼす母なほ着物姿決め      乱
黴びやすき物を求める世となりぬ  太美子
水軍の島に足留め梅雨しとど     遊子
◎安曇野の無垢の流れの花藻かな   正信
雨しとど頭蓋の黴びる心地あり    真理
スコールに暑さの途切れカリブ海   重雄
チェリー売る少女フィヨルド渡船場   翠
読むはずの読まねばならぬ本に黴   輝子


暁子特選句講評


・青黴に命救はれ今ここに     りょう
 私には菌と黴の関係がよくわからなかったので調べてみた。「黴とは菌類の一部の姿を指す言葉」(グーグル)、「菌類のうちできのこを生じないものの総称」(広辞苑)
この句は抗生物質のペニシリンのことを詠んでおられるのだろう。黴が必ずしも悪者とは限らないことを詠まれた句に、チーズの句がいくつかあった。

・家族揃ひ醤油に黴の生えし頃     乱
 昔、醤油の上に白い黴が浮いているのが普通だった。あの頃は家族揃っていて賑やかだった。防腐剤の恐ろしさに「黴やすき物を求める世となりぬ」というどなたかのお句が生まれた。

・乳飲み子を抱きて可愛き暑さかな かな子
 嬰児の体温は高く、まるで火の玉を抱いているようだ。しかし可愛い。

・安曇野の無垢の流れの花藻かな   正信
・梅花藻咲く近江の里の水清し    瑛三
 どちらも地方名と清流を入れた爽やかな句だ。
 梅花藻は梅のような白い花を咲かせ、関西では滋賀県によく見られる。「梅花藻咲く」は連体形で「近江」にかかっているのか、或いは終止形で「咲く」で切れているのか、その場合「梅花藻や」と切るのとどちらが良いだろうか。

 

互選三句
朱美選        
老犬に生きているかと問ふ暑さ    輝子
藻の花と語らふやうに鯉行き来    暁子
几帳面な父と草笛吹いたこと      橙
 最近何故か父親の事が思い出され、この句に共感した。

瑛三選        
客待ちの駱駝寝そべる暑さかな    正信
青焼きの図面重なる黴の書庫     正信
退院の朝市に買ふサクランボ     遊子
 健康を取戻した喜びがさくらんぼに凝縮されている。

和江選        
老犬に生きているかと問ふ暑さ    輝子
読むはずの読まねばならぬ本に黴   輝子
花柘榴屋根から落ちることことり   茉衣
 「こと」「ことり」の二段に弾む快い音に惹かれます。


かな子選        
俸給日二パック買ふさくらんぼ   りょう
暑き日の目に目薬をひとしづく    幹三
黴匂ふ書架広辞苑第二版       瑛三
 使い慣れた広辞苑に対する深い愛が感じられる。


邦夫選        
家族揃ひ醤油に黴の生えし頃      乱
さくらんぼよもやま話ひとつづつ   和江
水中に風吹くやうに花藻揺る     幹三
 「風吹くやうに」という直喩が光る。清らかな水。


言成選        
藻の花と語らふやうに鯉行き来    暁子
藻の花に一粒の泡生まれけり     輝子
帯締めて暑さに挑む心意気     りょう
 和服で通した亡き母を彷彿とした。


重雄選        
老犬に生きているかと問ふ暑さ    輝子
黴匂ふ書架広辞苑第二版       瑛三
チェリー売る少女フィヨルド渡船場   翠
 なんとも淋しげな風景ですね。


橙選        
雀の子親を離れぬ暑さかな      言成
父親の説教のごと目地の黴     かな子
さくらんぼ店頭で聴く風の音     朱美
 さくらんぼを見ると揺れている気がするのが素敵。


太美子選        
黴匂ふわが最後まで捨てぬもの    暁子
さくらんぼのやうな子の食ぶさくらんぼ

                  暁子
帯締めて暑さに挑む心意気     りょう
 今の私にはこの心意気は眩しく羨ましいです。


輝子選        
甘き夢若き夢さくらんぼ二つ     瑛三
藻の花や三つ四つ五ついや二百   兵十郎
野辺送り済ませて帰る暑さかな    安廣
 緊張が解けた時、誰しも経験する暑さを見事に表現。


兵十郎選        
暑き日の目に目薬をひとしづく    幹三
藻の花や野菜も鯉もこの水に    眞知子
退院の朝市に買ふサクランボ     遊子
 市場で見たさくらんぼの輝きに退院の喜びが重なる。


昴選        
せっかちに言伝て頼み去る暑さ    和江
父親の説教のごと目地の黴     かな子
藻の花や娘の恋を知りし日の    かな子
 「知りし日の」後に続く言葉に万感の思いあり。


茉衣選        
閑かなる三成墓所の苔青し      真理
湖面には藻の花別荘閉ざされて    和江
老犬に生きているかと問ふ暑さ    輝子
 猛暑にぐったりの老犬に同じ様子だった老猫が懐かしい。


正信選        
老犬に生きているかと問ふ暑さ    輝子
尺蠖の精一杯の速さかな        橙
酒蔵の梁に住むてふ黴の声     兵十郎
 「亀鳴く」に似た俳諧味を「黴の声」に強く感じた。


眞知子選        
青黴に命救われ今ここに      りょう
読むはずの読まねばならぬ本に黴   輝子
藻の花の流れに流れなほそこに     乱
 水清き流れに揺れながら咲いている梅花藻の花の光る白。


真理選        
デザートはたつた二つのさくらんぼ  言成
客待ちの駱駝寝そべる暑さかな    正信
飛び立ったはらぺこあおむし夏の宵  朱美
 飛び立つ様に未来を感じる。寂しくも朗らかな追悼。


翠選        
黴臭き父の財布の捨て難く      安廣
せっかちに言伝て頼み去る暑さ    和江
野辺送り済ませて帰る暑さかな    安廣
 葬式を終え急に感じた喪服に照り付ける夏の日の暑さ。


盛雄選        
頂近し暑さ持ち去る尾根の風      翠
蛇口より水がぶ飲みの暑さかな     乱
さくらんぼ種飛ばす子の百面相    安廣
 さくらんぼを口で飛ばす子の百面相がリアルで面白い。


安廣選        
酒蔵の梁に住むてふ黴の声     兵十郎
藻の花や娘の恋を知りし日の    かな子
さくらんぼよもやま話ひとつづつ   和江
 桜桃をポツポツと食べながら親友と語らう穏やかな時間。


遊子選        
酒蔵の梁に住むてふ黴の声     兵十郎
さくらんぼ残るグラスのメッセージ  重雄
藻の花や野菜も鯉もこの水に    眞知子
 水の恵みある暮し、醒井・郡上八幡・島原と各地の光景。


乱選         
黴拭ひ食べて平気の祖母と成り   りょう
古書店の黴の香高き和紙の山     盛雄
野辺送り済ませて帰る暑さかな    安廣
 野辺送りの悲しさよりも暑さの方が気に掛かることも。


りょう選        
乳飲み子を抱きて可愛き暑さかな  かな子
さくらんぼ贈るよろこびありにけり 太美子
今ここにさくらんぼのある幸せ     橙
 サクランボ好きな幼い娘の笑顔が浮かびます。


参加者自選句
飛び立ったはらぺこあおむし夏の宵  朱美
年々に暑さこたへる身となりて    瑛三
さくらんぼよもやま話ひとつづつ   和江
青田風余呉一周のツーリング    かな子
野の暑さアクエリアスに縋りたる   邦夫
雀の子親を離れぬ暑さかな      言成
白黴や父の遺せし黒鞄        重雄
今ここにさくらんぼのある幸せ     橙
黴びやすき物を求める世となりぬ  太美子
藻の花に一粒の泡生まれけり     輝子
藻の花や三つ四つ五ついや二百   兵十郎
藻の花や水の精なるひとに会ひ     昴
草茂る庭片隅で猫の声        茉衣
青焼きの図面重なる黴の書庫     正信
藻の花や野菜も鯉もこの水に    眞知子
閑かなる三成墓所の苔青し      真理
黒黴や住み心地良き老いの厨      翠
弥次郎兵衛腕からませてサクランボ  盛雄
野辺送り済ませて帰る暑さかな    安廣
湧水に祀る女神の薄暑かな      遊子
暑さこぼす母なほ着物姿決め      乱
俸給日二パック買ふさくらんぼ   りょう

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