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第636回 令和2年7月20日

 

6月の例会同様、前日までに参加者に投句して頂くなどいわゆる「3密」を避けて、大阪俱楽部で行われました。

兼題 夏の月・仙人掌(幹三)

   夏館・日傘(暁子)

   当季雑詠  

 

選者吟 

やはらかく顔に日傘の色映る     幹三

川に汐上り来る音夏の月

言ひつけは仙人掌に水やらぬこと

贋作を堂々と掛け夏館        暁子

かすかなる日傘の奥の微笑かな

舟となり雲の海ゆく夏の月 

 

幹三選

まだ熱き砂丘の闇に夏の月      瑛三

昼釣りし魚の話や夏の月      兵十郎

煙無き浅間に微動夏の月       和江

仙人掌や同じ所に同じ風        橙

拭き上げし玻璃の小窓や夏館     正信

静寂抜け鴉一声月涼し         翠

絵日傘を傾げ母似の片えくぼ    かな子

ガタゴトと揺れる車輌や野仙人掌  兵十郎

民宿のひりつく肌に夏の月     兵十郎

◎月涼し岬の端(はな)で泊つ今宵  太美子

サボテンの小鉢机上に大富豪     洛艸

バス降りて次々開く日傘かな     瑛三

月涼し事多き日の暮れたれば     輝子

◎方舟を想ふ出水となりにけり    遊子

踏み込みではらりとほどく日傘かな   橙

◎失せものセンター愛用日傘と再会す  翠

へりくつの子につき合へば夏の月  かな子

灼熱に耐ふる仙人掌見上げたり    邦夫

白日傘右に曲がりて川筋を      邦夫

◎仙人掌の棘より赤し地平線     正信

◎捨て鉢に仙人掌の花咲いてゐる   瑛三

島晴れの離島明るき夏館       盛雄

◎晴れあがる空に日傘を突き刺しぬ   橙

◎ほとぼりの冷めぬ道なり夏の月  かな子

白南風や高層階を鳥掠め       遊子

 

幹三特選句講評

 

・月涼し岬の端で泊つ今宵     太美子

 夏の月の涼味に加えて海に突き出している宿。まことに涼しそうである。特別な「今宵」となりそうである。

 

・方舟を想ふ出水となりにけり    遊子

 いつもと全く違う河を見ているといろいろな想像が浮かぶ。例えば地球規模の洪水、そして泥の色の波と渦に翻弄される方舟である。

 

・失せ物センター愛用日傘と再会す   翠

 外出の時いつも一緒の日傘である。さまざまな思い出があり、杖や鞄とはまた違う愛着がある。小さく捲かれて手元に戻った可愛い私物。

 

・仙人掌の棘より赤し地平線     正信

 ワイルドである。近景に厳しい棘を持つ仙人掌があり、遠景には赤く染まった地平線。何処の景色かは知らないが、サボテンにはよく似合う。

・捨て鉢に仙人掌の花咲いてゐる   瑛三

 サボテンは強い。水を多く必要としないこともあり捨て置かれたまま花をつけていたのであろう。「咲いてゐる」という冷静さも景と合っている。

 

・晴れあがる空に日傘を突き刺しぬ   橙

 女性の携えている脆弱なものと思ったら、その物でもって厳しく照りつける太陽と戦う構えである。守りから攻めに転じている、とも。日傘の意外な捉え方。

 

・ほとぼりの冷めぬ道なり夏の月  かな子

 いまだ冷めないのは気温だけではない。何か忘れられないことがあった日の夕方なのではないか。火照った夏の月、赤ちゃけた色の月を思った。

 

暁子選

◎やはらかく顔に日傘の色映る    幹三

日傘選る歳重ねても花の柄      輝子

仙人掌の原野過りてアカプルコ    遊子

◎昼釣りし魚の話や夏の月     兵十郎

ロワールをさかのぼる帆や夏の月    昴

川に汐上り来る音夏の月       幹三

◎ガタゴトと揺れる車輌や野仙人掌 兵十郎

月涼し岬の端(はな)で泊つ今宵   太美子

昭和経し父の日傘の重さかな     和江

渓流を独り占めたる夏の宿      洛艸

方舟を想ふ出水となりにけり     遊子

失せものセンター愛用日傘と再会す   翠

台湾の屋台をはしご夏の月      幹三

月涼し今日の終りにコーヒーを    輝子

◎燃え出でてやがて色澄む夏の月   洛艸

命託す癌病棟の梅雨深し       安廣

洋菓子で抹茶味はふ夏館       言成

母と叔母の昭和偲ばす白日傘    眞知子

白南風や高層階を鳥掠め       遊子

島晴れの離島明るき夏館       盛雄

岩を食む流れ間近に夏館      兵十郎

リモートの卓にサボテンコメントす  和江

◎閉店のドアに一本忘れ傘      安廣

 

暁子特選句講評

 

・やはらかく顔に日傘の色映る    幹三

 雨傘の広告でも「お顔の色が明るく見えます」という謳い文句を見るが、やはりこれは明るい日差しが背後にある日傘の方がふさわしいだろう。強い日差しが、日傘を通して柔らかい色を与える。「映る(うつる)」だが、私の好みは「映ゆる(はゆる)」か。

・昼釣りし魚の話や夏の月     兵十郎

 昼間の活躍振りを、浜辺であろうか、宿であろうか、月光を浴びながらいささか自慢げに。

 

・ガタゴトと揺れる車輌や野仙人掌 兵十郎

 メキシコの旅の思い出だろうか。人の背よりも大きな仙人掌が並び立っている原野を、ゆっくりと旧式の列車が過る風景を思い浮かべた。

 

・燃え出でてやがて色澄む夏の月   洛艸

 夏の月はまだ暑さの去らない空に赤味を帯びてかかり、やがて夜が更けるにつれて澄んでゆき、「月涼し」となる。

 

・閉店のドアに一本忘れ傘      安廣

 誰もが見たことがあると頷ける一齣。季題がないので、無季の句として採らせていただいた。

 

互選三句

瑛三選         

絵日傘やくるりくるりと初デート  りょう

贋作を堂々と掛け夏館        暁子

帯選りて日傘も派手に母外出     乱

 元気なお母さん。私もあやかりたい。楽しい句です。

 

かな子選         

川に汐上り来る音夏の月       幹三

たをやかに客のたためる日傘かな   邦夫

ベランダに仙人掌育て不登校    暁子

 不登校の子の気持ちと仙人掌の姿が重なり採りました。私も仙人掌に似ている気がする。「そんなことないよ」との声あり。

邦夫選         

月涼し事多き日の暮れたれば     輝子

振り向かず日傘を上げて応へけり   幹三

舟となり雲の海ゆく夏の月     暁子

 夏の月が舟となって雲の海をゆく姿はいかにも涼しげで、夏の月の本意というか情趣のようなものが上手く表現されているように思います。

 

言成選         

拭き上げし玻璃の小窓や夏館     正信

振り向かず日傘を上げて応へけり   幹三

◎絵日傘や程よき距離の姉妹      翠

 日傘で詠まれた微笑ましい情景、好ましく頂きました。

 

輝子選         

昼釣りし魚の話や夏の月      兵十郎

踏み込みではらりとほどく日傘かな   橙

◎ベランダに仙人掌育て不登校    暁子

 何があったのか不登校になっている男子中学生、誰にも何も言わないが仙人掌には心を通わせているようだ。仙人掌と不登校のとりあわせがなるほどと思わせる。

兵十郎選         

いつまでも船を見送る日傘人     洛艸

夏館家具なき部屋に風の道      輝子

松籟に添ふて水音夏館      太美子

 小高い丘に小流れを作り松を植えた夏館の涼しさを想像させる。以前ツアーで行ったことがある風景を思いだした。

             

正信選         

昭和経し父の日傘の重さかな     和江

絵日傘を傾げ母似の片えくぼ    かな子

晴れあがる空に日傘を突き刺しぬ   橙

 梅雨に加えてコロナ禍の憂鬱な日々。たまさかの快晴に日傘を高々と上げる。「突き刺しぬ」に日々の憂さを吹き飛ばす作者の気持が良く出ている。

眞知子選         

いつまでも船を見送る日傘人     洛艸

舟となり雲の海ゆく夏の月      暁子

贋作を堂々と掛け夏館       暁子

 古く小さな洋館かな。建具も古り掛けられた絵も古り贋作といえどとけ込んで誰も気にしない。

 

翠選         

ビーチから砂日傘消え空と海     茉衣

若き母パラソルかざす乳母車     瑛三

◎若き日の手刺繍も古り白日傘   眞知子

 昔、友人が母の手刺繡だという日傘を持っており羨ましく思った。そんなことを思い出した。

参加者自選句

若竹の先端見る首百八十度      朱美

豪農の三太夫ゐる夏館        瑛三

昭和経し父の日傘の重さかな     和江

絵日傘を傾げ母似の片えくぼ    かな子

白日傘右に曲がりて川筋を      邦夫

夕映えの明石海峡夏館        言成

夏の月ワイングラスを差し出しぬ    橙

月涼し岬の端(はな)で泊つ今宵   太美子

太き梁みせて小暗し夏館       輝子

仙人掌の咲くや葉先を食ひ破り   兵十郎

ロワールをさかのぼる帆や夏の月    昴

ビーチから砂日傘消え空と海     茉衣

仙人掌の棘より赤し地平線      正信

坪庭に視線集まる夏館       眞知子

女王花真夜の絵筆を香の包む      翠

夏燕君青空へ旅立ちぬ        盛雄

閉店のドアに一本忘れ傘       安廣

仙人掌の原野過りてアカプルコ    遊子

サボテンの小鉢机上に大富豪     洛艸

帯選りて日傘も派手に母外出      乱

絵日傘やくるりくるりと初デート  りょう

この雨の染めてゆくらむ紅葉かな

Regen von heute

fängt an, Blätter der  Ahorne

roter zu färben            暁子

 

雨上がり山家俄かに鵯の声

Just after the rain,

the bulbul’s voices suddenly  rise

at the mountain cottage      盛雄

 

麗しき母の仮名文字石蕗の花

Japanese silver leaf flower

Kana calligraphy

left by my mother         和江

   HAIKU INTERNATIONAL 

   No.147より

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