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第646回 令和3年5月17日


5月の例会は、3度目のコロナによる緊急事態宣言がさらに5月末日まで延長されたため、4月の例会と同じ方式の通信句会と致しました(全員5句出句)。


出句者(計22名)

   瀬戸幹三・山戸暁子・浅野りょう

   碓井遊子・草壁 昴・西條かな子

   鈴木輝子・鈴木兵十郎・  瀬戸橙

   鶴岡言成・寺岡 翠・中嶋朱美

   中村和江・西川盛雄・根来眞知子

   東中乱・東野太美子・平井瑛三

   宮尾正信・向井邦夫・森 茉衣

   山田安廣


兼題

   蛸・更衣(幹三)

   芭蕉巻葉・麦の秋(暁子)

   当季雑詠 通じて5句


次回例会 令和3年6月21日(第3月曜日) 会場 大阪俱楽部会議室

締切 午後2時予定


兼題 藻の花・暑さ(幹三)

   黴・さくらんぼ(暁子)

   その他当季雑詠


選者吟 
蛸買うてぐろりと重き袋かな     幹三
庭に置く小人の像や梅雨に入る
店先に這ひ出しさうな明石蛸

真直ぐに伸びてはらりと解く芭蕉   暁子
セーラー服衿は水色更衣
高度下がる故国の麦秋見ゆるまで

 
幹三選 
病窓の大きなエール五月鯉     太美子
大鍋に丸まる蛸の哀しさや       橙
トロ箱に犇めく蛸の墨まみれ     正信
古墳より見渡す限り麦の秋     りょう
むせかえる風の匂ひや麦の秋      昴
セーラー服衿は水色更衣       暁子
陽のにほひ持ち帰りし子麦の秋   太美子
鉈彫りの三面佛や夏木立       遊子
芭蕉巻葉大きな未来ありさうな    輝子
ふざけ合ひ下校する子ら麦の秋   眞知子
◎朝礼の風の眩しき更衣       正信
髪切りてちよつと早めの更衣     正信
退院の風新しく更衣        太美子
◎蛸海にゐるとき海の色をして    暁子
◎玉解く芭蕉に風の強き日よ     瑛三
◎麦の秋いただきますとひとりごと   橙
風立ちぬ父の背がゆく麦の秋     盛雄
母の忌や芭蕉の玉のゆるび初む   かな子

更衣身支度軽し靴軽し        輝子
◎中空に列ぶ干し蛸天草灘      盛雄
◎口数の少なき夫と梅雨に入る    瑛三
移ろひの定かならずも衣がへ    かな子
帯ぽんと叩きお出かけ更衣       乱
前菜は地産の蛸のやはらか煮     正信
トビケラをまとひて歩く薄暑光     橙
海峡の蛸刺し酒に適ひたる      邦夫
さよならの声が漂う麦の秋      朱美
茹でられて蛸は美しき色となる   かな子
   
幹三特選句講評
・朝礼の風の眩しき更衣       正信
 一夜にして学校が明るくなった。軽装の先生たちの表情も明るい。そんな朝の校庭に風が吹きわたる。

・蛸海にゐるとき海の色をして    暁子
 我々は蛸の色と言えば茹蛸の色を思い浮かべるが、実は自然界で生きている蛸は保護色や擬態で海に同化しているのである。「海の色」の措辞が面白い。

・玉解く芭蕉に風の強き日よ     瑛三
 大きな葉が翼のように揺れ、風の日の芭蕉は芭蕉らしい。しかし青々とした無傷の巻葉が開き始めることを思うと、風よ、もそっと優しくしてやれと言いたくなる。

・麦の秋いただきますとひとりごと   橙
 麦畑が黄金色に色づく季節、その収穫を想像し初夏の空を思うと、心は豊かになり感謝の気持ちが湧き出でるのである。

・中空に列ぶ干し蛸天草灘      盛雄
 我が故郷も海の町。店先だけでなく家庭でも蛸を拡げて干している。天草は行ったことのない土地だがその景が見える。潮の香りがする。


・口数の少なき夫と梅雨に入る    瑛三
 気持ちは晴れないが、梅雨入りは毎年のこと。どう過ごせばよいかは経験上よく分っている。そんな日常の中、共に暮らす夫がいる。特に話すことも無いのである。


暁子選 
◎病窓の大きなエール五月鯉    太美子
菩提寺に玉巻く芭蕉若葉かな     言成
トロ箱に犇めく蛸の墨まみれ     正信
◎哀しみをぱつと脱ぎすて更衣    茉衣
蛸の足自然の造形かくまでと     朱美
蛸料る遥かモロッコ産であり     輝子
魚の棚明石焼き食ふ蛸を食ふ      乱
◎陽のにほひ持ち帰りし子麦の秋  太美子
ワクチンの接種通知や夏燕     かな子
芭蕉巻葉大きな未来ありさうな    輝子
朝礼の風の眩しき更衣        正信
やや淡き緑の奉書巻芭蕉      兵十郎
無罪ビラ芭蕉玉解く地裁前     りょう
◎八本の脚もて逃走図る蛸     眞知子
髪切りてちよつと早めの更衣     正信
庭に置く小人の像や梅雨に入る    幹三
荒れし手に実りは豊か麦の秋     安廣
玉解く芭蕉に風の強き日よ      瑛三
針と糸で縮めしパンツ更衣       翠
新茶淹れ受勲の友に祝書く      輝子
衣更へてワクチン接種に出かけんか   翠
中空に列ぶ干し蛸天草灘       盛雄
◎口数の少なき夫と梅雨に入る    瑛三
不意打の夏日に合わせ更衣     眞知子
旅支度使わぬままに衣替       和江
見渡せば里麦秋の風の中        翠
すでにして風格芭蕉まきばかな   太美子
小さき壺の小さき天下を蛸眠る    安廣

暁子特選句講評

・病窓の大きなエール五月鯉    太美子
 「さつきこひ」は「鯉幟」の傍題。病院の鯉幟か、近所のお宅のものか、病窓から眺めていると、病人にエールを送ってくれているようだ。「病窓へ」の方がよいか?

・哀しみをぱつと脱ぎ捨て更衣    茉衣
 このように脱ぎ捨てられるといいのですが、なかなか難しいです。よく似た発想は時に見受けますが、ここまで潔いと気持ちがいいですね。

・陽のにほひ持ち帰りし子麦の秋  太美子
 「麦秋」というのは、収穫を迎えた麦を指すのではなく、麦の穂が実る頃、つまり初夏の候をいう。昔このタイトルの小津の映画がありましたね。この句には日差しが強くなってきた麦秋の頃が描かれている。御参考までに申しますと、「ホトトギス」では「日」の字を用いています。尚「ちよび髭を黒穂で描く子麦の秋」という面白い句がありましたが、「黒穂」は季題になっているので、これで勝負して頂きたかった。


・八本の脚もて逃走図る蛸     眞知子
 八本の脚ならば逃げ足は速いでしょう。船の上でも店頭でも、逃走を図る蛸をよく見ます。しかし「通常足といわれるのは実は腕」(講談社版歳時記)だそうです。大抵の歳時記には蛸は入っていませんが、麦秋にとれる「麦藁蛸」が一番美味しいといわれているので、この頃の季題となっているのでしょう。因みに京都で「麦藁蛸に祭鱧」といわれているのは、昔は祭りの頃生きたまま京都へ入荷する海の幸は、蛸と鱧くらいだったからだそうです。

・口数の少なき夫と梅雨に入る    瑛三
 そうでなくてもコロナ禍で家居が続いているのに、梅雨ともなれば一層お二人とも家に籠り勝ち。作者も口数の少ないお方であろう。静かなご夫婦の静かな暮らしを思う。

互選三句
朱美選        
病窓の大きなエール五月鯉     太美子
新茶淹れ受勲の友に祝書く      輝子
ワクチンの接種通知や夏燕     かな子
 ホッとした気持ちが毎年元気に訪れる燕の姿に呼応する。

瑛三選        
鉈彫りの三面佛や夏木立       遊子
旅支度使わぬままに衣替       和江
新茶淹れ受勲の友に祝書く      輝子
 叙勲の季節、思い出も多い。叙勲ネタに飲んだことも。

和江選        
自転車に二人乗りして麦の秋     幹三
小さき壺の小さき天下を蛸眠る    安廣
枇杷ひとつ風の拳の如きもの     盛雄
 風の拳に惹かれます。食後の甘酸っぱい風の味が楽しみ。

かな子選        
ふざけ合ひ下校する子ら麦の秋   眞知子
芭蕉玉解く彫像は未完成       和江
八本の脚もて逃走図る蛸      眞知子
 二本は手かと思ひけるにや。かろみ、おかしみが良い。


邦夫選        
玄関の敷物も替へ更衣        幹三
合服の出番少なく更衣        朱美
ふざけ合ひ下校する子ら麦の秋   眞知子
 両側が麦秋だった野道を級友と下校した戦後のことを。


言成選        
二の腕のちよつぴり寂し更衣     邦夫
海峡の蛸刺し酒に適ひたる      邦夫
旅支度使わぬままに衣替       和江
 コロナ禍の今なればこその句。


橙選        
庭に置く小人の像や梅雨に入る    幹三
枇杷ひとつ風の拳の如きもの     盛雄
玉解く芭蕉に風の強き日よ      瑛三
 芭蕉の葉と風は仲間のよう。葉が揺れると風が見える。


太美子選        
古墳より見渡す限り麦の秋     りょう
セーラー服衿は水色更衣       暁子
母の忌や芭蕉の玉のゆるび初む   かな子
 母の愛を瑞々しい大きな若葉と取り合せた妙。


輝子選        
朝礼の風の眩しき更衣        正信
高度下がる故国の麦秋見ゆるまで   暁子
よそ行きを先ずは並べて更衣      橙
 大事な服から整理する。活き活きと女性を描いた。


兵十郎選        
退院の風新しく更衣        太美子
見渡せば里麦秋の風の中        翠
朝礼の風の眩しき更衣        正信
 朝礼台に立つ校長先生の眩しそうな顔が目に浮かぶ。


昴選        
芭蕉巻風の生まるる気配あり      橙
移ろひの定かならずも衣がへ    かな子
陽のにほひ持ち帰りし子麦の秋   太美子
 太陽に輝く麦秋、その光と匂いを一杯浴びてきた子だ。


茉衣選        
青空を黄金で分つ麦の秋       安廣
不意打の夏日に合わせ更衣     眞知子
更衣身支度軽し靴軽し        輝子
 歌を口ずさみたくなるような愉しい光景が浮かぶ。


正信選        
陽のにほひ持ち帰りし子麦の秋   太美子
電車からドッと降り立つ夏帽子   りょう
店先に這ひ出しさうな明石蛸     幹三
 新鮮な明石蛸、その生き生きとした様子が良く写生。


眞知子選        
蛸漫歩てふ魚ん棚午後しづか     瑛三
中空に列ぶ干し蛸天草灘       盛雄
見渡せば里麦秋の風の中        翠
 熟れた麦畑のあの色とあの匂いに包まれている里の景。


翠選        
芭蕉巻葉大きな未来ありさうな    輝子
髪切りてちよつと早めの更衣     正信
二の腕のちよつぴり寂し更衣     邦夫
 夏物に着替えた。むき出しの二の腕の皺に老化を実感。


盛雄選        
鉈彫りの三面佛や夏木立       遊子
電車からドッと降り立つ夏帽子   りょう
小さき壺の小さき天下を蛸眠る    安廣
 この句は井の中の蛙のペーソスを想起させてくれる。


安廣選        
二の腕のちよつぴり寂し更衣     邦夫
陽のにほひ持ち帰りし子麦の秋   太美子
鉈彫りの三面佛や夏木立       遊子
 かっきりと鉈彫りされた円空佛が夏木立に清清しい。


遊子選        
また来るね芭蕉の巻葉解く頃に    朱美
風立ちぬ父の背がゆく麦の秋     盛雄
同郷と分かり旨しや明石蛸      和江
 育った土地の美味の記憶。同郷の仲と分り旨さの増す事。


乱選        
芭蕉巻葉大きな未来ありさうな    輝子
煩悩や卒寿過ぎてと蛸と海女     言成
二の腕のちよつぴり寂し更衣     邦夫
 更衣時の微妙な感覚を日常的な言葉で旨く伝えている。


りょう選        
麦の秋いただきますとひとりごと    橙
麦の秋戦後直ぐなる登下校      邦夫
自転車に二人乗りして麦の秋     幹三
 麦の秋が眩しい若き日の楽しい想い出でしょうか。


参加者自選句
さよならの声が漂う麦の秋      朱美
米どころ近江在所の麦の秋      瑛三
芭蕉玉解く彫像は未完成       和江
母の忌や芭蕉の玉のゆるび初む   かな子
蛸かかり茅渟の海なる小舟揺る    邦夫
煩悩や卒寿過ぎてと蛸と海女     言成
芭蕉巻風の生まるる気配あり      橙
病窓の大きなエール五月鯉     太美子
蛸料る遥かモロッコ産であり     輝子
ピンクなるヒマラヤの塩蛸洗ふ   兵十郎
金色の汗ほとばしる麦の秋       昴
猫逝きて悲哀と向き合ふ白牡丹    茉衣
朝礼の風の眩しき更衣        正信
ふざけ合ひ下校する子ら麦の秋   眞知子
カルパッチョパセリの色香蛸に載せ   翠
緑壁は阿蘇外輪の衣更        盛雄
荒れし手に実りは豊か麦の秋     安廣
那谷寺の白き巌に青葉風       遊子
帯ぽんと叩きお出かけ更衣       乱
古墳より見渡す限り麦の秋     りょう

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