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第656回 令和4年2月21日      
 

例会は、コロナをめぐる「蔓延防止措置」がさらに3月初旬まで延長されたため、1月と同じ方式の通信句会といたしました(全員5句出句)。


出句者

 瀬戸幹三・山戸暁子・植田真理

 碓井遊子・草壁昴・西條かな子

 鈴木輝子・鈴木兵十郎・瀬戸橙

 鶴岡言成・寺岡翠・中嶋朱美

 中村和江・西川盛雄・根来眞知子

 東中乱・東野太美子・平井瑛三

 宮尾正信・向井邦夫・森茉衣

 山田安廣 (計22名)


兼題

 春遅し・栄螺(幹三)

 いぬふぐり・盆梅(暁子)

 当季雑詠  通じて5句
     
選者吟
日曜の空晴れわたり犬ふぐり     幹三
いぬふぐり傍に座つてやりませう 
海底に在る如網に栄螺置く
盆梅の完結したる世界かな      暁子
「春時雨」てふ盆梅の枝垂れやう
焼栄螺垂らす一滴醬油の香

 
幹三選 
◎早春の波音届く露天風呂       橙
潮ちよつと吹きて蓋閉づ焼栄螺   兵十郎
◎灰色の雑木林や春遅し        昴
年の豆袋広げて受けにけり      遊子
栄螺売る女栄螺のごと無口      暁子
田一面一杯に咲くいぬふぐり     言成
なかよしの名を呼びてみるいぬふぐり

                 かな子
夜の厨黙すさざえの海の息     眞知子
盆梅や威儀正しゅうして老ひとり  かな子
触角の蠢く糶の栄螺かな       正信
◎あれやこれ友に知らせしいぬふぐり  橙
夕暮れて腰の痛みや春遅遅と      翠
壺焼の肝香ばしき丸かじり      正信
小さき手に摘まれて零るいぬふぐり  輝子
文机の盆梅朝の光呼ぶ        盛雄
◎焼栄螺くるんと出ればいとうれし   橙
◎百年を苔に刻んで鉢の梅      安廣
地の温み受けいぬふぐり青く咲く  眞知子

作付けの無き地一面いぬふぐり    邦夫
◎島つなぐ橋の袂の犬ふぐり     正信
蒼空から落ちて咲き出しいぬふぐり   昴
いぬふぐりもうハイヒール履けません 和江
焼栄螺蓋に素直と強情と      太美子
水音のやわらかき土手いぬふぐり  眞知子
トロ箱のさざえの纏う潮の香    眞知子
◎盆梅の開き旧家に人集ふ      邦夫
ありやなしや生きる疲れの盆梅に    乱
焼き栄螺じゅじゅつと海の記憶吐く   昴
盆梅の枝昇りゆく龍のごと      真理
春遅し辿る小道に降る雨も     かな子
春遅し枕辺に置くランドセル     安廣

 

幹三特選句講評
・早春の波音届く露天風呂       橙
 いい御身分である。岩風呂に肩までつかり湯気の立ちこめる中、波音に春を聞いているのである。

・灰色の雑木林や春遅し        昴
 あっさりと作られた句、素っ気ない句であるがそれ故に遅き春の雰囲気がある。

・あれやこれ友に知らせしいぬふぐり  橙
 こまごまと咲く犬ふぐり。その春の色を見ていると親友にいろいろなことを聞いてほしい気持ちになったのである。

・焼栄螺くるんと出ればいとうれし   橙
 楊子を操ってさまざまな角度で回転させていると、ある時、くるんと栄螺の「全身」が現れる。その気持ちよさ、達成感はいと嬉しである。

・百年を苔に刻んで鉢の梅      安廣
 盆梅と共に生息してきた苔である。百年ともなると幹や根をつつむ脇役もただ者ではないのである。「刻んで」に時間がある。

・島つなぐ橋の袂の犬ふぐり     正信
 瀬戸内海であろうか。大きな景と可憐な花の取り合わせである。この小さな花に気づいた喜びも伝わってくる。

・盆梅の開き旧家に人集ふ      邦夫
 何年続いている集いなのであろう。盆梅の貫禄、旧家のたたずまい、集まった人々の様子など句からいっぱいの想像が溢れ出てくる。誠に懐の深い句である。


暁子選
潮ちよつと吹きて蓋閉づ焼栄螺   兵十郎
盆梅の一枝に見る思慮と技      朱美
日曜の空晴れわたり犬ふぐり     幹三
夜半までミューズの舞ひや牡丹雪   遊子
約束はイ号館前いぬふぐり      輝子
なかよしの名を呼びてみるいぬふぐり

                 かな子
◎春遅し吾の歩も遅しされど確と    翠
◎海に哭く拳の如き栄螺かな     盛雄
食卓に栄螺載るとき父が居た     朱美
盆梅や鉢の外へとくねる幹      正信
夕食の栄螺漁りにといふ暮らし   かな子
春遅しワクチン接種順を待つ     瑛三
坦坦と八十路のひと日いぬふぐり  兵十郎
田楽の里春遅き阿蘇路かな      盛雄
いぬふぐり実は泣き虫苛めつ子    輝子
いぬふぐり傍に座つてやりませう   幹三
晴れぬ吾を励ます空といぬふぐり   邦夫
金屏を背に盆梅の幽姿かな     太美子
◎盆梅展庭の古梅もよき香り     瑛三
文机の盆梅朝の光呼ぶ        盛雄
盆梅の年ほど生きし人の世に      乱
百年を苔に刻んで鉢の梅       安廣
いぬふぐりもうハイヒール履けません 和江
焼栄螺蓋に素直と強情と      太美子
◎蒼天の欠片か阿蘇の犬ふぐり    正信
焼き栄螺じゅじゅつと海の記憶吐く   昴
いぬふぐり摘まれざる青群れ咲きぬ 眞知子
春遅し枕辺に置くランドセル     安廣

暁子特選句講評
・春遅し吾の歩も遅しされど確と    翠
 春いまだ寒しと思いながらもしっかりと歩いておられる。春は必ず来るし、作者も必ず目的地に着かれるであろう。

・海に哭く拳の如き栄螺かな     盛雄
 上五は栄螺にかかるのであろう。作者は栄螺をその形から拳のようだと思われた。(栄螺をウイルスに似ていると詠まれた方もありましたね。)この「哭く」は深い悲しみや辛い気持ちを吐き出すように声をあげて激しく泣き叫ぶこと。栄螺の悲しみや何?

・盆梅展庭の古梅もよき香り     瑛三
 室内では盆梅展が開かれている。今日の主役は盆梅であるが、ふと気がつくと庭の梅も負けずによい香を放っている。

・蒼天の欠片か阿蘇の犬ふぐり    正信
 類想はあるが、阿蘇の青空となればまた格別であろう。そのかけらが落ちてきて地上に散らばったのだ。


互選三句
朱美選        
栄螺焼く匂ひに惹かれ屋台酒     安廣
百年を苔に刻んで鉢の梅       安廣
面会自粛老人ホーム春遅し       翠
 一期一会が貴重な年令になってからのコロナは厳しい。


瑛三選        
盆梅の艶めく紅や美容院       茉衣
焼き栄螺じゅじゅつと海の記憶吐く   昴
面会自粛老人ホーム春遅し       翠
 「欲しがりません勝つまでは」辛抱辛抱。


和江選        
海底に在る如網に栄螺置く      幹三
いぬふぐり傍に座つてやりませう   幹三
人の群れ去れば盆梅語り初む      翠
 梅も人の様に語るのですね。ざわめき鎮まりの対比が妙。


かな子選        
面会自粛老人ホーム春遅し       翠
殻に棘どこか栄螺はウイルス似    和江
盆梅の艶めく紅や美容院       茉衣
 会えないまま母を亡くした友よ。盆梅の小さな紅が哀しい。


邦夫選        
いぬふぐり日差しに応へ地の星に    乱
盆梅や百年の生瑞々し       兵十郎
小さき手に摘まれて零るいぬふぐり  輝子
 いぬふぐりの可憐さが小さな手と戯れてさらに際立つ。


言成選        
灰色の雑木林や春遅し         昴
「春時雨」てふ盆梅の枝垂れやう   暁子
島つなぐ橋の袂の犬ふぐり      正信
 本四連絡橋の大きな景色とイヌフグリの取合わせが巧み。


橙選        
栄螺売る女栄螺のごと無口      暁子
なかよしの名を呼びてみるいぬふぐり

                 かな子
夜の厨黙すさざえの海の息     眞知子
 暗い厨で、何も知らない栄螺の静かに潮を噴く哀れ。


太美子選        
夜の厨黙すさざえの海の息     眞知子
蒼天の欠片か阿蘇の犬ふぐり     正信
文机の盆梅朝の光呼ぶ        盛雄
 窓に朝日が差すと輝く盆梅。その梅が光を呼ぶとは妙。


輝子選        
水音のやわらかき土手いぬふぐり  眞知子
焼き栄螺じゅじゅつと海の記憶吐く   昴
食卓に栄螺載るとき父が居た     朱美
 栄螺の好きな父。家族で囲んだ夕餉をいとおしむ作者。


兵十郎選        
早春の波音届く露天風呂        橙
海に哭く拳の如き栄螺かな      盛雄
百年を苔に刻んで鉢の梅       安廣
 苔に刻む百年が良い。鉢を覆う苔は年を感じさせる。


昴選        
触角の蠢く糶の栄螺かな       正信
水音のやわらかき土手いぬふぐり  眞知子
文机の盆梅朝の光呼ぶ        盛雄
 文机の上の小さいものでも朝日と、そして春を招くのだ。


茉衣選        
帰路急ぐ背を風が追う春遅し     朱美
水音のやわらかき土手いぬふぐり  眞知子
春遅々と布団の中の丸き猫      真理
 うちの猫はホットカーペットで丸くなっていました。


正信選        
栄螺売る女栄螺のごと無口      暁子
百年を苔に刻んで鉢の梅       安廣
焼き栄螺じゅじゅつと海の記憶吐く   昴
 臨死の一瞬、人は生涯を見ると言う。栄螺も同じか!


眞知子選        
盆梅の一枝に見る思慮と技      朱美
盆梅の年ほど生きし人の世に      乱
焼き栄螺じゅじゅつと海の記憶吐く   昴
 おいしそうな香り。海の記憶が少し切ない。


真理選        
キリストの汗の空色いぬふぐり    和江
遠き日のあの子あの唄いぬふぐり   安廣
春遅し工事現場の打撃音      兵十郎
 無骨な工事の様子に春の予兆を感じました。


翠選        
栄螺売る女栄螺のごと無口      暁子
百年を苔に刻んで鉢の梅       安廣
盆梅の艶めく紅や美容院       茉衣
 美しくなった女性。紅梅は自分と見比ベている?


盛雄選        
潮ちよつと吹きて蓋閉づ焼栄螺   兵十郎
潮に耐え栄螺の育つ岩場かな     言成
焼き栄螺じゅじゅつと海の記憶吐く   昴
 海の記憶は太古の生命か、環境か、オノマトペがいい。


安廣選        
栄螺売る女栄螺のごと無口      暁子
小さき手に摘まれて零るいぬふぐり  輝子
蒼天の欠片か阿蘇の犬ふぐり     正信
 犬ふぐりの青を空の欠片と見た。早春の爽かさを感じる。

 
遊子選        
食卓に栄螺載るとき父が居た     朱美
人の群れ去れば盆梅語り初む      翠
盆梅や百年の生瑞々し       兵十郎
 老いた樹幹気迫ある瑞々しさ。測り難い花の命ですね。


乱選         
いぬふぐり地蔵様笑む旧街道      翠
可憐とは言ひつつ踏みぬいぬふぐり  瑛三
金屏を背に盆梅の幽姿かな     太美子
 豪華絢爛たる盆梅を「金屏」と「幽姿」で詠った。

参加者自選句
名を知りて可憐さが増すいぬふぐり  朱美
カーリング石の行方や春遅々と    瑛三
いぬふぐりもうハイヒール履けません 和江
なかよしの名を呼びてみるいぬふぐり

                 かな子
晴れぬ吾を励ます空といぬふぐり   邦夫
盆梅展座敷に満ちる香りかな     言成
あれやこれ友に知らせしいぬふぐり   橙
僧坊の坪庭詰めていぬふぐり    太美子
青春の旅果つ栄螺の殻一つ      輝子
潮ちよつと吹きて蓋閉づ焼栄螺   兵十郎
焼き栄螺じゅじゅつと海の記憶吐く   昴
早春や庭木芽を吹き地面萌ゆ     茉衣
盆梅や鉢の外へとくねる幹      正信
地の温み受けいぬふぐり青く咲く  眞知子
春遅々と布団の中の丸き猫      真理
春遅し吾の歩も遅しされど確と     翠
海に哭く拳の如き栄螺かな      盛雄
百年を苔に刻んで鉢の梅       安廣
夜半までミューズの舞ひや牡丹雪   遊子
いぬふぐり日差しに応へ地の星に    乱

弔句 上田元彦さんへ    
   
背筋伸ばし君を迎へる水仙花     暁子
冬の空親しくなりたき友が逝く    朱美
虎落笛六十年の友の情        瑛三
タイガースの球春待たず逝かれたる  瑛三
新薬へつながる道に春待つも     和江
おしゃれ人何色のセーターで逝かれしや

                 かな子
吟行の笑顔の君や冬日向       邦夫
春待たず花観ることもなく逝かれ   言成
春の星握手せし手のやはらかさ     橙
含羞の笑み懐かしき冬銀河     太美子
思ひ出は笑顔ばかりや梅ふふむ    輝子
あの笑顔いづくにありや冬日向   兵十郎
ヌートリア詠みし友の句偲ぶ冬    正信
春ひと日吟行せし君偲びをり    眞知子
笑顔しか思ひ出せずに春来る     幹三
厳寒やふと穏やかな君の声       翠
一枚の言の葉の燦君逝きて      盛雄
温顔を想ふ夜空や春浅し       安廣
耕人と名乗られ八十路の句の思ひ   遊子
早梅の綻ぶがごと君笑みし       乱

 

 昨年末、12月27日にお亡くなりになりました
 上田元彦さんに、弔句を上記の通り皆さまよりお寄せいただきました。ご遺族様にお送りいたしましたところ、次のようなおたよりをいただきました。改めて元彦さんのご冥福をお祈りいたします。

 先日はお手紙とともに心温まる弔句を送っていただきありがとうございます。どの句も元気だったころの父を思いださせてくれる素晴らしい句でした。仏壇に供えさせていただきました。じっくりと句を楽しんでいることと思います。ありがとうございました。   (後略)…        上田雅彦(内)

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