待兼山俳句会
第667回 令和4年11月21日
今回の例会は、若干増加傾向が有るとは言うものの依然としてコロナ感染者数が少ないたため、3か月振りに会員の投句から成る「清記」を材料として大阪俱楽部で行われました。
参加者
瀬戸幹三・山戸暁子・小出堯子・鈴木輝子
鈴木兵十郎・寺岡翠・東中乱・東野太美子
宮尾正信・山田安廣・植田真理・碓井遊子
覚野重雄・草壁昴・西條かな子・鶴岡言成
中嶋朱美・中村和江・西川盛雄
根来眞知子・平井瑛三・森茉衣
計22名
兼題
初冬・柊の花(幹三)
新海苔・枯葉(暁子)
当季雑詠通じて8句
選者吟
かいつぶり己が水輪の外に浮く 幹三
ひひらぎの花ひとつづつ香りけり
往診の老医師来り石蕗の花
犬と我それぞれの音枯葉道 暁子
繰返す同じニュースや冬に入る
新海苔や水もろともに篊を上ぐ
幹三選
◎掃くよりは拾ひ集めん柿落葉 真理
吾が影の湖底に尖る冬の朝 正信
カラカラと枯葉の音の先を行き 乱
◎初冬や帰巣の鴉かあと鳴き 瑛三
枯葉にも熱と土生む力あり 堯子
柊の花の句会に合はせ咲く 乱
枯葉踏み小さき社に詣でけり 安廣
寂し夜を毛糸の中に編み込みぬ 真理
新海苔を買ふ乾燥を買うてをり 輝子
新海苔の皺に弾ける日の欠片 正信
杉並木街道阿蘇が冬に入る 盛男
この事に触れぬ無言の花柊 和江
ひひらぎの角を曲がれば登り坂 朱美
新海苔に浪の音聴く厨かな 輝子
初冬の日差しに猫の長く寝て 安廣
◎紅葉便りつづく日和を足萎えて 瑛三
枯葉積む硬く鎖されし母校跡 輝子
柊の花覗きをり棘越しに 乱
バク転の一瞬顔に降る枯葉 正信
◎旅誘ふ快晴つづき冬はじめ 太美子
柊の花のぽつりとビル緑地 兵十郎
◎犬と我それぞれの音枯葉道 暁子
磁場歪む樹海に踏める枯葉かな 正信
枯葉踏む音それぞれの通学路 正信
吾子のごと駆けよりもたれたる枯葉 翠
枯葉舞ふ今日一日の悔ひ重し 安廣
庭手入れ終り初冬日の届く 翠
新海苔や北の浜辺の暗き色 輝子
◎繰返す同じニュースや冬に入る 暁子
表より裏口親し花柊 暁子
幹三特選句講評
掃くよりは拾ひ集めん柿落葉 真理
箒を使わず手を使おうと思ったのは、柿落葉の美しさのせいであろう。「落葉を掃く」という数多の句の中で面白い展開。
初冬や帰巣の鴉かあと鳴き 瑛三
のんびりとした、ゆるい句である。それが、まだ冬めくという緊張感を伴わない季節をよく表している。下五だけは「鳴く」と締めた方がいいと思う。
紅葉便りつづく日和を足萎えて 瑛三
作者の紅葉への思いが強く伝わった。想像の紅葉は、なお一層美しい。無念である。
旅誘ふ快晴つづき冬はじめ 太美子
同感である。いい挨拶をいただいた気持ちになった。疫病との付き合い方もおおよそ分ってきた今日この頃、遠くへ行きたい気持ちになっている。
犬と我それぞれの音枯葉道 暁子
体の重さも歩き方も足の数も違う。どちらの「生き物」も寒くなる冬の訪れを本能で感じとっている三段切れが気になってはいるのだが…。
繰返す同じニュースや冬に入る 暁子
状況は変わらずとうとう冬になってしまったではないか、という詠嘆。思うに、テレビや新聞などのマスメディアを生活から遮断してしまえばいいのだが、そうはいかない。垂れ流される情報に洗脳されて行く日々である。
暁子選
鳩がなく枯葉に姿隠しつつ 朱美
掃くよりは拾い集めん柿落葉 茉衣
吾が影の湖底に尖る冬の朝 正信
若き日の夢や枯葉のシャンゼリゼー 安廣
◎初冬や去年は何を着たかしら 輝子
柊の花の句会に合はせ咲く 乱
寂し夜を毛糸の中に編み込みぬ 真理
二十年の月日育てし柚子一つ 太美子
泣きながら人の生まるる冬はじめ 幹三
ヴェネツィアに見し満月を京に観ぬ 遊子
古手紙放り込みたり落葉焚 真理
枝にすがり震ふ枯葉も我が身なり 乱
卵抱く枯蟷螂に子の歓声 堯子
枯葉散る土に還らぬアスファルト 堯子
新海苔に浪の音聴く厨かな 輝子
火の山は天の大釜冬はじめ 盛雄
◎奥秩父獣銃らし冬はじめ 和江
紅葉便りつづく日和を足萎えて 瑛三
一列に落ち葉を纏ふ羅漢かな 盛雄
冬初め明るいスカーフ首に巻き 真知子
バク転の一瞬顔に降る枯葉 正信
石庭の波に浮きたる枯葉かな 正信
◎朝の日に公孫樹落葉の金の円 真知子
◎ひひらぎの花ひとつづつ香りけり 幹三
◎だしぬけに走りだしたる橡枯葉 輝子
朴落葉大き絵本の栞とや 兵十郎
暁子特選句講評
奥秩父獣銃らし冬はじめ 和江
奥秩父は埼玉、長野、山梨県境の山地である。初冬の澄んで張り詰めた冷気の中に銃声が響く。このあたりに出没するという熊を撃つのだろうか。作者がわかると埼玉県にお住まいの方だった。住んでおられるのは近代的で閑静な住宅街だと思いますが、実体験かもしれません。
だしぬけに走り出したる橡枯葉 輝子
橡の木は『モチモチの木』のモデルであり、パリのマロニエ並木もこれである。「天狗のうちわ」といわれるように五つに分かれた大きな葉なので、一陣の風が吹き、その枯葉が急に走り出すというのは面白い光景だ。
朝の日に公孫樹落葉の金の円 真知子
公孫樹大樹の周りに輪を描くように黄葉が散り敷いている。そこに差し込む朝日。
ひひらぎの花ひとつづつ香りけり 幹三
柊の花は細かい。その一つずつがそれぞれちゃんと香っている。どんなに小さくても一人前なのだ。どこか人間のことを思わせる句。
初冬や去年は何を着たかしら 輝子
新年の季題「去年今年」の傍題に「去年(こぞ)」というのがあるが、ここでは「初冬」を季題とみてよいかと思う。季節が変わる度に「去年は何を?」と戸惑いながら、引き出しをかき回す。特に急に寒さが加わる初冬は狼狽することになる。
参加者自選句
新海苔の食卓囲む笑い声 朱美
柊の花は誇らず裏鬼門 瑛三
枯葉舞う足尾で出会う青邨碑 和江
夕暮れに美しきナンキンはぜ落葉 かな子
きりもなし欅並木の枯葉かな 言成
風吹いて空に仕舞の枯葉かな 重雄
枯葉にも熱と土生む力あり 堯子
二十年の月日育てし柚子一つ 太美子
枯葉積む硬く鎖されし母校跡 輝子
朴落葉大き絵本の栞とや 兵十郎
柊咲く仄かに温き香を纏ひ 昴
石蕗はたくまぬ庭のアーティスト 茉衣
バク転の一瞬顔に降る枯葉 正信
落葉ひとつ残さず掃かれ苔の庭 眞知子
寂し夜を毛糸の中に編み込みぬ 真理
初冬の雨や地植えの野菜苗 翠
火の山は天の大釜冬はじめ 盛雄
初冬の日差しに猫の長く寝て 安廣
枯葉海鳴りの絶えし鳴海や翁の忌 遊子
早暁の後架に妻と遇ふ初冬 乱