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第660回(吟行) 令和4年5月29日      
                              
吟行地 神戸どうぶつ王国及びその界隈

会場 神戸臨床研究情報センター第2研修室

締切 午後2時30分


出席者

 瀬戸幹三・山戸暁子・鈴木輝子

 鈴木兵十郎・瀬戸橙・寺岡翠

 宮尾正信・向井邦夫

 新型コロナウイルスの新規感染者数は、緩やかな減少を維持し、吟行会を無事に開催する事が出来ました。どうぶつ王国は全天候型の動物園、屋内エリアではカピバラ等と近距離で会え、屋外エリアではラクダ乗り等と楽しみ方も色々。無邪気な動物、美しい花々と触れ合い、句作に耽る楽しい時を過ごす事が出来ました。俳句の楽しさを再認識した一日でした。

選者吟
南風吹き駱駝大きく瞬きす      幹三
緑蔭に虎と並びて眠りたし
午睡するピューマに動く耳のあり
獣園の匂ふ薄暑の昼下がり      暁子
青葉風未来都市めく街に着く
カピバラの昼食見てゐる薄暑かな
      
幹三選
引率の教師のシャツに滲む汗     輝子
ゆつたりと鸚鵡飛びたる夏の庭    正信
檻の砂跳ねてウルフの駆ける夏    正信
耳だけをピクリピクリと獏昼寝    輝子
顔隠す蛇の太さのなめらかさ      橙 
◎獣園の匂ふ薄暑の昼下がり     暁子
真夏日の予報に大き夏帽子      輝子
若者の季節素足にスニーカー     輝子
南風二峰駱駝抜けてゆく        橙
◎若葉食む獏のやさしき歯音かな   正信
◎万緑の山近くなり神戸着      輝子
赤々と夏空高くブラシの木     兵十郎         
◎夏を統ぶ嘴広鸛の面構       正信
耳に風当たる音あり夏の海       橙
虎夫婦昼寝す吾も一服す        翠
夏草を掠め滑空バードショー     正信
昼寝する虎に日の斑の揺れてをり   輝子
夏の空駱駝の尻の厚きこと      邦夫
カピバラの昼食見てゐる薄暑かな   暁子
◎睡蓮に隠れる魚の居りにけり     橙
  
幹三特選句講評

 みんなで見たもの、そこならではの知識を写生して披露し合うのも吟行の楽しみですが、季語とどう響き合わせるか、季語をどう生かすかに注力したいものです。さて…

・獣園の匂ふ薄暑の昼下り      暁子
 生きているものに湧き出ずる力を「匂い」で感じた…薄暑ならではの気配です。

・若葉食む獏のやさしき歯音かな   正信
 動物の咀嚼音で若葉を詠む。動物園吟行ならではですね。また、食べているのが獏であるというのも効果的。

・万緑の山近くなり神戸着      輝子
 吟行する土地への挨拶句。初夏の美しい山と海の間が狭まって来て、いよいよ到着というのが神戸らしいですね。


・夏を統ぶ嘴広鸛の面構       正信
 この動物園のハイライトの一つ、ハシビロコウ。これをいかに句にするか。夏の面構えとざっくり捉えたことで成功しました。句の形もいいですね。

・睡蓮に隠れる魚の居りにけり     橙
 俳句の軽みを考えさせられた一句。たったこれだけの言葉で睡蓮池の広がり、ここに棲む生き物たちのことが読者全員に共有されます。

暁子選
◎演技終へ女鷹師の昼寝かな      翠   

ナマケモノ怠けてゐたる薄暑かな   幹三    引率の教師のシャツに滲む汗     輝子     
ゆつたりと鸚鵡飛びたる夏の庭    正信 
◎檻の砂跳ねてウルフの駆ける夏   正信
耳だけをピクリピクリと獏昼寝    輝子 
◎己が夢食ひつつ獏の昼寝かな    幹三
暑き日の見合ひを疎むナマケモノ   邦夫
腹さらし眠るウルフや檻の夏     正信

若葉食む獏のやさしき歯音かな    正信
◎緑蔭に虎と並びて眠りたし     幹三
夏を統ぶ嘴広鸛の面構        正信
◎夫迷子怒る老妻五月尽        翠
オットセイ捻りをいれる泳ぎかな   邦夫
虎夫婦昼寝す吾も一服す        翠
昼寝する虎に日の斑の揺れてをり   輝子

暁子特選句講評

・演技終へ女鷹師の昼寝かな      翠
 「かな」とあるから旧仮名がよいだろう。演技中ではなく、終わった後の情景に目をとめられた。

・己が夢食ひつつ獏の昼寝かな    幹三
 「夢を食う獏」というのはよくある素材であるが、実際に目の前で眠っている獏を見てそう感じられた。

         
・緑蔭に虎と並びて眠りたし     幹三
 虎と並んで寝るというとんでもないことが、檻の中の虎を見た時、実際に可能であるかのように思われた。


・檻の砂跳ねてウルフの駆ける夏   正信
 砂を蹴散らかして跳ねても、所詮檻の中。勇壮なシーンでありながら、何となく哀れを誘う。

・夫迷子怒る老妻五月尽        翠
 「どうぶつ王国」は若い親子の世界で、老人は完全に浮いた存在であった。あの雑踏の中、きっとこんな場面があっただろうと、思わず笑ってしまった。

 吟行地は見所一杯の楽しい場所であった。歩けない私はここに選んだ句に描かれている鷹も虎もウルフも見ることは出来なかったが、皆さんはくまなく歩き、愉快な句を作られた。俳句にする場合、動物名を片仮名、ひらがな、漢字のどの表記にするか、句によって考える必要があるだろう。また見ていない人の共感を得るのも難しい。かつて当句会の選者であった林直入さんが、熱心に天王寺動物園に通って作られた一群の句を思い出した。
  
互選三句
邦夫選
若葉食む獏のやさしき歯音かな    正信
カピバラのもぐもぐタイム夏の風   輝子       
南風吹き駱駝大きく瞬きす      幹三
 南風を受け駱駝は大きく瞬きをして圧倒的な存在を示す。


橙選
獣園の匂ふ薄暑の昼下がり      暁子
赤々と夏空高くブラシの木     兵十郎
緑蔭に虎と並びて眠りたし      幹三
 虎の夫婦に挟まって眠りたくなるほど気持ちよさそう。


輝子選
埋立の地に更地あり雪加鳴く    兵十郎
モノレール青葉の波を越えてゆく   暁子
ナマケモノ怠けてゐたる薄暑かな   幹三
 軽い調子でナマケモノをぴたりと表現された。


兵十郎選
オットセイ捻りをいれる泳ぎかな   邦夫
ビーバーの日々の仕事の涼しさよ   幹三
夏を統ぶ嘴広鸛の面構        正信
 暑くてもじっと動かぬ王者の風格に共感しました。


正信選
青天に高く泰山木の花       兵十郎
午睡するピューマに動く耳のあり   幹三     
耳に風当たる音あり夏の海       橙
 耳に当たる幽かな風に夏の海を知る繊細な句。


翠選
若葉食む獏のやさしき歯音かな    正信
緑蔭に虎と並びて眠りたし      幹三    
青葉風未来都市めく街に着く     暁子
 今日ポートライナーに乗って私も同じことを実感した。

  
自選句
暑き日の見合ひを疎むナマケモノ   邦夫
風薫る深呼吸するこびとかば      橙 引率の教師のシャツに滲む汗     輝子
炎天に獏の寝息や砂模様      兵十郎
夏を統ぶ嘴広鸛の面構        正信
演技終え女鷹師の昼寝かな       翠

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