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第668回 令和4年12月19日

 

例会は、コロナ感染の状況も安定して来たため、10月に続いて会員の投句から成る「清記」を材料に通常の形で大阪俱楽部で行われました。


参加者

 瀬戸幹三・山戸暁子・小出堯子・鈴木輝子

 鈴木兵十郎・寺岡翠・東中乱・東野太美子

 宮尾正信・植田真理・碓井遊子・向井邦夫

 草壁昴・西條かな子・鶴岡言成・中嶋朱美

 中村和江・西川盛雄・根来眞知子

 平井瑛三・森茉衣・山田安廣

              計22名


兼題

 嚔・冬の朝(幹三)

 暖房一切・短日(暁子)

 当季雑詠       通じて8句

 

選者吟
値付けられ子犬の眠る毛布かな     幹三
短日の余りを使ひ釘を打つ
訃報読む暖房の音だけの部屋

暖房の部屋に睡魔と一騎打       暁子 
密談めく炬燵に寄りし一家かな
嚏してはつと気のつく視線かな

 

幹三選

入選句特選句
◎若き歩に次々抜かれ日短      太美子
◎大根煮るわが物忘れ多き日々    かな子
寒暁の象舎に軋る足鎖         正信
大くさめ続く小くさめいつまでも    瑛三
五十年持ち続けたり手焙を      兵十郎
◎冬の朝すくめし首の引き出せず   真知子
転ぶなと呟く戸口冬の朝         翠
◎赤ん坊の小さく甘きくさめかな   かな子
心までとび出しさうな嚏かな      暁子
短日や老樹に記す伐採日        正信
みどり児の泡のやうな嚏かな     太美子
短日や三時の畑に家の陰        邦夫
◎わが知らぬ祖先に及ぶ炉辺話     暁子
◎スターター幾度も蹴りし冬の朝    真理
一駅で車窓は闇に暮れ早し       堯子
はなやかなロビー静かに暖炉燃ゆ   太美子
スチームの音なす二つ星ホテル     正信
◎豹柄の服を捩りて大嚔       兵十郎
小兵なれど嚏豪快なりし夫        翠
爆ぜる火に掌炙る冬の朝        真理
覗き込むドールハウスの聖樹の灯    正信
独居老健在なりと大嚏          翠
嚏してはつと気のつく視線かな     暁子
鍋乗せしストーブひと日ゆるく燃ゆ  真知子
哲学の講義に響く嚏かな        正信
風紋の砂丘にこぼす嚏かな       正信
   
幹三特選句講評
・若き歩に次々抜かれ日短      太美子
 追い越されることによって感じる短日の忙しなさ。しかし作者が焦っているようには思えない。自然の時間に身を任せているように思える。

・大根煮るわが物忘れ多き日々    かな子
 取り合わせに俳味がある。前句と同様、もの忘れする自分を穏やかに受け入れている。

・冬の朝すくめし首の引き出せず   真知子
 冬の朝の表現としてとても面白い。身体が自分の言うことをきかない状態なのである。首をすくめたまま時々「さむ」などと独り言を言う。

・赤ん坊の小さく甘きくさめかな   かな子
 赤ん坊のくさめに味覚を持ち込んだのは新鮮。赤ん坊独特の匂いも思い出され、なるほどと感心した。

・わが知らぬ祖先に及ぶ炉辺話     暁子
 語っているのは長老であろうか。炉辺という安らかで気持ちいい場所ならではの長いストーリーが語られてゆく。

・スターター幾度も蹴りし冬の朝    真理
 冬の朝のしきたりのようである。蹴ることにより冷え切った機械を目覚めさせる。そして人は目覚めた機械にまたがって出かけて行く。

・豹柄の服を捩りて大嚔       兵十郎
 大阪のおばちゃんであろうか、豪快なくしゃみ。くしゃみだけでなく服の柄を見ているところが俳人。ところで、俳句の主語は作者なので「豹柄の服を捩った」のは自分ということに。「豹柄の服の捩れて大嚏」「豹柄を着てゐる人の大嚏」などの工夫が必要と思います。

暁子選 
入選句特選句
隣室の嚔に目覚む木賃宿        安廣
短日やブランコの子に月明り      朱美
寒暁の象舎に軋る足鎖         正信
何構ふ無為に過ごさむ短日を       乱
嚏して居心地悪きバスの中       輝子
◎みどり児の泡のやうな嚏かな    太美子
短日や三時の畑に家の陰        邦夫
さへざへと樹のシルエット冬の朝   太美子
◎暖炉燃ゆおとぎ話の裏怖し     眞知子
論文を仕上げ寝につく冬の朝      遊子
煙一条暖炉団欒思はれて         乱
寒牡丹久しき友の美しく老い      和江
暮早し町内清掃手抜きもし       輝子
短日を「もう一回」と草野球      安廣 
哲学の講義に響く嚔かな        正信
ストーブに弁当積みし友如何に      乱
◎寒暁や拡がる鉄路操車場       盛雄
◎短日や大落暉ある駅に着く       翠
宴待つポインセチアの階段を     太美子
ポケットに固し昨日の貼る懐炉     輝子
寒暁の風の渦鳴るビルの底       正信
独居老健在なりと大嚏          翠
◎冬の朝脈と血圧まあ良しと      輝子

特選講評
・みどり児の泡のやうな嚏かな    太美子
 赤ちゃんの嚏を「あぶくのやうな」と表現された。小さい小さい口をとがらせて、「くしゅ」とする嚏が可愛らしく描かれた。

・寒暁や拡がる鉄路操車場       盛雄
 凍てつく冬の明け方、見渡す限り広がる無機質な空間。「寒暁」の表現として適切だと思う。

・冬の朝脈と血圧まあ良しと      輝子
 軽みの味わいのある句であるが、これも「冬の朝」という季題が上手く詠まれている。

・短日や大落暉ある駅に着く       翠
 日が短いから着いた時はもう日没。駅の背景が海や山ならば感激も一入だろう。

・暖炉燃ゆおとぎ話の裏怖し     眞知子
 おとぎ話は昔から子ども達の人格形成上、大きな影響を及ぼしてきた。同時に子どもの、またはそれを語る大人の心を映し出したものといえよう。おとぎ話には残酷な要素、性差別や社会的格差という暗い面がある。そのことを「裏怖し」と言われたのかと思う。

 
参加者自選句
短日やブランコの子に月明り      朱美
夕支度慌てて始む暮早し        瑛三
寒牡丹久しき友の美しく老い      和江
赤ん坊の小さく甘きくさめかな    かな子
嚥下できず顔を覆へり大嚔       邦夫
雲多忙嗚呼短日の空模様        言成
一駅で車窓は闇に暮れ早し       堯子
みどり児の泡のやうな嚏かな     太美子
嚏して居心地悪きバスの中       輝子
ティンパニー鳴るまで我慢咳嚔    兵十郎
太き木を投げ込む暖炉夕茜        昴
山荘が明け透けになる枯木立      茉衣
哲学の講義に響く嚔かな        正信
暖炉燃ゆおとぎ話の裏怖し      眞知子
短日や膝小僧の血鉄の味        真理
転ぶなと呟く戸口冬の朝         翠
こたつ列車阿蘇路を上る暖かさ     盛雄
短日を「もう一回」と草野球      安廣
こと多き月日いとをし年送る      遊子
出るでないくさめ不発のもどかしさ    乱

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