待兼山俳句会
第604回 平成30年4月29日
吟行 茨木市
選者吟
この街の春の空さへなつかしき 浩一郎
古る街の川も校舎もうららけし
この街に学びしことも遠き春
春風やおういと呼んでゐる男 幹三
手のとどく若葉にはみな触れてゆく
太軸のペンの遺りて春深し
浩一郎 選
◎幾度も念押すやうに囀れる 幹三
伸び繁る樹々の緑蔭渡る風 眞知子
◎春風やおういと呼んでゐる男 幹三
康成の碑護る躑躅かな 邦夫
推敲のあと黒々と春暑し 幹三
日差し受け楓の花はくれなゐに 言成
遊歩道たんぽぽの絮しきりとぶ 輝子
◎彫像の肩かすめ落つ夏落葉 眞知子
◎夏めくや少年一人ボール蹴る 橙
雛罌粟の揺るる片花びらたてて 輝子
富士正晴記念館にて
ヴァイキング夢みし日々を偲ぶ春 洋一
四月尽探し当てたる城門跡 翠
夏めくやスマホはバックポケットに 翠
幸薄き文豪の文春の燈に 暁子
希望の像指さす初夏の空の青 眞知子
◎樹の下をこころ空ろに春の昼 邦夫
木漏れ日や雛げしの花風にゆれ 瑛三
野の草の供花くたびれて春暑し 橙
康成の座ぶとん大き五月かな 幹三
休日の校庭泳ぐ鯉のぼり 輝子
◎手のとどく若葉にはみな触れてゆく 幹三
忍冬咲きゐて川端記念館 かな子
葉桜と大楠並ぶ文学館 元彦
風光る川端通り立ち話 乱
人あまた湧き出るごとく五月晴 かな子
春昼の道に迷ひて過去に遇ふ 暁子
太軸のペンの遺りて春深し 幹三
◎春昼や木陰に休む竹箒 翠
幹三 選
篝火の稿を辿るや暮の春 乱
◎青蘆や風一斉にそれぞれに 浩一郎
たんぽぽや小さき帽子忘れあり 暁子
◎薫風を肺の奥まで吸ひし今日 眞知子
葉桜の道文豪の名を冠す 乱
瀬を渉り風は五月のものとなる 浩一郎
楠茂る巨木したたる日の光 瑛三
康成のおほらかなる字春の空 橙
文学の道険しくてなんじゃもんじゃ 乱
◎文豪の書斎の黙や四月尽 眞知子
萬年筆文机に置く春館 兵十郎
日射し受け楓の花はくれなゐに 言成
文豪の名の桜蕊降る道を 乱
◎夏めくや少年一人ボール蹴る 橙
薔薇薔薇薔薇今宵は薔薇の夢を見る 暁子
踊子の恋消え百年春も闌け 乱
囀はメタセコイヤの上の空 兵十郎
亀も鳥もをりて噴水元気よし 浩一郎
◎見渡せど正体見えず春の空 邦夫
◎たんぽぽの絮飛びさうで飛ばずあり 暁子
夏近し間遠にとどくノック音 輝子
小疲れの憩ふベンチに姫女菀 瑛三
春落葉鳥の歩きて音したる 橙
春深し深渕覗く作家の眼 暁子
◎池の水澱みて夏の近きこと 浩一郎
樟若葉向かうの人ら日を浴びて 邦夫
春昼の道に迷ひて過去に遇ふ 暁子
新緑の見知らぬ土地で道尋ね 茉衣