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第643回 令和3年2月15日

 

コロナの感染による緊急事態宣言が未だ解除されていないため、1月の例会と同じ方式の通信句会と致しました(5句出句)。

兼題 冴返る・下萌(幹三)

   春一番・猫柳(暁子)

   当季雑詠 通じて5句

選者吟 

飛んで来し春一番と叫ぶ声      幹三

下萌の高さに影の出来てをり

春時雨老いたるインド象の背に

冴返る園にギターを弾く男      暁子

春一番園の屋台を揺すぶれり

境内は下萌ゆるなり阿修羅像

 

幹三選 

◎春一番世に事無しと思ひけり     乱

冴返る少女糸切る糸切歯       正信

ひた向きの少年野球草萌る     りょう

晴天の鈍(のろ)きクレーン冴返る   邦夫

下萌やもう制服の届く頃       輝子

草萌ゆる池の辺そつと床几置く   兵十郎

◎春一番声の吹き散る鬼ごつこ    正信

猫柳指の感触ひとつづつ       茉衣

春一番園の屋台を揺すぶれり     暁子

水眺め物言わぬ君猫柳         昴

◎少年は怒りかくさず冴返る     輝子

◎うかうかと過ごせし日々よ下萌ゆる

                 かな子

下萌えのみどり逞まし水前寺     盛雄

里山の騒ぐ雑木や冴返る       遊子

冴返る予後を聴く椅子硬かりし    輝子

下萌を踏む楽しみを散歩する     言成

畦を行く老農の背や寒戻る      安廣

冴え返るなかなか抜けぬ仕付糸   眞知子

猫柳水面に映る影淡し         昴

春一番神杉の杜明るうす      兵十郎

花虻の羽音近づく昼下り       輝子

◎猫柳見れば必ず触れてみる     暁子

ふふむるもまだふふまぬも猫柳    和江

外に出でよ活動せよと春一番    眞知子

◎猫柳とうとう触れてしまいけり    橙

柔らかき雨降る朝や下萌ゆる     輝子

 

幹三特選句講評

・春一番世に事無しと思ひけり     乱

 順調に巡って来る季節の気配に、ほっとする今年である。強風の中、嬉しさと安堵の気持ちが生れたのである。

 

・春一番声の吹き散る鬼ごつこ    正信

 強風をものともせず走り回っている子の動きが伝わってくる。元気な子ども達にも緊張の続く大人にも春が来る。

 

・少年は怒りかくさず冴返る     輝子

 感情を隠さない少年の青さが「冴返る」という緊張と呼応している。余寒という時間の延長もまた感じられる。

 

・うかうかと過ごせし日々よ下萌ゆる

                 かな子

 自粛という言葉に甘えて、実は自分を怠けさせていたのではないか?「恋や事業や」始めるべ き春が来ているというのに。

 

・猫柳見れば必ず触れてみる     暁子

 少々廻り道になろうが、道がぬかるんでいようが触れてみたくなるのが猫柳。作者は子どもの時からそうしてきたのであろう。

・猫柳とうとう触れてしまいけり    橙

 暖かさの中で心をくつろがせる猫柳。触ってみればいいじゃないかと思うが何か躊躇するわけがあるのか?思わせぶりなところに惹かれた。

 

暁子選 

下萌に落ちた蜜柑がもぐり込む    朱美

◎冴返る老友欠けし読書会       翠

覚えなき傷指にあり冴返る      幹三

廃業のカフェの貼紙春寒し      安廣

◎晴天の鈍(のろ)きクレーン冴返る  邦夫

◎下萌やもう制服の届く頃      輝子

下萌や一歩踏み出す電話して    太美子

猫柳指の感触ひとつづつ       茉衣

春一番萎縮の命起こされて       乱

出勤のぐいと背を押す春一番     瑛三

水眺め物言はぬ君猫柳         昴

少年は怒りかくさず冴返る      輝子

聖書読み生きる喜び春兆す     りょう

リハビリに遅速のありぬ草萌ゆる  兵十郎

下萌を踏む楽しみを散歩する     言成

◎せせらぎのララバイ眠る猫柳   太美子

◎北窓を開けて光のフェルメール   盛雄

花虻の羽音近づく昼下り       輝子

春時雨老いたるインド象の背に    幹三

冴返る壁にピカソの泣く女       昴

春一番谷間の木々は舞踏会      茉衣

ダム湖めぐる市民マラソン四温晴   瑛三

山菜のほのかな苦み春の雪      遊子

柔らかき雨降る朝や下萌ゆる     輝子

夜中じゅうないて朝寝の春の猫    茉衣

春一番海へセスナ機ゆらぎ発つ    正信

 

暁子特選句講評

・冴返る老友欠けし読書会       翠

 この句会でも相次いでお二人が欠けた。その空白は埋めるべくもない。

 

・晴天の鈍きクレーン冴返る     邦夫

 大きな工事現場か、湾岸か、抜けるような青空を背景にきりんのようなクレーンがゆっくりと首を上げ下げしている。空気はまだ寒さにぴんと張りつめているが、どこか春の近い感じ。

 

・下萌やもう制服の届く頃      輝子

 幼稚園から高校まで、入園入学を待つ喜びを作者は制服に託して詠まれた。

 

・せせらぎのララバイ眠る猫柳   太美子

 「せせらぎのララバイ」で切れる。せせらぎの歌う子守唄に、川辺の猫柳は心地よく眠っている。

 

・北窓を開けて光のフェルメール   盛雄

 冬中閉め切って北風を防いでいた窓。その窓を開けた途端に差し込んで来た春の日差しに、作者は窓の明かりを描いたフェルメールの絵を思われた。

 

互選三句

朱美選         

下萌を素足に踏みて子等駆ける    安廣

冴返る予後を聴く椅子硬かりし    輝子

柔らかき雨降る朝や下萌ゆる     輝子

 コロナ禍の昨今でなく楽しく春を待っていた頃に戻れた。

 

瑛三選         

覚えなき傷指にあり冴返る      幹三

小流れの音従へて猫柳        言成

下萌やもう制服の届く頃       輝子

 孫娘は制服だけで高校を択んでいた。希望の日々。

 

和江選         

少年は怒りかくさず冴返る      輝子

春一番楠轟きて心地よし        橙

下萌や大地の詩をいとほしみ     邦夫

 佐保姫の奏で始める詩の中にも今日ある不確かさを思う。

 

かな子選         

冴返る少女糸切る糸切歯       正信

下萌えのしかとなぞるや田の起伏    乱

春時雨老いたるインド象の背に    幹三

 異国の春の雨に老いた象は何を夢見ているのだろう。

 

邦夫選         

畦を行く老農の背や寒戻る      安廣

下萌ゆる大地に力みなぎりて     瑛三

さらさらとささやく川にねこやなぎ りょう

 猫柳を巡って音と光が織りなす早春の明るい川縁の景。

 

言成選         

今日暖雨明日冴返るてふ予報     瑛三

春一番神杉の杜明るうす      兵十郎

下萌や母娘二人の鬼ごつこ      正信

 きゃっきゃと女の子の声が聞こえそうな写生句。

 

橙選         

冴返る少女糸切る糸切歯       正信

春一番声の吹き散る鬼ごつこ     正信

晴天の鈍(のろ)きクレーン冴返る   邦夫

 朝思わぬ寒さ。真っ青な空にお日様と無機質なクレーン。

 

太美子選         

下萌やもう制服の届く頃       輝子

春一番神杉の杜明るうす      兵十郎

石庭の黙との対話冴返る        乱

 中七の措辞で深閑とした情景と底冷の厳しさを共感する。

 

輝子選         

春一番声の吹き散る鬼ごつこ     正信

冴返り鳥も訪ねて来ぬ日かな    太美子

ひた向きの少年野球草萌る     りょう

 作者の思い出か。ひた向きという言葉が填まっている。

 

兵十郎選         

廃業のカフェの貼紙春寒し      安廣

封切るや微かに香る梅便り     りょう

春一番声の吹き散る鬼ごつこ     正信

 春一番の吹き荒れる中での鬼ごっこ。元気いっぱいだ。

 

昴選         

春一番萎縮の命起こされて       乱

うかうかと過ごせし日々よ下萌ゆる かな子

畦を行く老農の背や寒戻る      安廣

 この老農には春一番も下萌も不要だろう。ミエと対比。

茉衣選         

猫柳水面に映る影淡し         昴

山菜のほのかな苦み春の雪      遊子

下萌えのみどり逞まし水前寺     盛雄

 翠の美しい水前寺公園の絵葉書が思い浮かばれます。

 

正信選         

少年は怒りかくさず冴返る      輝子

春時雨老いたるインド象の背に    幹三

リハビリに遅速のありぬ草萌ゆる  兵十郎

 遅速はあれど改善中。それと草萌ゆるが響き合う。

 

眞知子選         

リハビリに遅速のありぬ草萌ゆる  兵十郎

春時雨老いたるインド象の背に    幹三

冴返る予後を聴く椅子硬かりし    輝子

 ぴんと張りつめた空気の中早鐘を打つ心臓で祈る作者。

 

翠選         

冴返る少女糸切る糸切歯       正信

下萌の高さに影の出来てをり     幹三

春一番海へセスナ機ゆらぎ発つ    正信

 強風に抗し飛び立つ小型機。不安な気持ちで応援。

 

盛雄選         

春一番声の吹き散る鬼ごつこ     正信

さらさらとささやく川にねこやなぎ りょう

春一番海へセスナ機ゆらぎ発つ    正信

 春一番が吹き一瞬海に飛び発つ時の機体の揺れがいい。

 

安廣選         

下萌の高さに影の出来てをり     幹三

下萌や母娘二人の鬼ごつこ      正信

春時雨老いたるインド象の背に    幹三

 じっと佇むインド象の体温や優しい眼差が伝わって来る。

 

遊子選         

下萌や一歩踏み出す電話して    太美子

春一番声の吹き散る鬼ごつこ     正信

春一番谷間の木々は舞踏会      茉衣

 春待つ木々のざわめき  人の期待のときめきが交響しあう。

 

乱選         

上る日の朱色に立ちて冴返る      橙

ぶらんこに春一番来て裾が舞う    朱美

冴返る壁にピカソの泣く女       昴

 感情に季題を用いた。時に現実は残酷で寒く冷たい。

 

りょう選         

待ち人は来ず踏切の音冴返る    かな子

冴返る予後を聴く椅子硬かりし    輝子

下萌やもう制服の届く頃       輝子

 憧れの学校の新しい制服を着る春の喜びが伝わります。

 

参加者自選句

春一番枯れ木の小枝も楽しげに    朱美

下萌ゆる大地に力みなぎりて     瑛三

ふふむるもまだふふまぬも猫柳    和江

淡淡と夕日光らせねこやなぎ    かな子

下萌や大地の詩をいとほしみ     邦夫

小流れの音従へて猫柳        言成

猫柳とうとう触れてしまいけり     橙

下萌や一歩踏み出す電話して    太美子

花虻の羽音近づく昼下り       輝子

冴返る朝や雨戸の節の穴      兵十郎

冴返る壁にピカソの泣く女       昴

夜中じゅうないて朝寝の春の猫    茉衣

春一番声の吹き散る鬼ごつこ     正信

天と地の力いただき下萌ゆる    眞知子

水しぶき下萌え光る急登かな      翠

連弾の白鍵黒鍵冴え返る       盛雄

畦を行く老農の背や寒戻る      安廣

春寒や巫女募集する案内版      遊子

石庭の黙との対話冴返る        乱

ひた向きの少年野球草萌る     りょう

 

悼 故三宅洛艸様

風花の舞ふや十一人の曽孫      暁子

白寿にて青年の心句に満てり     朱美

逝かれたる百寿の春を待たずして   瑛三

白寿なる艸の守りし冬すみれ     和江

安らかに眠られ給へ梅かをる    かな子

寒晴に京大阪の一世紀        邦夫

早梅散る白寿の命終へられて     言成

大寒やお顔見ぬままお別れす      橙

風雅愛でし百寿の訃音寒の雨    太美子

純白の寒椿落つ端然と        輝子

朝霜や宇治の川辺に友隠し     兵十郎

瞑れば名乗る声なほ寒の菊       昴

訃報受けふと侘助におもかげを    茉衣

寒菊や百寿間際の大往生       正信

逝かれしを惜しみつ仰ぐ冬の月   眞知子

冬ぬくし洛艸さんの大き耳      幹三

百年の人生思ふ寒昴          翠

君還るふるさとの海母の海      盛雄

寒椿古武士のごとき君偲ぶ      安廣

あらたまの年や詩魂の大往生     遊子

蝋梅や句友偲びて洛南に        乱

白寿なり隠れし日には福寿草    りょう

 

 去る1月20日、三宅洛艸様が99歳でお亡くなりになりました。皆様に弔句をお願いしましたところ、全員から一句ずついただくことができました。謹んでご仏前にお供えさせていただきました。あらためてここに掲載させていただきます。

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