待兼山俳句会
第669回 令和5年1月16日
例会は、コロナ感染が増加する中難しい判断でしたが、出来るだけの防御措置を講じながら敢えて新年会及び例会を開催しました。
参加者
瀬戸幹三・山戸暁子・草壁昴・小出堯子
鈴木輝子・鈴木兵十郎・寺岡翠・中村和江
東中乱・平井瑛三・向井邦夫・森茉衣
山田安廣・ 碓井遊子・西條かな子
鶴岡言成・中嶋朱美・西川盛雄・根来眞知子
計19名
兼題
松過・凍る(幹三)
葉牡丹・初雀、寒雀でも(暁子)
当季雑詠通じて八句
選者吟
海だけが動いてゐたる初景色 幹三
靴底に凍てたる道の固さかな
松過の隣の屋根に人のゐる
鳴きやうもどこか嬉しげ初雀 暁子
凍て雲のばさりと地上に落ちさうな
凍る夜や遺す言葉を書いてをり
幹三選
葉牡丹や土の匂ひを少しつけ 兵十郎
凍る夜や遺す言葉を書いてをり 暁子
◎万人で湾へ押したし淀鯨 和江
凍てし瀧登る人あり鋲を打つ 兵十郎
初雀稲穂曳きゆく門辺かな 瑛三
風紋を残し手水の凍りをり 輝子
青空ゆ光背負ひて初雀 暁子
松過や庭に小さく立つ煙 兵十郎
甥つ子の嫁うるはしく若菜の日 盛雄
槌音の小気味良き朝松も過ぎ 和江
朝日受け頬羽根赤し初雀 兵十郎
◎ビルの間の狭き空にもオリオン座 堯子
わが町は凍てし光に沈みをり 昴
睦まじく砂利を弾けり初雀 邦夫
戻り来し葉書一枚松過ぎぬ 輝子
◎松過やいつもの声でお早うと 輝子
占拠する一樹かしまし寒雀 眞知子
◎凍りたる轍いづくへ続きたる 安廣
朝まだき凍てつく路を砕く人 乱
信濃路や姥捨山の闇凍る 瑛三
◎凍て雲のばさり(と)地上に落ちさうな
暁子
葉牡丹の中に渦巻く小宇宙 盛雄
語らふに言葉もなくて月凍つ夜 安廣
松過やさつぱりとせし庭の木々 邦夫
ちゅんとしか鳴かぬ狭庭も初雀 言成
凍星を奥能登に見る棚田かな 盛雄
◎きのふよりふくふく転ぶ寒雀 和江
◎葉牡丹の色崩れ落つ夕間暮 兵十郎
幹三特選句講評
・万人で湾へ押したし淀鯨 和江
冬の季語「鯨」を使った句は殆ど空想の句である。しかし今回は違う。実際に我らの町に鯨が現れたのである。今月限りの句、採らなければ!「淀鯨」と勝手に名付けているのも面白いではないか。
・ビルの間の狭き空にもオリオン座 堯子
都会の冬である。ビルをフレームにして特徴ある星座がおさまった。それを見た瞬間に出来た句であろう。発見した時の気持ちの余韻が感じられる。「狭き」と言わずにもう一工夫していただきたい。
・松過やいつもの声でお早うと 輝子
ふだんの暮しに戻ったという句は多くある。しかしこの句は声のトーンで描いている。「暮し」のように大ざっぱにとらえず、朝の挨拶で切り取ったところが新鮮。
・凍りたる轍いづくへ続きたる 安廣
この轍は夜から明け方にかけて凍ったと思われる。つまりこの轍は昨日のもの。しかし作者はあえて「新鮮な轍」と見立ててその行方を考える。その時間差が面白い。
・凍雲のばさりと地上に落ちさうな 暁子
オノマトペから黒い大きな鳥を連想した。冬空に巨大な翼を広げている。その「巨鳥」が地面に近いところまで来ているのである。ところで中8はやはり気になる。「と」をとってもいいのではないか。
・きのふよりふくふく転ぶ寒雀 和江
全体にかわいくて丸っこくてふわふわである。一読した時「きのふより」が気になったが縁側か窓辺で「定点観測」をしている人を思って合点がいった。
・葉牡丹の色崩れ落つ夕間暮 兵十郎
「(薄暗くなり)花の色より暮れてゆく」のような句を多く見る。しかし葉牡丹なら「崩れ落ちる」がぴったり。葉牡丹の複雑な構造の中に崩れ落ちていく色である。
暁子選
松過ぎのコロナ禍戦火納まらず 眞知子
星も土間の水さへ凍てし頃恋し 乱
◎海だけが動いてゐたる初景色 幹三
君如何に門の葉牡丹枯かけて 安廣
◎きのふよりふくふく転ぶ寒雀 和江
松過ぎて医者の梯子の日常に 乱
一羽来て群れの飛び翔つ初雀 昴
◎凍る池底に生き抜く命あり 眞知子
鷺が飛び鴨が群れ居る川凍る 朱美
凍て雑巾廊下掃除の昭和の子 かな子
◎凍る夜をウクライナの民耐へに耐へ 瑛三
寒雀餌さがす三羽家族かな 眞知子
久しぶり凍る手交わすハイタッチ 朱美
言訳を呑み込み歩む凍てし道 安廣
破れ築地木の葉沈めて池凍る 輝子
松の内も松過ぎし日もふたりかな かな子
◎暗がりで作る夕餉や寒雀 昴
松過の昼のサイレン長々と 幹三
校歌刻む母校跡の碑凍ててをり 輝子
暁子特選講評
・海だけが動いてゐたる初景色 幹三
多くの方が採っておられた句。大晦日までは「動」や「騒」の極致にあった人の世は、一夜明けると「静」になり、厳粛にさえなる。そういう人の世の中に対し、自然は淡々と変わらぬ営みを続けている。
・きのふよりふくふく転ぶ寒雀 和江
寒雀はものみな寂しくなる中で、元気よく弾み、見る者を慰めてくれる。寒さをしのぐため、羽根を膨らませた状態を「ふくら雀」といい、ふくふくとした丸い姿から、食物に飢えることなく、子孫繁栄するようにとの縁起ものとして喜ばれる。ふくら雀の歩みはまろぶようにみえる。「きのふより」はますます寒さが厳しくなって、よりふくらんでいるのか、或いは少しずつ春が近づいて動きが活発になっているのか。
・凍る池底に生き抜く命あり 眞知子
人間もそのように強くありたいものだ。
・凍る夜をウクライナの民耐へに耐へ 瑛三
時事俳句は難しいと言われるが、やはり今のこの時点での思いは詠んで残したいと思う。
・暗がりで作る夕餉や寒雀 昴
何故暗がりで作るのか、読者の想像が広がる。上五中七はややもの悲しいが、傍に愛らしい寒雀がいることに救われる。
参加者自選句
留守の間に葉牡丹の鉢友が来て 朱美
句碑三代遊ぶ親子の寒雀 瑛三
道凍てし椋鳥(むく)を危める鴉二羽 和江
兄病むと聞きし朝の寒雀 かな子
睦まじく砂利を弾けり初雀 邦夫
ちゅんとしか鳴かぬ狭庭も寒雀 言成
赤き果皮一枚残して寒雀 堯子
パンの耳撒く子に寄り来寒すずめ 輝子
葉牡丹や土の匂ひを少しつけ 兵十郎
酷寒(ウクライナ)の明かりなき夜寒雀 昴
凍てる頬マスクが優しく包み込む 茉衣
凍る池底に生き抜く命あり 眞知子
寒中閑ありて餌撒き雀待つ 翠
葉牡丹の中に渦巻く小宇宙 盛雄
言訳を呑み込み歩む凍てし道 安廣
鱈ちりに想ふ北なる怒涛かな 遊子
星も土間の水さへ凍てし頃恋し 乱