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第655回 令和4年1月17日      

例会は、オミクロン株などのコロナ感染者が急増したため、急遽これまでの方式の通信句会に切り替えて行なわれました(全員5句出句)。


出句者

 瀬戸幹三・山戸暁子・植田真理

 碓井遊子・覚野重雄・草壁昴・鈴木輝子

 鈴木兵十郎・瀬戸橙・鶴岡言成・寺岡翠

 中嶋朱美・中村和江・西川盛雄

 根来眞知子・東中乱・東野太美子

 平井瑛三・宮尾正信・向井邦夫・森茉衣

 山田安廣(計22名)


兼題

 探梅・寒燈(幹三)

 福引・餅花(暁子)

 当季雑詠  通じて5句
     
選者吟
対岸のふつと消えたる寒灯      幹三
賑やかな店の餅花揺れやまず
福引の五等を告げる小さき声
福引や出たがつてゐる外れ玉     暁子
探梅や日当たる方へ人動く
振袖の触れて餅花揺らしけり

 
幹三選 
◎探梅のつもり遠くのポストまで  太美子
◎福引や一等賞の人の後       正信
探梅や紀州の丘を日を浴びて     邦夫
寒燈の下受験生帰りゆく       真理
買初のピロシキにあるやはらかさ    橙
◎背につぼの記憶の在りて寒灸     橙
◎寒灯のわが影追うて帰りけり    瑛三
寒燈下門扉に鍵を差し込めり     邦夫
息凝らし一瞬静まる福引場       昴
もう少し行けば行けばと梅探る    輝子
境内の寒灯ともり門閉まる     眞知子
待ってました繭玉揺れる松竹座     翠
◎振袖の触れて餅花揺らしけり    暁子
冬灯ぎいつと閉まる重き木戸    眞知子
いつ眠る寒燈消えぬ工学部       乱
◎冬灯ほつと灯れば闇降りぬ    眞知子
薔薇色の空に白鳥飛び立ちぬ     遊子
凭れ合ふ背文字凍てつく地下の書庫  正信
探梅や日当たる方へ人動く      暁子
新しき論点嬉し寒燈下         乱
福引の小さき幸せポケットに     安廣
鳥の来て蕊を舐めたる三日かな    遊子
探梅や気づけば山の辺の小径    兵十郎
爆笑にゆれる餅花演芸場       重雄
香をたどり我家の庭を梅さがし    重雄
一輪に励まされたる探梅行      暁子
ひび割れし鏡餅切る濡れ包丁     言成
◎福引に商店街のお歴歴       輝子
仲見世の左右に垂るる団子花     邦夫
   
幹三特選句講評
・探梅のつもり遠くのポストまで  太美子
 春を見つけたいという気持ちが伝わります。ことさら遠くに行くのではなく、ちょっと足を伸ばしたまでのこと。しかし目はあちこちに動いていたことでしょう。


・福引や一等賞の人の後       正信
 川柳っぽい諧謔のある句です。福引にこれから望むという小さな緊張感が描けています。数学的には連続して一等が出ても不思議ではないのですが。

・背につぼの記憶の在りて寒灸     橙
 いつもの場所に熱さが伝わって来た時、体の記憶が蘇りました。「あ、そこそこ、効く効く」と。真夏にすえる灸は「土用灸」、それ以来なのでしょうか。

・寒灯のわが影追うて帰りけり    瑛三
 夜道を照らす寒灯です。どこからの帰りなのでしょうか。寒さと言い、前傾姿勢を感じるところから、何か意に添わぬことでもあったのでしょうか。余白の広い句。

・振袖の触れて餅花揺らしけり    暁子
 餅花と言えば揺れる句が多いですね。どういう風に揺れるかがポイント。その点この句はあでやか。振袖の色柄や娘さんの所作、笑顔なども目に浮かびます。

・冬灯ほつと灯れば闇降りぬ    眞知子
 明りが点ると暗闇が降りて来た、つまり明るいところが出来たことで闇の暗さが際立ったということです。寒さの中の明暗、「ほつと」というオノマトペも効果的。

・福引に商店街のお歴歴       輝子
 確かに福引のテントの中に年配の方々が控えてますね。福引は商店街の大売出しの目玉、主催者側にも緊張があるわけです。これも新年ならではの光景、面白い。

 


暁子選
探梅のつもり遠くのポストまで   太美子
青空に誘われいつしか探梅に     朱美
探梅や土に埋もれしトリス瓶     真理
竹筒の寒灯それぞれに想ひ       翠
探梅の道には二、三青きもの     安廣
すこやかに迎へし安堵初鏡     太美子
探梅や紀州の丘を日を浴びて     邦夫
餅花と舞妓華やか菓子処        乱
◎探梅や大峰下る鈴の音        昴
寒灯のわが影追うて帰りけり     瑛三
餅花や神棚こたつ親の家      眞知子
寒灯や緊急工事の深き穴      兵十郎
スケボーの地を撃つ音や寒椿     正信
◎もう少し行けば行けばと梅探る   輝子
華やかや銀座越後屋餅の花      和江
◎待ってました繭玉揺れる松竹座    翠
いつ眠る寒燈消えぬ工学部       乱
賑やかな店の餅花揺れやまず     幹三
薔薇色の空に白鳥飛び立ちぬ     遊子
凭れ合ふ背文字凍てつく地下の書庫  正信
◎対岸のふつと消えたる寒灯     幹三
福引の五等を告げる小さき声     幹三
爆笑にゆれる餅花演芸場       重雄
読み返す師の講義の書寒燈下    太美子
談笑の輪にまた一人探梅行      盛雄
仲見世の左右に垂るる団子花     邦夫


暁子特選句講評

・探梅や大峰下る鈴の音        昴
 奈良の大峰山は修験道の根本霊場である。山伏姿の先達の案内で一般の人も参加できる。探梅の途中で、山を下りてきた修行者たちの一行と出会われたのだろうか。

・もう少し行けば行けばと梅探る   輝子
 梅がもう咲いているかと野山に探しに出かけられたが、まだ時期が早かったのか、中々見つからない。もう少し奥に行けば見つかるかと、意地になって足をのばす。

・待つてました繭玉揺れる松竹座    翠
 「待つてました」は舞台へ向かっての掛け声か、或いはコロナで中止、延期が続き、やっと上演された喜びか、いづれにせよ、弾んだお正月の観劇風景が表現されている。もし旧かなならば「揺るる」。餅花は枝に小さな紅白の餅をつけて作る小正月(十四日)の飾り。餅花をつけると枝は稲穂のように頭を垂れるので、今年の豊作の願いを込めて飾る。繭をかたどったものを繭玉といい、元々は養蚕の盛んになるのを祈願したもの。いずれも現在では装飾の要素が多い。

・対岸のふつと消えたる寒灯     幹三
 対岸の風景をぼんやりと見ていた。不意にふっと一灯が消えた。単に家の灯が家人によって消されただけかもしれない。しかし作者の胸には、冬の夜の不安、心細さのようなものが広がった。

*「探梅行口数減りて来し我ら」

 表現をもう一工夫されれば良い句になる。


*「探梅や気づけば山の辺の小径」

 佳句であるが、普通の山の辺の小径なのか、歴史的な固有名詞に近い「山の辺の道」なのか、分かりにくいのが残念だった。


*「餅花や神棚こたつ親の家」の季重なりは許容範囲であると思う。

互選三句
朱美選        
餅花や神棚こたつ親の家      眞知子
木々枯れて千両万両幅利かす     茉衣
いつ眠る寒燈消えぬ工学部       乱
 身に覚えのある人多いのでは?


瑛三選        
世界から食の揃へるお節かな     遊子
対岸のふつと消えたる寒灯      幹三
振袖の触れて餅花揺らしけり     暁子
 正月らしい華やかで楽しい句。両者の高さ気になるが。


和江選        
新しき論点嬉し寒燈下         乱
福引は外れの笑顔聖家族       盛雄
いつ眠る寒燈消えぬ工学部       乱
 里は神戸大工学部の足元に、あの頃あの光が懐かしい。

邦夫選        
境内の寒灯ともり門閉まる     眞知子
福引の五等を告げる小さき声     幹三
探梅や日当たる方へ人動く      暁子
 寒く不首尾な探梅、人は自ずと日の当たる場所へ向かう。

言成選        
福引や一等賞の人の後        正信
探梅や気づけば山の辺の小径    兵十郎
木々枯れて千両万両幅利かす     茉衣
 庭木は概ね葉を落とし、千両、万両の赤い実が特に目立つ。


重雄選        
寒灯のわが影追うて帰りけり     瑛三
一輪に励まされたる探梅行      暁子
探梅行口数減りて来し我ら      幹三


橙選        
寒灯のわが影追うて帰りけり     瑛三
ひび割れし鏡餅切る濡れ包丁     言成
通過せし鉄路しばらく冬灯      盛雄
 電車の後ろ姿がだんだん小さくなっていく寂しさ。


太美子選        
竹筒の寒灯それぞれに想ひ       翠
もう少し行けば行けばと梅探る    輝子
手の甲のいとほし祖母の餅の花    和江
 何でも出来るお祖母様の皺のある手。敬愛の情深い。


輝子選        
福引の幸を一粒持ち帰る        橙
寒灯や緊急工事の深き穴      兵十郎
いつ眠る寒燈消えぬ工学部       乱
 実験が続くのか。特に工学部は深夜に及ぶものらしい。

兵十郎選        
探梅や日当たる方へ人動く      暁子
対岸のふつと消えたる寒灯      幹三
福引の幸を一粒持ち帰る        橙
 当たった福引は何であれ幸である。そっと持ち帰ろう。

昴選        
福引や出たがつてゐる外れ玉     暁子
振袖の触れて餅花揺らしけり     暁子
対岸のふつと消えたる寒灯      幹三
 孤絶の燈。孤高の士の消えるさまもかくのごとしか。

茉衣選        
寒燈の下受験生帰りゆく       真理
寒燈をたどりて進む闇の中       橙
探梅や紀州の丘を日を浴びて     邦夫
 陽光そそぐ南部の丘に梅を訪ねる心地よい喜び。

正信選        
寒灯や緊急工事の深き穴      兵十郎
餅花の罅(ひび)から焼けて香り立つ 兵十郎
探梅や土に埋もれしトリス瓶     真理
 いつ頃に埋もれた瓶か?トリス瓶の一言で時代が蘇る。


眞知子選        
寒燈下門扉に鍵を差し込めり     邦夫
新しき論点嬉し寒燈下         乱
流れ星流れの果ての冬灯        昴
 流れ星がつーと流れ寒灯へ。誰も見てなかったあの夜。

真理選        
地震に消ゆ福引にぎし灘市場     和江
風抜けるシャッター前の福引台    重雄
スケボーの地を撃つ音や寒椿     正信
 スケボーの若々しさと寒椿の鮮やかさの取合せが巧み。

翠選        
新しき論点嬉し寒燈下         乱
爆笑にゆれる餅花演芸場       重雄
読み返す師の講義の書寒燈下    太美子
 昔の懐かしい講義ノート。寒さを忘れて読んでいた。

盛雄選        
もう少し行けば行けばと梅探る    輝子
凭れ合ふ背文字凍てつく地下の書庫  正信
ひび割れし鏡餅切る濡れ包丁     言成
 正月後ひび割れた鏡餅を切る包丁の心がよく伝わる。


安廣選        
流れ星流れの果ての冬灯        昴
背につぼの記憶の在りて寒灸      橙
凭れ合ふ背文字凍てつく地下の書庫  正信
 極寒の書庫の冷たさの中に本達への愛しさを感じる。

遊子選        
流れ星流れの果ての冬灯        昴
談笑の輪にまた一人探梅行      盛雄
凭れ合ふ背文字凍てつく地下の書庫  正信
 書庫での文献探し。背文字も凭れあって寒さを凌ぐ風情。

乱選         
振袖の触れて餅花揺らしけり     暁子
寒燈下黒猫ヤマトの配達員      茉衣
冬灯ほつと灯れば闇降りぬ     眞知子
 冬灯が灯り闇の生まれる瞬間を描写した繊細な句。
 

参加者自選句
福引に当たりし孫の頬赤し      朱美
梅探りて思はぬ人と出会ひけり    瑛三
早世の子を抱く兄に冬灯し      和江
寒燈下門扉に鍵を差し込めり     邦夫
据わりよき橙載せて鏡餅       言成
爆笑にゆれる餅花演芸場       重雄
買初のピロシキにあるやはらかさ    橙
餅花の太き梁よりしたたれり    太美子
足音の乾きて軽し探梅行       輝子
寒灯や緊急工事の深き穴      兵十郎
探梅や大峰下る鈴の音         昴
薺粥フリーズドライをアメリカへ   茉衣
スケボーの地を撃つ音や寒椿     正信
冬灯ぎいつと閉まる重き木戸    眞知子
雪の夜やフィラメント燃え尽きて闇  真理
待ってました繭玉揺れる松竹座     翠
侘び寂びは知らず句を吐く白水仙   盛雄
福引の小さき幸せポケットに     安廣
キーボード叩き続けり去年今年    遊子
餅花の滴る北野花手水         乱

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