top of page

第650回 令和3年9月13日      
                                

例会は、コロナによる緊急事態宣言がさらに9月末まで延長されたため、8月の例会と同じ方式の通信句会と致しました。

           (全員5句出句)


出句者    

 瀬戸幹三・山戸暁子・浅野りょう

 植田真理・碓井遊子・覚野重雄

 草壁昴・西條かな子・鈴木輝子

 鈴木兵十郎・瀬戸橙・鶴岡言成

 寺岡翠・中嶋朱美・中村和江

 西川盛雄・根来眞知子・東中乱

 東野太美子・平井瑛三・宮尾正信

 向井邦夫・森茉衣・山田安廣


兼題

 秋冷・草の花(幹三)

 鶏頭・鰯(暁子)

 当季雑詠  通じて五句


選者吟
朗らかに漁師の女房鰯干す      幹三
草の花時折聞こゆ山羊の声    
秋冷の川に鳥突つ立つてをり

       
横向けば鶏頭見えて予防接種      暁子
鰯船戻りて妻子駆け寄りぬ  
旅の吾に草の花束異国の子   

 
幹三選 
◎走り根の重なりあふや虫の声    遊子
◎二上より秋冷いたる我が窓に    輝子
◎秋冷の蒼き湖底へ眼鏡拭く     正信
◎秋冷やただひたすらに橋歩く     橙
秋冷や隣家の会話運び来る       翠
鉢出して道に愛であふ鶏頭花     遊子
手で捌く鰯の骨の長きかな      正信
草の花鏡の前に活けられて      言成
朝冷や両手に包む汁の椀       安廣
秋冷や子を呼ぶ声の日暮れ時    かな子
鰯売りきて献立の決まりけり    太美子
山門のぽつんと残り草の花      輝子
トロ箱の鰯眩しき島の糶       正信
◎午後からは明るい曇り草の花    言成
羽衣の伝説ありと余呉の秋      遊子
◎草の花しばしためらひありて抜く   乱
無造作に厨に草の花活けて      正信
河馬の池つーいつーいと赤蜻蛉     橙

茎の赤集め色濃き鶏頭花      兵十郎
それぞれに己が場所あり草の花    安廣
名を問ふておくべきものを草の花   重雄
夕日浴び鶏頭ごつとひと並び    眞知子
父と子の指が地図這ふ秋遍路     正信
絵手紙に一円切手草の花       和江
◎鰯裂く指滑らかにすべりゆく   兵十郎
「いわッしやいわし」浪花の朝を振り売りが

                  瑛三
秋冷に襟掻き合せ門を出づ      安廣
野分中風に抗ひ飛ぶ鳥よ      太美子
    
幹三特選句講評
・走り根の重なりあふや虫の声    遊子

 うねるような樹の生命力と、鳴き続ける無数の虫の声との取り合わせ。なるほど、と。

 

・二上より秋冷いたる我が窓に    輝子
 窓を通して感じた冷たさ、その窓から見える二上山。この分だと山はさぞかし寒かろう。

・秋冷の蒼き湖底へ眼鏡拭く     正信
 不思議な句。「澄み切った水」「眼鏡(のレンズ)拭く」が秋冷と妙に響き合うのである。クール。

 

・秋冷やただひたすらに橋歩く     橙
 何かに追い立てられるように歩く。それは間違いなくやって来る寒さの予感。

 

・午後からは明るい曇り草の花    言成
濃い影のない安定した光は草の花によく似合う。一つ一つの色や形がくっきり見える。そして人の気持ちも落ち着く天気でもある。

 

・草の花しばしためらひありて抜く   乱
 手を伸ばして気がついた。小さな花の美しさと命。自分だけのものにするにはどこか後ろめたさがあるのである。

 

・鰯裂く指滑らかにすべりゆく   兵十郎
 次々に処理していく見事な手さばき。豊漁であったこと、新鮮であることも伝わってくる。

 

暁子選
◎パラリンピック果て秋冷の街しづか 瑛三
二上より秋冷いたる我が窓に     輝子
◎秋冷の蒼き湖底へ眼鏡拭く     正信
秋冷や背すじ伸ばして一万歩     朱美
ひややかや狭き投票箱の口     兵十郎
取りに出て牛乳瓶の冷やかな    太美子
◎秋冷や無心でなぞる高野切    眞知子
秋冷や子を呼ぶ声の日暮れ時    かな子
奥能登や芒囲める無人駅       遊子
◎秋冷の天突く朝の天守閣      盛雄
そうか君はもういないのか草の花    昴
深き闇あり鶏頭の襞の中       幹三
◎暗闇を金木犀が案内す       茉衣
草の花しばしためらひありて抜く    乱
晩酌の締めは鰯の煮汁飯       邦夫
鰯買ひてなめろう塩煎り老い楽し    翠
育てたると鈴虫の声スマホから    輝子
鶏頭の紅はビロード足袋の色    かな子
鰯雲ひとり昼酒高架下        真理
父と子の指が地図這ふ秋遍路     正信
天鵞絨のフリルの迷路鶏頭花    太美子
「ただいま」に鶏頭頷くやうに揺れ  和江
鰯裂く指滑らかにすべりゆく    兵十郎
「いわッしやいわし」浪花の朝を振り売りが

                  瑛三


暁子特選句講評
・パラリンピック果て秋冷の街しづか 瑛三
 オリンピック・パラリンピックの間は少しは活気のあった街であるが、コロナ禍は続き、秋の訪れと共に再び寂しくなった。

・秋冷の蒼き湖底へ眼鏡拭く     正信
 水澄み渡る湖を前にして、底までもっとよく見ようとして思わず眼鏡を拭かれた…と解釈した。眼鏡を拭う動作が、実は心の汚れを拭おうとしておられるようにも思われた。

・秋冷や無心でなぞる高野切    眞知子
 高野切は「古今和歌集」の現存する最古の書写本の通称。紀貫之の書風は仮名書道の最高峰とされ、仮名を学ぶ場合、必ずお手本にする。秋冷の候、書道の練習にも力が入る。

・秋冷の天突く朝の天守閣      盛雄
 大阪に住む者は大阪城公園を思う。朝のジョギングをしておられる方だろうか。

・暗闇を金木犀が案内す       茉衣
 暗がりでよく見えないが、覚えのある金木犀の香に導かれた。


*「鶏頭の紅はビロード足袋の色」という佳句があったが、ビロードは絹で織られているので、足袋の場合は木綿が素材の「別珍」(綿ビロード)の方がよいのではないか。別珍の足袋は普段履きによくあった。


互選三句
朱美選        
秋冷や寝覚めよき朝戻りけり    眞知子
何気なく跨げり畦の草の花      邦夫
秋冷やコロナ禍の今病むまいぞ   眞知子
 同感!コロナ禍の今の皆の気持ち代弁してくれました。

瑛三選        
そうか君はもういないのか草の花    昴
天鵞絨のフリルの迷路鶏頭花    太美子
濃緑の並木を行けば秋涼し      言成
 気持よい一句。足取りも軽やかに並木道の散歩。

和江選        
秋冷や無心でなぞる高野切     眞知子
そうか君はもういないのか草の花    昴
午後からは明るい曇り草の花     言成
 明るい曇りに惹かれ、草の花にふさわしく思います。


かな子選        
トロ箱の鰯眩しき島の糶       正信
それぞれに己が場所あり草の花    安廣
秋夕焼高架を走る電車の灯      真理
 秋夕焼、電車、窓の灯…一瞬の光と影の描写が鮮やか。


邦夫選        
深き闇あり鶏頭の襞の中       幹三
「いわッしやいわし」浪花の朝を振り売りが

                  瑛三
草の花しばしためらひありて抜く    乱
 草の花は庭の主のためらいを喜び後生の糧となる。


言成選        
平凡な日々懐かしき草の花       翠
河馬の池つーいつーいと赤蜻蛉     橙
慎みて余生を生きむ草の花     太美子
 人生は様々でも余生は似ている。慎むべし。


重雄選        
それぞれに己が場所あり草の花    安廣
秋冷に襟掻き合せ門を出づ      安廣
鶏頭や女優の紅き厚き唇        乱
 鶏頭の神秘的かつ妖艶な感じがよろしい。


橙選        
夕焼けの家路しばらく鶏頭花     盛雄
朝冷や両手に包む汁の椀       安廣
草の花時折聞こゆ山羊の声      幹三
 草の花を無心に食べる山羊をのんびり眺める良い時間。


太美子選        
二上より秋冷いたる我が窓に     輝子
深き闇あり鶏頭の襞の中       幹三
目の光る鰯の骨を抜く我が手     輝子
 新鮮な鰯のつぶらな目。料る心に一瞬怯みが走ります。


輝子選        
熔接の仮面の中の愁思かな      幹三
ひややかや狭き投票箱の口     兵十郎
古皿に二尾の鰯で足る夕餉      和江
 我家の風景も似たようなもの。満足して生きている。


兵十郎選        
山門のぽつんと残り草の花      輝子
鶏頭の赤備して彦根城        瑛三
朗らかに漁師の女房鰯干す      幹三
 久々の大漁に気分も上々。そんな気持ちの伝わる句。


昴選        
秋冷や無心でなぞる高野切     眞知子
山門のぽつんと残り草の花      輝子
ポルトガル鰯料理に舌鼓       茉衣
 リスボンでもナザレでも前菜のチーズと共に絶品でした。


茉衣選        
秋冷や寝覚めよき朝戻りけり    眞知子
校長室窓より鶏頭覗きをり      暁子
秋冷や隣家の会話運び来る       翠
 隣も我家もエアコンを消し窓を開けてると、ふと人の声。


正信選        
肩寄せてあの時のジャズ冷える夜   和江
熔接の仮面の中の愁思かな      幹三
抜け露地にひそと満開草の花    眞知子
 「ひそと満開」に草の花の生きざまが良く表現。


眞知子選        
トロ箱のいわし手開く技の良さ   かな子
「いわッしやいわし」浪花の朝を振り売りが

                  瑛三
山門のぽつんと残り草の花      輝子
 山門の経た長い時間のもとで今を咲く草の花たち。

真理選        
パラリンピック果て秋冷の街しづか  瑛三
校長室窓より鶏頭覗きをり      暁子
秋冷やコロナ禍の今病むまいぞ   眞知子
 入院もできない日々が早く終わってほしいものです。


翠選        
秋冷や背すじ伸ばして一万歩     朱美
山門のぽつんと残り草の花      輝子
天鵞絨のフリルの迷路鶏頭花    太美子
 鶏頭の花の特徴をうまく言い表していると思いました。


盛雄選        
走り根の重なりあふや虫の声     遊子
風に舞ひ雨に打たるる草の花     茉衣
絵手紙に一円切手草の花       和江
 絵手紙と一円切手の取り合わせが草の花にふさわしい。


安廣選        
父と子の指が地図這ふ秋遍路     正信
秋冷や新聞受けへ十歩ほど       翠
醜草の師の句碑隠す草の花     兵十郎
 懐かしい師の墓を隠すばかりの雑草を何故か憎めない。


遊子選        
秋冷や無心でなぞる高野切     眞知子
抜け露地にひそと満開草の花    眞知子
父と子の指が地図這ふ秋遍路     正信
 父子あるいは作者ご家族の同行の睦まじい巡礼姿の一齣。


乱選         
鰯売りきて献立の決まりけり    太美子
土手に来て子犬のワルツ草の花    盛雄
深き闇あり鶏頭の襞の中       幹三
 写実的にして暗示的。仄めかしやよし。

参加者自選句
秋冷や背すじ伸ばして一万歩     朱美
鰯の刺身たらふく食ひし能登の宿   瑛三
古皿に二尾の鰯で足る夕餉      和江
秋冷は洗い髪よりしのび寄る    かな子
鶏頭や育て剪りたる父母のこと    邦夫
午後からは明るい曇り草の花     言成
浜ありし匂ひも強く鰯干す      重雄
草の花の中まつすぐぬけ出たる     橙
慎みて余生を生きむ草の花     太美子
二上より秋冷いたる我が窓に     輝子
ひややかや狭き投票箱の口     兵十郎
鰯どちもんどり打ちつ捕らはるる    昴
草の花今日が最後とひとりごと    茉衣
秋冷の蒼き湖底へ眼鏡拭く      正信
秋冷や寝覚めよき朝戻りけり    眞知子
迷ひ子のコスモス畑とてとてと    真理
子らの竿鰯入れ食いパパ多忙      翠
土手に来て子犬のワルツ草の花    盛雄
朝冷や両手に包む汁の椀       安廣
走り根の重なりあふや虫の声     遊子
草の花それぞれ終の栖得て       乱
大学の憧れ語る草の花       りょう

bottom of page