待兼山俳句会
第634回 令和2年5月18日
兼題 五月・薄暑(幹三)
鯖・葉桜(暁子)
選者吟
釣られたる驚き鯖の眼にのこる 幹三
力石十貫とあり薄暑光
朝一の五月の森を嗅ぎにゆく
鯖の上鯖滑らせて糶終る 暁子
受話器置きしばし目をやる庭新樹
葉桜の道海底を行くごとし
選者選
幹三選
出航のエンジン音も五月なる 兵十郎
◎鯖の上鯖滑らせて糶終る 暁子
浜焼きの鯖に丸ごとかぶりつき 乱
◎鯖さばくごそっとはらわたの重き 翠
甘き香は角の家らし花蜜柑 輝子
小母さんのリヤカーの鯖待たれたる 邦夫
学食の値札新し生ずしあり りょう
◎駆けてくる頬匂ひ立つ薄暑かな かな子
預かりし幼ら帰す夕薄暑 暁子
魚店(うをだな)の鯖の背色に惹かれ買ふ
暁子
雲切れて瑞々しさを葉桜に 兵十郎
真っ白のシーツに替へる薄暑かな りょう
木漏れ日の電車の来たる薄暑かな 橙
葉桜の疎水の果てに孤影消ゆ 乱
◎娘らは唯々楽し五月来る 輝子
輝やける五月の山河翼欲し 太美子
夏めくや胸板薄き摩崖仏 正信
◎白抜きのめしの暖簾や五月来る りょう
もくもくとよう膨らみて緑かな 橙
葉桜や安保闘士でありし頃 和江
衿ボタン外しギンガムチェック初夏 かな子
◎玄海の鯖食べ尽くし転勤す 正信
優しさが言葉にならず夕薄暑 昴
行きつけのパン屋の朝の花さうび 盛雄
如何やうに料るか美しき鯖一尾 かな子
君(くん)づけの便り嬉しき五月かな 遊子
◎自粛して葉桜の池ひと巡り 言成
幹三特選句講評
・鯖の上鯖滑らせて糶終る 暁子
豊漁である。「滑る」ということから、ぱんぱんに肥えた魚体が見えてくる。
・鯖さばくごそっとはらわたの重き 翠
破調であることで、腹を裂かれた鯖の様子が強調されている。取り出された重さがこの一尾の命であった。
・駆けてくる頬匂ひ立つ薄暑かな かな子
子どもの元気が貰えそうである。子どもの行為を描く句は甘くなりがちだが、ここでは初夏の空気までもが描かれた。
・娘らは唯々楽し五月来る 輝子
理由は分らないが、とにかく笑い、はしゃぐ娘たちはニンフのようでもある。前句と並べて味わうと、子の成長・変化が楽しい。
・白抜きのめしの暖簾や五月来る りょう
五月は喜びに満ちた月である。そこを「前のめり」にならず使いこまれた暖簾で表現したことが秀逸。俳味がある。
・玄海の鯖食べ尽くし転勤す 正信
面白い言い様である。赴任地にて美味いものをたっぷり食ってやったわい、という男っぽさが魅力的。
・自粛して葉桜の池ひと巡り 言成
「自粛」と「葉桜・ひと巡り」の取り合わせがうまくいった。今あちこちの句会で「コロナ句」が溢れており時事句・川柳になりがちであるが、この句は俳句として立派に成立している。
暁子選
首折れの鯖の刺身や島醤油 正信
◎出航のエンジン音も五月なる 兵十郎
葉桜や去年(こぞ)も昨日もともに過去
眞知子
浜焼きの鯖に丸ごとかぶりつき 乱
軽暖と思ふも昼間だけのこと 太美子
葉桜や巻き戻したき時思ふ 眞知子
銀色に光る包丁鯖の青 橙
◎四五千の牡丹ゆらゆら沸くがごと 遊子
信号待ちやたらに長き薄暑かな 言成
真っ白のシーツに替へる薄暑かな りょう
◎輝やける五月の山河翼欲し 太美子
葉桜や安保闘士でありし頃 和江
◎美しき村梯子せし旅五月 乱
肌ましろ早生玉葱の宅配便 輝子
玄海の鯖食べ尽くし転勤す 正信
鴉どちまた吾の噂風五月 翠
葉桜やキリンの檻に鳩の声 正信
あの五月結局のめり込みし恋 眞知子
◎関さばを掲げて漁師船あがる 盛雄
君(くん)づけの便り嬉しき五月かな 遊子
暁子特選句講評
・出航のエンジン音も五月なる 兵十郎
エンジンの音は変わらないのだが、五月の海、空、風の中で、作者は特別なものと感じられた。「音」を「おん」とよむと「ん」が続いてリズムが弾む。
・四五千の牡丹ゆらゆら沸くがごと 遊子
どこか牡丹の名所だろう。幾つもの花弁を持つ花の群がり揺れる様子を、見事に表現された。
・輝ける五月の山河翼欲し 太美子
鳥のように上空から俯瞰出来れば、五月の山河をもっと楽しめるのに。
・美しき村梯子せし旅五月 乱
堀辰雄のように、次々と美しい村を訪れた五月の旅、若き日の思い出かもしれない。
・関さばを掲げて漁師船あがる 盛雄
有名な関さばを「掲げて」船から降りる、誇らしげな漁師さんの姿。