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第661回 令和4年6月20日      

例会は、4月と5月の例会同様、会員の投句から成る「清記」を材料にして大阪俱楽部で行なわれました。


出席者

 瀬戸幹三・山戸暁子・西條かな子

 鈴木輝子・鈴木兵十郎・瀬戸橙

 寺岡翠・東中乱・宮尾正信

 向井邦夫・山田安廣


投句者

 植田真理・碓井遊子・覚野重雄

 草壁昴・鶴岡言成・中嶋朱美

 中村和江・西川盛雄・根来眞知子

 東野太美子・平井瑛三・森茉衣

  出席者11名+投句者12名 計23名


兼題

 夏の川・蜥蜴(幹三)

 柿の花・五月闇(暁子)

 当季雑詠  通じて8句

選者吟
五月闇ひとのことばの溜りゆく    幹三
金色の蜥蜴のあとをつけてゆく
新品の蜥蜴貌出す野面積み
水音は刻過ぐる音夏の川       暁子
五月闇昼を灯して小商ひ 
青光り残して蜥蜴草に消ゆ

 
幹三選 
母子像に額ずく二人五月闇       昴
玫瑰や砂の文様また動く       遊子
残照や蜥蜴の寝息かすかなり     真理
柿の花早や彷彿と実の形        乱
◎水音は刻過ぐる音夏の川      暁子
水切りの技を見せたく夏の川     輝子
◎飛び石をひとつ沈めて夏の川   兵十郎
青光り残して蜥蜴草に消ゆ      暁子
青き背をきらり光らせ蜥蜴消ゆ   眞知子
◎浦島の戻りし故郷柿の花       昴
スカートを縫はねばならぬ夏の宵   真理
漆黒に濃淡有りて五月闇        翠
一人行く靴音だけの五月闇      安廣
◎幾度も瀬を往き来する夏の川    邦夫
いそいそと城壁守る蜥蜴かな     盛雄
梔子の花の真白を手に触るる      橙
よく見れば愛らしき顔蜥蜴かな     翠
草葉さえ揺らすことなく蜥蜴消ゆ   安廣
岩を登り芯まで熱き青蜥蜴       昴
夏雲を漕ぎ分けてゆく渡船かな   かな子
◎火の山へ道一筋や夏帽子      正信
寂しくて窓を開ければ五月闇     朱美
釣糸の雫の躍る夏の川        安廣
雨にぬれ暗さいやます五月闇     茉衣
片目にて我を値踏みや青蜥蜴     重雄
◎夏の川おもちゃのごとき汽車渡る かな子
◎入道雲乗せて流るる大河かな    安廣
首かしげしばし思案の青蜥蜴    かな子
       
幹三特選句講評
・水音は刻過ぐる音夏の川      暁子
 春夏秋冬それぞれの川が季語になっている。中で時の経過を感じるのは「夏の川」だという感性に賛同。活動的な夏にふと感じる憂いでもある

・浦島の戻りし故郷柿の花       昴
 タイムトラベルから帰った男が先ず目にしたものは、柿の花という毎年律儀に身を結ぶ地味な花であった…という想像。取り合わせの句ともとれるが、中七で大きく切る省略が効いた。おもしろい。

 

・幾度も瀬を往き来する夏の川    邦夫
 川遊びに興じる人たち、水しぶき、水の冷たさが伝わってくる。「行き来して」とするとまた違う余韻が生まれる。

・火の山へ道一筋や夏帽子      正信
 季語以外に、火の山も一本道も夏を感じる。すなわち句全体が夏のムードに溢れている。山に向かう人の帽子が揺れている「動き」も句を立体的にしている。

・夏の川おもちやのごとき汽車渡る かな子
 夏を感じる眩しい遠景である。また、玩具の汽車にはノスタルジーを感じる。一句目同様、ある年齢に達すると夏の川は遠い思い出の流れになってゆくのであろうか。

・入道雲乗せて流るる大河かな    安廣
 大胆に言い切った。その勢いがまさに夏である。俳句はこんなに大きなものを捕まえることが出来るのだ、と感心した一句。

・飛び石をひとつ沈めて夏の川   兵十郎
 流量が増して飛び石が水没した、というのである。ただそれだけ。なのに水嵩や流れの速さ、水の透明感・冷たさ、更には佇む人まで見えてくるのである。

暁子選
玫瑰や砂の文様また動く       遊子
柿の花今朝より強き紫外線      和江
◎園児らの黙食の昼柿の花     眞知子
蜥蜴飼ひ一目置かれし女の子     輝子
水切りの技を見せたく夏の川     輝子
柿の花華無きままに早も実に      乱
川の音窓から入れて夏料理      幹三
家族葬終へし家族や柿の花     眞知子
◎街明かり千々にたゆたふ夏の川   真理
光る背の縞青々と蜥蜴かな       橙
ひそやかに落ちてさみしき柿の花  かな子
山深し若葉を縫ひてケーブルカー   遊子
五月闇荷風の街を下駄鳴らし     正信
青き背をきらり光らせ蜥蜴消ゆ   眞知子
◎供花鮮し祠が守る夏の川      盛雄
漆黒に濃淡有りて五月闇        翠
独り居は雑用多し柿の花        翠
妻の留守庭居間キッチン五月闇     乱
夏雲を漕ぎ分けてゆく渡船かな   かな子
火の山へ道一筋や夏帽子       正信
五月闇些事に拘りいさかひぬ     輝子
◎片目にて我を値踏みや青蜥蜴重雄
夏の川おもちゃのごとき汽車渡る  かな子
◎入道雲乗せて流るる大河かな    安廣

 

暁子特選句講評
・街明かり千々にたゆたふ夏の川   真理
 夏の街はいつまでも灯りがついていて明るい。それが川面の波に映っている。夏の川ならではの光景。

・供花鮮し祠が守る夏の川      盛雄
 水害や子供の事故がないようにと祈願して、川の堤にはよく祠が見られる。水難に遭われた人を祀っているのかもしれない。特に夏の川は危険が多い。供華がとりかえられたばかりであるというのが、近隣の人々の思いを表わしている。

・片目にて我を値踏みや青蜥蜴    重雄
 青光りするだの、気味が悪いだの、すばしこいだの、人間は一方的に上から目線で蜥蜴を見ているが、あにはからんや、蜥蜴も人間を値踏みしているのだ、しかも片目で。

・入道雲乗せて流るる大河かな    安廣
 ゆったりと流れる大河であれば、巨大な入道雲も乗せてゆくだろう。

・園児らの黙食の昼柿の花     眞知子
 コロナ禍下での一光景。わびしげな柿の花が一層侘しさを誘う。
 

互選三句
朱美選        
遠ざかる列車の尾灯五月闇      暁子
柿の花咲き落つままに子規の庭    暁子
川の音窓から入れて夏料理      幹三
 涼しそうですね!何を作ったの?おいしかった?


瑛三選            
他家の子の成長はやし柿若葉    太美子
夏河を越す鉄橋の太き鋲       幹三
翔平の一打で晴れる五月闇      和江
 今日も二本打ちました。雨模様も晴天に。


和江選        
柿の花華無きままに早も実に      乱
蔀上ぐれば御佛近し五月闇     兵十郎
入道雲乗せて流るる大河かな     安廣
 人事万事をも流れるままに、大自然の爽快さ。

   
かな子 選        
ウクライナの子らの瞳の夏の雲    安廣
五月闇昼を灯して小商ひ       暁子
園児らの黙食の昼柿の花      眞知子
 余儀ない黙食の子らと秘やかな柿の花との対比が良い。


邦夫選        
柿の花光る田の面を遠く見て    眞知子
供花鮮し祠が守る夏の川       盛雄
翔平の一打で晴れる五月闇      和江
 二刀流の大谷君の豪快な一打は梅雨闇の憂さを晴らす。


言成選        
柿の花早や彷彿と実の形        乱
草葉さえ揺らすことなく蜥蜴消ゆ   安廣
音涼し茂みの中の夏の川        昴
 殆ど伏流水になっているらしい夏の川か?


重雄選        
手の届く高さに揃ふ柿の花      邦夫
岩上の妖しき蜥蜴吾を凝視       翠
五月闇昼を灯して小商ひ       暁子
 暗い昼間がよくでてる。


橙選        
五月闇ひとのことばの溜りゆく    幹三
山際の窓開け放つ五月闇      兵十郎
飛び石をひとつ沈めて夏の川    兵十郎
 川と一緒にはしゃぎたい気持ちが大きな石を運ばせた。


太美子選        
ふるさとの変はらぬ夏の川の音    幹三
世をちらり土の異界へ消ゆ蜥蜴    和江
意に染まぬ事多き日や柿の花    かな子
 どこか静かに耐えている風情の柿の花、季題が的確。


輝子選        
飛び石をひとつ沈めて夏の川    兵十郎
何処かで鵺の鳴くらむ五月闇    かな子
草葉さえ揺らすことなく蜥蜴消ゆ   安廣
 蜥蜴のしなやかな、敏速な動きが見えるよう。


兵十郎選        
梔子の花の真白を手に触るる      橙
新品の蜥蜴貌出す野面積み      幹三
釣糸の雫の躍る夏の川        安廣
 夏の川での釣の楽しさが伝わって来る。


昴選        
イコン画のまなざし悲し五月闇    和江
意に染まぬ事多き日や柿の花    かな子
夏の川小躍りをして海に出る     暁子
 セーヌなどの大河は悠揚迫らず海と同一化するが…。


茉衣選        
裏木戸にこぼれひっそり柿の花    盛雄
草葉さえ揺らすことなく蜥蜴消ゆ   安廣
鉄橋や日を照り返す夏の川      邦夫
 鉄橋の架かる大河と暑い夏の日の様子が雄大な絵をなす。


正信選        
五月闇ひとのことばの溜りゆく    幹三
釣糸の雫の躍る夏の川        安廣
夏河を越す鉄橋の太き鋲       幹三
 川岸に立ち橋を見上げる構図及び鋲の発見が秀逸。


眞知子選        
街明かり千々にたゆたふ夏の川    真理
手で鮒を捕ふ少年夏の川        翠
ふるさとの変はらぬ夏の川の音    幹三
 帰ることのない故郷の忘れないあの夏の川の佇まい。


真理選        
イコン画のまなざし悲し五月闇    和江
夏雲を漕ぎ分けてゆく渡船かな   かな子
片目にて我を値踏みや青蜥蜴     重雄
 人を食ったような蜥蜴の表情の描写が鮮やかです。


翠選        
むつちりと力を持ちて柿の花      橙
五月闇些事に拘りいさかひぬ     輝子
ふつと消ゆ女性の足音五月闇     瑛三
 次の展開が気になります。


盛雄選        
欄干の童飛び込む夏の川       正信
夏雲を漕ぎ分けてゆく渡船かな   かな子
イコン画のまなざし悲し五月闇    和江
 イコン画はロシア正教の聖母、闇はウクライナ戦争。


安廣選        
意に染まぬ事多き日や柿の花    かな子
世をちらり土の異界へ消ゆ蜥蜴    和江
火の山へ道一筋や夏帽子       正信
 夏帽子が一列になって登って行く。爽やかさが心地良い。

遊子選         
五月闇荷風の街を下駄鳴らし     正信
入道雲乗せて流るる大河かな     安廣
雨垂れをショパンと聞くや五月闇    乱
 闇に想う、ショパン曲はポーランド危機の心支えし事を。


乱選        
頬杖や目の前に散る柿の花      幹三
石棺の屋根の隙間に住む蜥蜴    兵十郎
オートクチュール普段着にして蜥蜴走る

                  瑛三
 蜥蜴の模様を高級注文服に見立てた発想力やよし。

参加者自選句
木や草を育て流るる夏の川      朱美
ふつと消ゆ女性の足音五月闇     瑛三
柿の花今朝より強き紫外線      和江
夏の川おもちゃのごとき汽車渡る  かな子
幾度も瀬を往き来する夏の川     邦夫
水切の記録を競ふ夏の川       言成
白砂利の白眩しけり夏の川      重雄
渦巻きの並びて香る薔薇の束      橙
五月闇抜け就職の決まりけり    太美子
水切りの技を見せたく夏の川     輝子
飛び石をひとつ沈めて夏の川    兵十郎
母子像に額ずく二人五月闇       昴
雨にぬれ暗さいやます五月闇     茉衣
掌の震へ止まざる蜥蜴の尾      正信
園児らの黙食の昼柿の花      眞知子
街明かり千々にたゆたふ夏の川    真理
独り居は雑用多し柿の花        翠
林立の主張明るき菖蒲池       盛雄
一人行く靴音だけの五月闇      安廣
ライン川輝いてをり聖五月      遊子
白妙の飛び石駆ける夏の川       乱


即吟

 卓上のフクシアと擬宝珠の花を詠む。出席者全員五分間の苦闘です。高得点であった二句をご紹介します。

フクシアを髪に飾りてみたくなり  橙 6
フクシアの異星に咲きしやうな色 幹三 6 

 

ひとこと 山田安廣

 今月から世話人代表を務める事になりました。皆様方が少しでもスムーズに句会を楽しんで頂ける環境を確保するために、一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします。
 所で、コロナ騒ぎも少し落ち着きを見せて来ました。そこで、そろそろこれからの環境を考えながら、今後の句会の在り方を考えなければならない時期に来ているのではないかと存じます。7月例会後に問題点の整理をし、8月例会後に皆様方に議論して頂いて結論を出すような段取りでは如何かと思っております。

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