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第664回 令和4年9月12日

例会は、コロナ感染者数が未だそれほど減少しないため、8月句会同様会員の投句から成る「清記」を材料とした通信句会と致しました。   

            (全員5句出句)。


出句者

 瀬戸幹三・山戸暁子・植田真理

 碓井遊子・覚野重雄・草壁昴

 西條かな子・鈴木輝子・鈴木兵十郎

 鶴岡言成・寺岡翠・中嶋朱美

 中村和江・西川盛雄・根来眞知子

 東中乱・東野太美子・平井瑛三

 宮尾正信・向井邦夫・森茉衣

 山田安廣       (計22名)


兼題

 燕帰る・芋(幹三)

 子規忌・水澄む(暁子)

 当季雑詠

 通じて5句
 

選者吟
祖母芋を煮る母も煮る妻も煮る    幹三
燕帰りつまらぬ町に戻りけり       
水澄むや刃物のやうな魚の腹
うかうかと倍以上生き子規忌かな   暁子
律さんのよく耐へしこと子規忌かな
水澄めり心澄ませていざ生きむ 

 
幹三選 
野球児の声弾む日の子規忌かな    盛雄
秋祭御輿に乗りし美少年       真理
実り待つ踊る仕草の案山子たち    遊子
力込め土の香たてて芋を掘る     暁子
今は妻の子芋炊いたん嬉しくて     乱
水すみてカモシカに会う木曾の谷    昴
凡人も俳句は愉し獺祭忌      太美子
◎手に馴染む亀の子束子芋洗ふ   兵十郎
◎水澄むやじれったさうな舫い舟  眞知子
喪失のスコットランド湖水澄む    和江
鶏頭をふと数えをり獺祭忌       昴
箍締める手伝ひを呼ぶ芋洗     兵十郎
◎きのふ鳴いていたのはお前かと蝉拾ふ

                 かな子
病院食意外に旨し芋煮かな      瑛三
◎ひるがへりひるがへり去ぬ燕かな  真理
夜も更けて秋灯ひとつわが机辺   太美子
燕去る怪我のわたしを置いたまま  かな子
◎燕去ぬ駅の貼り紙外されて     輝子
子育ての軒端の日々や燕帰る     安廣
空広し燕帰りし日と言はむ     兵十郎
澄める水乱し大鯉吾に突進       翠
木村屋の餡パンを恋ふ子規忌かな   暁子
橋桁の影を沈めて水澄めり      正信
水澄むや蔵巡りけり灘五郷       昴
病癒へて風呂にどっぷり星月夜    安廣
◎芋煮るが楽しくなりて独りかな    翠
    
幹三特選句講評

・手に馴染む亀の子束子芋洗ふ   兵十郎
 洗い桶や芋水車ではなく、ひとつひとつ手で洗うのが家庭料理。毎年さまざまなものを洗ってきた束子と作者の関係がほのぼのとしています。

・水澄むやじれったさうな舫い舟  眞知子
 川漁師の小さな舟でしょうか。擬人化はたいていうまくいきませんが、この直喩はおもしろかった。きれいな湖水、川の流れが思われます

・きのふ鳴いていたのはお前かと蝉拾ふ

                 かな子
 作者の独り言ち、破調の似合う句です。蝉の骸の軽さが伝わります。蝉たちの季節は終わったのです。
   
・ひるがへりひるがへり去ぬ燕かな  真理
 名残惜しそうにとか旅立ちの別れとか一切言わず、ただ燕の行動が描写されています。それ故、人の情緒や深まる秋のことが思われるのです。

・燕去ぬ駅の貼り紙外されて     輝子
 報告句になりがちな内容ですが、何度も読むと人の優しさが伝わってきました。同時に去り行く季節、冬に向かう不安なども感じられます。

・芋煮るが楽しくなりて独りかな    翠
 マンネリに、あるいは独りよがりになりがちな「独り居の句」。しかしこの句は違います。楽しいと言いながら、しみじみとした淋しさが伝わってきます。俳句は、人間の気持ちの深さをこんな風に表せるんですね。

暁子選
澄む水に小魚の群のひるがへり    正信
子規の忌や女王身罷る報もあり    言成
水澄んでサンダルの緒に触るる魚   邦夫
休日の私服十色や秋来る       遊子
◎古里に葉音はじまる芋の秋     正信
水澄むや刃物のやうな魚の腹     幹三
人声の絶えて水澄む上高地      遊子
今は妻の子芋炊いたん嬉しくて     乱
常設のゲルニカ泉澄む館       和江
水すみてカモシカに会ふ木曾の谷    昴
噴煙を連れて阿蘇行く野分雲     盛雄
快晴や長寿の村に芋畑        幹三
◎水澄みて石いきいきと蘇る    太美子
手に馴染む亀の子束子芋洗ふ    兵十郎
獺祭を酌みて子規忌を修しけり     乱
戦火なき故郷なれや秋燕        翠
夕映のカルデラよぎる帰燕かな    正信
◎病院食意外に旨し芋煮かな     瑛三
水澄みて忙しげなり鴨の足      朱美
減塩のパン焼く日々や獺祭忌    兵十郎
ひるがへりひるがへり去ぬ燕かな   真理
◎糸瓜忌や三十代我が逡巡期      翠
秋燕や母在りし日の朝ご飯       昴
水澄むや蔵巡りけり灘五郷       昴
病癒えて風呂にどっぷり星月夜    安廣


暁子特選句講評

・古里に葉音はじまる芋の秋     正信
 俳句では芋といえば里芋のこと。里芋は高さ1メートル位で、大きな葉と長い茎をもつ。この長い茎が芋茎(ずいき)である。出句の中に「寝転んで並べた芋と背比べ」(「の孫」をとる)という句があった。畑一面に芋の葉の茂ったさまを「芋の秋」という。

・水澄みて石いきいきと蘇る    太美子
 水底まで透き通り、水中の石がはっきりと見える。

・病院食意外に旨し芋煮かな     瑛三
 「芋煮」は「芋煮会」の傍題であるから、東北地方の秋の行楽の一つである芋煮会の料理が病院で出されたのか。もし単なる里芋の煮つけなら「子芋かな」。最近は病院食もおいしくなっているのだろう。

・糸瓜忌や三十代我が逡巡期      翠
 子規は三十六歳で亡くなり、あれだけの大きな足跡を残した。翻ってわが身を考えると、三十代はまだ逡巡期であった。

参加者自選句
燕往き鳩と烏が所在無く       朱美
病院食意外に旨し芋煮かな      瑛三
芋の秋沼田台地に遠き富士      和江
半襟の小粋な祖母のむかご飯    かな子
邦人の米人魅する子規忌かな     邦夫
比良比叡借景として鰯雲       言成
黒皮の下の白さや月の芋       重雄
夜も更けて秋灯ひとつわが机辺   太美子
燕帰る吾の帰る地は何処なる     輝子
手に馴染む亀の子束子芋洗ふ    兵十郎
水すみてカモシカに会う木曾の谷    昴
名月の澄める光が胸を射る      茉衣
橋桁の影を沈めて水澄めり      正信
水澄むや母に似た貌吾を見つめ   眞知子
ひるがへりひるがへり去ぬ燕かな   真理
八十路にて芋煮の極意黄金比      翠
噴煙を連れて阿蘇行く野分雲     盛雄
水澄みて槍の穂先の鋭さよ      安廣
子育てに励みこの国燕去る      遊子
虚子年尾汀子師も逝く子規忌かな    乱

 

ひとこと           山田安廣
終息したと思われましたコロナウイルスが再び猖獗を極めております。そのため9月の例会もリモートにせざるを得ない次第となりました。10月にはどんな形にもせよ、対面の句会にしたいものと存じます。
一方、常態に復した後の例会をどのようにするか、清記や選句を本来の姿で行いたい、投句の皆さんにも、選句に参加して頂ける環境を作りたい、という皆様方の理想を一部会員の過大な負担なく実現するにはどうすれば良いか。具体的な方策を種々検討いたしましたが、これらを実現させようとすると大変複雑になる事がわかりました。
次回例会が対面で可能になりました場合には、右の2つの可能性のどちらを取るか、或いは出席者の応分の協力によって、両方を兼ね備えた運営を探るのかという事を議論して頂ければ、と思っております。

また、9月の会報は印刷製本発送を外部の方に依頼しましたことをご報告いたします。

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