top of page
第677回 令和5年8月21日 

会場  大阪俱楽部会議室


出席者 瀬戸幹三・山戸暁子・上田恵子

    小出堯子・鈴木輝子・鈴木兵十郎

    寺岡 翠・向井邦夫・森茉衣

    山田安廣
投句者 植田真理・碓井遊子・草壁昴

    鶴岡言成・中嶋朱美・中村和江

    西川盛雄・根来眞知子・東中乱

    東野太美子・平井瑛三

  出席者10名+投句者11名 計21名


兼題  初嵐・朝顔(幹三)

    新豆腐・墓参(暁子)

    当季雑詠 通じて8句


選者吟
この秋のはじまる風の一流れ      幹三    
ぬるぬると風吹き始む初嵐           
豆腐屋の水の自慢や新豆腐
焼夷弾に欠けたる父の墓洗ふ      暁子
若者の墓へ明るき供花選ぶ
新豆腐濃きむらさきを二三滴
 
幹三選 
朝顔の花咲き継いで日々好日     眞知子 
初嵐きしむ雨戸の闇深し       兵十郎
◎初嵐ひそかに動く気圧計       輝子
墓洗ふ人の背中を流すごと       言成
磨き上げ富士を写さむ墓参      兵十郎
出歩ひてくたびれた目に白芙蓉     茉衣
◎朝顔咲き目覚し時計鳴り続け    眞知子
室生寺に向ふ道辺に赤カンナ      茉衣
告ぐること多き今年の墓参       暁子
ギヤマンの鉢にゆらりと新豆腐     恵子
若者の墓へ明るき供花選ぶ       暁子
◎朝顔の蔓のまさぐる空青し     太美子
◎この富士とこの青空を墓参     兵十郎
百才を祝ふ隣家へ新豆腐        和江
◎放課後の教室ひとり初嵐       真理
前夜より朝顔の鉢門前に        邦夫
交差点人影はなく初嵐         朱美
宿題の朝顔の鉢玄関に        眞知子
名水の湧き出す峡や新豆腐        昴
笑みもあり家族総出の墓参り      朱美
◎朝顔の向こうの窓に人の顔     眞知子
新豆腐売りに来若き夫婦かな      瑛三
祖父に似た仏様あり墓参        安廣
新豆腐水切る朝の光かな        盛雄
旅先で初めて出会う新豆腐       朱美


幹三特選句講評
・この富士をこの青空を墓参     兵十郎
 「を」の後の省略が心地よい余韻を残している。亡き人たちとこの風景、天候を共にしたいという気持ち…あるいは、この絶景の中を墓参する、か。素晴らしい場所にある墓所。

・朝顔の蔓のまさぐる空青し     太美子
 北斎の版画の構図を思いました。近景から遠くの風景へ一気に飛ぶその気持ちよさ。まだ若く幼い蔓の動きのあどけなさ、花を愛しておられる気持ちが伝わってきます。


・放課後の教室ひとり初嵐       真理
 過去の思い出の句だと思いますが、みんなに経験のある「ひとり」です。その「ひとり」の時の心模様が思い出されます。初嵐は台風のシーズンを迎える不安な予兆を含んでいます。普通の「嵐」ではないのです。
   
・初嵐ひそかに動く気圧計       輝子
 「ひそかに動く」という擬人化と平行して、刻々と近づいてくる初嵐に身構えている人の気持ちが描かれています。難しい擬人化が、その構造で成功しました。

・朝顔咲き目覚時計鳴り続け     眞知子
 映画のトップシーンのよう。ベルの鳴る音声の中、カメラは朝顔から女性の顔へパンしていく。そしてドラマが始まります。何か楽しい予感のする朝。

・朝顔の向こうの窓に人の顔     眞知子
 いつも通る道にいつも咲いている朝顔。しかし、この朝、目の焦点はその奥に。人の暮しの傍に咲く花なんだなぁ、と改めて思いました。

 


暁子選
◎また独りにもどりしみじみ新豆腐    翠
話すこと詫びることあり墓参      幹三
山小屋の破れ戸打つや初嵐        昴
朝顔の花咲き継いで日々好日     眞知子
供花絶えし隣の墓も洗ひけり      輝子
墓参友散骨の山行き来          乱
朝顔を子はあさちゃんと呼ぶ日記    恵子
西陣や朝顔簾の機屋かな        瑛三
返事せぬ石に語りつ墓洗ふ       言成
◎竹林に雨刺さりたり新豆腐      邦夫
◎この秋のはじまる風の一流れ     幹三
違ひ愛ず齢となりて新豆腐        翠
新豆腐にがりは土佐の深層水     兵十郎
いつの日か我が名も刻む墓洗ふ     輝子
朝顔咲き目覚し時計鳴り続け     眞知子
◎初嵐過ぎて空気の透き通る      堯子
出し抜けの祭太鼓や下車したり     遊子
◎墓参長く短き二十年          翠
国策を越えし愛あり牽牛花        翠
◎放課後の教室ひとり初嵐       真理
名水の湧き出す峡や新豆腐        昴
初嵐追はれて鴉ひるがへる       輝子
五時に鳴る役場の鐘の秋めきぬ     幹三
稲妻の一瞬描く摩天楼         安廣
いとし気に掬ひて切りて新豆腐    太美子
     
暁子特選句講評

・また独りにもどりしみじみ新豆腐    翠
 色々な状況が想像出来るが、例えば盆休みに息子や娘が家族連れで母許に戻って来る。賑やかな日々には食卓に沢山御馳走が並んだ。その休みが過ぎてまた独りの暮らしに戻った時、静かな食卓に新豆腐を味わう。

・竹林に雨刺さりたり新豆腐      邦夫
 「竹の秋」という春の季題がある。他の植物とは反対に春、親竹は地中の竹の子を育てるために葉が黄ばんでくるからである。秋になると若竹は成長し、親竹も元気を取り戻して繁る。その緑と豆腐の白との対比、繁った竹藪に突き刺さるように降る雨と柔らかい新豆腐との対比。

・この秋のはじまる風の一流れ     幹三
・初嵐過ぎて空気の透き通る      堯子
 初嵐は秋の初めにさっと吹く風である。共に気持ちのよい初秋の感じが上手く表現されている。

・墓参長く短き二十年          翠
 ミヒャエル・エンデの有名な童話『モモ』のテーマは時間であり、我々にとって時間とは何かを考えさせる。時間の概念は人により状況により様々だ。客観的には二十年は長い年月である。しかし作者にとって大切な方が亡くなられたのはついこの間のように思われる…と私は解釈したのですが。

・放課後の教室ひとり初嵐       真理
 何となく宮沢賢治の童話を思い浮かべた。誰も居ない教室に一人でいると、開け放たれた窓から突然さっとひんやりした風が。登場人物について色々想像させる。

参加者自選句
笑みもあり家族総出の墓参り      朱美
九百七十ヘクトパスカル初嵐      瑛三
百才を祝ふ隣家へ新豆腐        和江
二人して石段登る墓参かな       邦夫
朝顔を子はあさちゃんと呼ぶ日記    恵子
墓洗ふ人の背中を流すごと       言成
朝顔の朝の生気は昼に萎へ       堯子
いとし気に掬ひて切りて新豆腐    太美子
姉訪はむ新豆腐一丁手みやげに     輝子
新豆腐にがりは土佐の深層水     兵十郎
朝顔や限なき欲に身を細め        昴
朝顔のよこで寝そべる長い猫      茉衣
朝顔の向こうの窓に人の顔      眞知子
朝顔やこの青はこの朝かぎり      真理
墓参長く短き二十年           翠
大き目の供花抱へて墓参かな      盛雄
新豆腐するりと切りて朝の膳      安廣
出し抜けの祭太鼓や下車したり     遊子
新豆腐君と良き酒待つ夕餉        乱

bottom of page