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第639回 令和2年10月19日

 

10月の例会は、9月の例会とほぼ同じ方式で大阪俱楽部で行われました。

  出席者 10名 + 投句者13名  計23名

兼題 穭(ひつぢ)・秋惜む(幹三)

   鵙・秋の声(暁子)

当季雑詠  通じて八句

 

選者吟 

走り根を辿りてゆけば秋の声     幹三

青々と穭の尖りゆくばかり

鵙猛る巫女は袴をひるがへす

鵙鳴いて誰も起きない日曜日     暁子

隣人は施設へ転居鵙高音

見たくなしされど気になる鵙の贄

 

選者選

幹三選

鵙鳴きて誰も起きない日曜日     暁子

鵙の贄消えたる今朝の天守跡     正信

◎雨傘にぽとりと落ちる秋の声     昴

秋の声阿修羅の眼いたはしく     輝子

◎秋の声ボタンを一つ掛け直す     橙

穭穂のまばらまばらを犬駈ける   かな子

穭田を縫うてバス行く秋篠へ     輝子

遠浅の引く波ごとに秋の声      正信

穭食む鳥に夕日や越の国      兵十郎

鵙鳴いて少し揺れたる枝の先     輝子

大公孫樹洞より漏れる秋の声     和江

あかね雲哀しきまでに鵙の鳴く   かな子

鮒釣の竿の雫や秋惜しむ       安廣

◎海鳴りの能登の棚田の穭かな    正信

青春の待兼山に月昇る       りょう

戻したる遺跡の上は穭田に      遊子

秋惜しむ酒蔵の壁いや白く      言成

行く雲の薄くちぎれて秋惜しむ     昴

◎鵙日和母の名うすき鯨尺      和江

撫でぼとけ塵置く膝に秋の声    兵十郎

秋惜しむ入り日華やぐ朱雀門     輝子

◎山の田に風より柔らかき穭    兵十郎

◎栗飯の茶碗の中は栗だらけ      橙

灰色の風に揺られし秋薔薇       橙

 

幹三特選句講評

・雨傘にぽとりと落ちる秋の声     昴

 雨一滴に感じた秋の気配。「秋の声」は心でききつけるもの、そして、心にしみるものです。

 

・秋の声ボタン一つを掛け直す     橙

 秋の声を感じたゆえの行動です。ボタンという小さなものが、かすかな気配と符合しています。

 

・海鳴りの能登の棚田の穭かな    正信

 富安風生の「みちのくの伊達の郡の春田かな」へのオマージュとも思いました。海の大きな風景から細い穂へとズームインしていくのです。

 

・鵙日和母の名うすき鯨尺      和江

 我が家にも鯨尺の物差しがありました。使い込まれた母の道具です。澄んだ秋の空気という設定が凛とした母上を想像させます。

 

・山の田に風より柔らかき穭    兵十郎

 風に吹かれるまで伸びた穭です。風がやんでもまだ揺れている柔らかくしなやかな穂ですが、やはり句の背景として淋しさが感じられます。

 

・栗飯の茶碗の中は栗だらけ      橙

 ざっくりとした作り方が栗飯のおいしさにつながります。箸を付ける前、茶碗を手に先ずビジュアルから楽しんでいるという訳です。

暁子選

先見えぬ道に迷ふ子秋の声      輝子

主なき庭の樹々から秋の声      茉衣

煌めきて英虞湾広し秋惜しむ      翠

◎真夜中の散歩に出会ふ金木犀     橙

鵙日和母の名うすき鯨尺       和江

◎秋惜しむ入り日華やぐ朱雀門    輝子

◎山の田に風より柔らかき穭    兵十郎

鐘の音の絶えて湖より秋の声     正信

秋の声風に光に虫たちに       朱美

行く雲に飛鳥の野辺の秋惜しむ    安廣

◎月光を纏ひ降り来る秋の声      昴

尾羽ピコピコ鵙睥睨す縄張りを     乱

穭田を縫うてバス行く秋篠へ     輝子

遠浅の引く波ごとに秋の声      正信

秋惜しむ四季が二季になりさうで   朱美

大公孫樹洞より漏れる秋の声     和江

◎秋の声丸き口開く埴輪かな     幹三

たまらなく淋しくなるのは秋のせい? 朱美

風低く穭田を吹きわたりけり     幹三

青々と穭の尖りゆくばかり      幹三

◎海鳴りの能登の棚田の穭かな    正信

鵙猛る巫女は袴をひるがへす     幹三

心こめ旬の食材秋惜しむ      太美子

 

暁子特選句講評

・月光を纏ひて降り来る秋の声     昴

 「纏ひ降り来る」とすれば中七に収まるがどうでしょうか。秋の声とは実際には聞こえないが「心に感ずる音、すなわち秋の気配といったものである。」(ホトトギス新歳時記)一年の内でも特に美しい秋の月の光を纏って天から聞こえてくる秋の声とはどんな音色だろうか。心の中に銀鈴のような音が響いているのだろうか。

 

・秋の声丸き口開く埴輪かな     幹三

 第一句と異なり、こちらは暖か味を帯びた柔らかい声が聞こえてくるような気がする。沢山の埴輪が並んで合唱しているのかもしれない。しかし決して明るい弾むようなリズムの歌ではない。埴輪は可愛いが、どこか哀愁を感じさせる。墳墓と関係があるからだろうか。

 

・秋惜しむ入日華やぐ朱雀門     輝子

 広大な平城京趾に建つ朱雀門。夕日を遮るものはない。ひととき、いにしえの栄華が甦る。

 

・山の田に風より柔らかき穭    兵十郎

 山の田であるから棚田かもしれない。まばらに生える柔らかな穭、その柔らかさを風より柔らかと表現、風になびく様子を描かれた。

 

・海鳴りの能登の棚田の穭かな    正信

 「の」を三つ続けるのは場合によっては避けた方が良いこともあるが、この句では広く大きな景から視点を収斂させてゆくのに効果がある使い方だと思う。

 

・真夜中の散歩に出会ふ金木犀     橙

 金木犀は行き過ぎてふと匂いに気付き、振り返ったり後戻りしたりさせる樹だ。真夜中であればなおのこと、匂いによって樹の存在を意識されたのであろう。

互選三句

瑛三選         

大公孫樹洞より漏れる秋の声     和江

鵙鳴きて野に生ぬるき風吹けり    幹三

秋の声丸き口開く埴輪かな      幹三

 掘り出された眠りから醒めた埴輪。語るは何。案外大欠伸?

             

かな子選         

鵙鳴きて誰も起きない日曜日     暁子

隣人は施設へ転居鵙高音       暁子

鵙日和母の名うすき鯨尺       和江

 鵙高鳴く昼下り押入れに見つけた物差しにうすれた達筆の母の名。

 

邦夫選         

鵙鳴かず野の一点を見つめをり    幹三

未来なき穭のみどり風やさし    太美子

あかね雲哀しきまでに鵙の鳴く   かな子

 晴れた日の夕暮れ方の鵙の高音はひたぶるに哀しい。

                           

橙選         

風低く穭田を吹きわたりけり     幹三

鵙猛る巫女は袴をひるがへす     幹三

青々と穭の尖りゆくばかり      幹三

 もう用の終えた田に尖るほどの葉の勢いが秋のはかなさを感じる。

 

輝子選  

あかね雲哀しきまでに鵙の鳴く   かな子

撫でぼとけ塵置く膝に秋の声    兵十郎

鵙日和母の名うすき鯨尺       和江

 母の歳をこえて母の遺品にその姿をなつかしんでいる。

 

兵十郎選         

穭の穂さ揺れて日本海は晴      洛艸

鵙鳴くや今朝の青空裂く如く     暁子

秋の声丸き口開く埴輪かな      幹三

 埴輪の開いた口は何かを語りかけている、無口の戒か。

 

正信選         

鵙鳴かず野の一点を見つめをり    幹三

鵙猛る巫女は袴をひるがへす     幹三

月光を纏ひて降り来る秋の声      昴

 静寂なる秋の気配が月光を纏う事で神秘性をおびた。

             

翠選         

隣人は施設へ転居鵙高音       暁子

鵙日和母の名うすき鯨尺       和江

紅白の勝敗決し秋惜しむ      かな子

 今年は少し寂しい運動会、少し物足りなく秋もまもなく終る。

 

投句者選一句

朱美選         

海鳴りの能登の棚田の穭かな     正信

 広い景色、音、風、匂い、すべてが伝わってくる。

 

和江選         

秋の声阿修羅の眼いたはしく     輝子

 人の世へのまなざしと声ならぬ声をかんじました。

言成選         

朝顔や日を追い小さく咲きにけり  りょう

 写生の利いた素晴らしい句です。

太美子選         

秋の声丸き口開く埴輪かな      幹三

 埴輪の表情、土の色から秋の声を感じとられた繊細な心。

昴選         

行く雲に飛鳥の野辺の秋惜しむ    安廣

 飛鳥の野辺で見上げる空に流れ行く雲に秋への惜別の念。

茉衣選         

真夜中の散歩に出会ふ金木犀      橙

 真昼の散歩でも木犀との出会いは香。闇に馥郁たる香!

 

眞知子選         

月光を纏ひて降り来る秋の声      昴

 ひときわ冴えた秋の夜に見る月光の荘厳さと寂しさ。

盛雄選         

飛機画く白の軌跡に秋惜む      瑛三

 秋の澄んだ空の色と飛行機雲の白の取り合わせが印象的。

安廣選         

穭田を見つむ農夫の背に安堵      翠

 農夫の万感の思いをその背中に見られた所に共感します。

遊子選         

石庭に冥想夢想秋の声        瑛三

 石庭の秋、虫と鳥。人をもの想いに誘うひと時ですね。

洛艸選         

秋惜しむ四季が二季になりそうで   朱美

 今年の異常気象を「言い得て妙」。    

 

乱選         

鵙日和母の名うすき鯨尺       和江

 秋日和の縁側。鯨尺の母の名も薄れた。時は流れた。

りょう選         

鵙鳴きて誰も起きない日曜日     暁子

 冷え込んだ秋の朝、温かい布団の中が幸せな日曜日。

 

参加者自選句

ひっそりと木陰の池の面鵙の声    朱美

列車行く鉄路に残る秋の声      瑛三

穭田や雨ニモ風ニモ負ケズ日々    和江

古びたる魚板を打つや秋の声    かな子

梢より大地をかすめ鵙空へ      邦夫

穭田の畔まだ飾る赤い花       言成

秋の声ボタンを一つ掛け直す      橙

鵙高音急に忙しき日々となり    太美子

鵙鳴いて少し揺れたる枝の先     輝子

懐に大和三山秋惜む        兵十郎

月光を纏ひ降り来る秋の声       昴

飛石の落葉集めて秋惜む       茉衣

鵙の贄消えたる今朝の天守跡     正信

久々に落柿舎にゐて秋惜む     眞知子

娘らと伊勢路への旅秋惜しむ      翠

居残りの案山子一本秋惜しむ     盛雄

鮒釣の竿の雫や秋惜しむ       安廣

一代の過客の旅路秋深し       遊子

老いてなほ哲学の道秋惜しむ     洛艸

特に無し穭に好悪さう農夫       乱

行く秋や残り僅かの命なり     りょう

おめでとうございます

第11回永田青嵐顕彰全国俳句大会にて

 拓植大学長賞受賞     (2月23日)

一水に触れむばかりに萩白し  東野太美子

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