待兼山俳句会
第676回 令和5年7月10日
会場 大阪俱楽部会議室
出席者 山戸暁子・小出堯子・鈴木輝子
鈴木兵十郎・寺岡翠・東野太美子
向井邦夫・森茉衣・山田安廣
投句者 瀬戸幹三・植田真理・碓井遊子
草壁昴・鶴岡言成・中嶋朱美
中村和江・西川盛雄・根来眞知子
東中乱・平井瑛三
出席者9名+投句者11名 計20名
兼題 打水・雷(幹三)
昼寝・夾竹桃(暁子)
当季雑詠 通じて8句
選者吟
一閃に空のひしやげし雷の夜 幹三
空に川途切れて滝となりにけり
何枚も重ね重ねて水を打つ
夾竹桃戦災の火の匂ひふと 暁子
水を打つプラットホームの端までも
羊水にたゆたふ心地昼寝かな
幹三選(後選)
雷鳴の響きゴンドラ揺れ止まず 和江
夾竹桃紅白並ぶバスの道 茉衣
烏帽子つけおみな鵜匠となりにけり 遊子
打水や女将笑顔でおこしやす 眞知子
昼寝覚気づかれてゐる電話口 太美子
昼寝覚竹林渡る風の音 兵十郎
打水の柄杓の先に光散る 安廣
◎昼寝覚めいつもの居間でありにけり 暁子
◎遠去かる雷幾度も吠えながら 暁子
打水にひと日始まる町家かな 盛雄
◎夏木立鳥一声の静けさや 堯子
窓越しにもっさもっさと夾竹桃 昴
飛び起きし閃光雷鳴それっきり 翠
ほつと一と時打水の乾くまで 輝子
大雷雨ひと声かけて軒を借る 輝子
◎水打ちてやさしき町に生きてゆく 輝子
水打ちて忌日の僧を迎へけり 太美子
昼寝覚隣家の布団叩く音 真理
客迎ふ打水に頃ありにけり 太美子
懐かしき人に会ひたり昼寝覚め 昴
夾竹桃戦災の火の匂ひふと 暁子
◎灯りつく高層階や梅雨曇 遊子
打水に風の生まるる京の路地 瑛三
苔の香を立てつ鎮めつ水を打つ 太美子
遠雷や静かなる妻動かざる 兵十郎
遠雷の静かに消ゆる雲の奥 昴
いかづちや砂丘の皺を浮き出せり 遊子
落雷の恐怖を語る手も口も 太美子
◎雷鳴の雲に澪引くごと去りぬ 眞知子
◎打水や路地の奥なる地蔵尊 兵十郎
大雷雨駅舎に人の溜まりゆく 輝子
幹三特選句講評
・昼寝覚めいつもの居間でありにけり 暁子
短い睡眠の間に人は時空間を飛び越える。その内容略・余白のお手本と思いました。
・夏木立鳥一声の静けさや 堯子
音があることで静けさを感じることがあります。「鳥一声の」の措辞がすてき。深閑とした森に連れて行ってもらったよう。木陰の涼しさも感じます。
・遠去かる雷幾度も吠えながら 暁子
・雷鳴の雲に澪引くごと去りぬ 眞知子
どちらの句も雷のおさまっていく様を上手に描写している。一句目は凶暴な雷、人は首をすくめて去るのを待つ。二句目は風流な雷。人はゆとりを持って季節を感じている。一句目は隠喩、二句目は直喩。その違いも面白い。
・水打ちてやさしき町に生きてゆく 輝子
「生きる・死ぬ・命」の句は大仰になり、個人的には俳句向きではないと考えています。しかしこの句は爽やか。打水・町・人生と、だんだんズームバックしていく心地よさがある。こんな町に私も住みたい。
・灯りつく高層階や梅雨曇 遊子
梅雨空を振り仰いだ作者である。昼なお暗い五月闇の中、無機質な高い塔のようなビルに灯り。そこには人が働いているのであろう。モノトーンの写真を見るようです。
・打水や路地の奥なる地蔵尊 兵十郎
上五の「や」の切れがたいへん効果的。俳句の「最大の武器」は「切れ」であることを再認識させていただいた。読者それぞれがこの路地を想像する。読後感のたいへんよい一句。
暁子選
雷鳴の響きゴンドラ揺れ止まず 和江
◎夾竹桃核の惨禍を生きて今 輝子
雷鳴にへそを隠した日もあった 朱美
次に伐る木蔭で昼寝植木職 眞知子
微笑むは何色の夢昼寝の子 輝子
高速道出口渋滞夾竹桃 太美子
◎昼寝覚竹林渡る風の音 兵十郎
三峰の奥の宮より日雷 和江
遠雷につひ空を見るゴルフかな 安廣
飛び起きし閃光雷鳴それっきり 翠
大雷雨ひと声かけて軒を借る 輝子
◎水打ちてやさしき町に生きてゆく 輝子
雷の光りて間あり野良仕事 堯子
◎地下足袋の向きは四方や三尺寝 和江
打水や茂みの猫のナアと鳴く 真理
梅雨の月赤く大きくビルの横 堯子
◎苔の香を立てつ鎮めつ水を打つ 太美子
遠雷や静かなる妻動かざる 兵十郎
夾竹桃育む新種「コウベアメバチ」 和江
俳句詠み眠り誘ひし題昼寝 言成
いかづちや砂丘の皺を浮き出せり 遊子
打水や路地の奥なる地蔵尊 兵十郎
青白く遠雷光る地平線 翠
大雷雨駅舎に人の溜まりゆく 輝子
水打つて塩積み直す祇園かな 瑛三
雷に地球の呻き合はせ聴く 翠
烏帽子つけをみな鵜匠となりにけり 遊子
朝まだき僧の水打つ石畳 安廣
暁子特選句講評
・地下足袋の向きは四方や三尺寝 和江
歳時記には「三尺寝」とは「職人が仕事場で許された短時間の昼寝をいう」とある。職人さんたちは束の間、日陰を求め、身体の楽な場をそれぞれが確保して休む。この句はまさにそういう職人さんたちの昼寝の様子を活写。
・昼寝覚竹林渡る風の音 兵十郎
三尺寝と違ってこちらは静かな涼しい部屋か、お寺の一室での大の字の昼寝。目覚めれば庭か裏藪の竹林を渡る風の音。いかにも気分のよい昼寝覚め。
・水打ちてやさしき町に生きてゆく 輝子
以前は道路が舗装されていなかったところが多かったので、朝夕各家が打ち水をしていた。また外から見える庭の打ち水は,涼を誘う風物だった。打ち水の手を止めてご近所同志の会話が弾んだ。今は、道に打ち水をすることも少なくなり、各家は塀で囲まれてしまった。潤滑油のような会話はなくなってしまい、何かとげとげした空気の漂う町が多くなった。作者の住んでおられる町はまだ優しい町なのだ。
・苔の香を立てつ鎮めつ水を打つ 太美子
太陽に熱せられた苔は、最初に水をかけた時には、むっとするような香をたて、しばらく散水するとその香は鎮まるのだろう。広い古刹の寺苑の手入れの風景かと。
・夾竹桃核の惨禍を生きて今 輝子
私どもの世代は敗戦の記憶と夾竹桃が固く結びついている。あの夏も、戦火を免れた所々の道ばたには力強く夾竹桃が咲いていた。この句は「核の惨禍」とあるから特に広島や長崎を思うが、原爆投下当時、もう百年くらい植物は一切育たないという風評が子ども達の耳に入っていた。
参加者自選句
雷鳴にへそを隠した日もあった 朱美
邯鄲の夢路や車夫の三尺寝 瑛三
打水や地球煮え立つその夕べ 和江
昼餉終へ「ロシア」見つつの午睡かな 邦夫
空晴れて打水を待つ庭の樹々 言成
夾竹桃熱き斜陽に尚赤く 堯子
鬱とせし夾竹桃もひと枝なら 太美子
水打ちてやさしき町に生きてゆく 輝子
打水や路地の奥なる地蔵尊 兵十郎
遠雷の静かに消ゆる雲の奥 昴
雷鳴に子どもらの声雷同す 茉衣
打水や昼を仕舞ひて夜を招く 眞知子
夾竹桃泣き止まぬ子を胸に抱き 真理
平凡に生き切りたきよ夾竹桃 翠
打水にひと日始まる町家かな 盛雄
何の夢見るや昼寝の孫の笑む 安廣
荒梅雨の暗渠の轟音いつになく 遊子
文机の昼寝奈落の奥底へ 乱