top of page

第654回 令和3年12月20日      
          

 例会は、コロナのオミクロン株が出現はしましたが会員の投句から成る「清記」を材料にして大阪俱楽部で実施されました。席題による即吟も行われました。


出席者

 瀬戸幹三・山戸暁子・鈴木輝子

 鈴木兵十郎・瀬戸橙・寺岡翠・東中乱

 平井瑛三・宮尾正信・向井邦夫・山田安廣


投句者

 植田真理・碓井遊子・覚野重雄・草壁昴

 西條かな子・鶴岡言成・中嶋朱美

 中村和江・西川盛雄・根来眞知子

 東野太美子・森茉衣
 出席者11名+投句者12名 計23名


兼題

 兎・冷たし(幹三)

 冬田・雑炊(暁子)

 当季雑詠  通じて8句
 卓上に 柊の花・万両(即吟1句)


選者吟
手に嵌めて冷たき父の時計かな    幹三
陶器市冷たき皿を手にとりぬ
嘘つきし舌雑炊に焦がしけり
方言に囲まれ食べる牡蛎雑炊     暁子
家数戸かたまりてある冬田中   
下校の子みんな兎にさよならと   

 
幹三選 
◎冬ぬくし教会にパン売ってをり    橙
◎方言に囲まれ食べる牡蛎雑炊    暁子
村灯り頼りに急ぐ冬田道      かな子
もぐもぐと一心に食む兎かな     邦夫
駆け寄りし幼子抱けば頬冷た     安廣
家数戸かたまりてある冬田中     暁子
◎雑炊の味も染み込み金婚式      乱
雑炊の湯気も旨さよめがね取る   眞知子
山小道逢ひし兎の目のつぶら     安廣
丸剥ぎの兎やあはれ吊されて    かな子
◎うさぎ抱く当番なれば許されて   輝子
大冬田坂東太郎ゆるやかに      和江
あれやこれ語るも締めは蟹雑炊    遊子
◎古墳列ぶ河内平野の冬田道     盛雄
宿の子の手柄話や兎汁        正信
上梓成り冬至の落暉輝けり       乱
雑炊の湯気の向かふに誰も居ぬ    朱美
◎雑炊や戦後の話疎まれて     眞知子
夕暮れて冬田は青く沈み行く     安廣
赤き実の輝く眼雪兎         瑛三
何時も兎の鼻の忙しなく        橙
冬暮れや手のひらに鉄棒の錆     真理
◎野兎の跡直角に曲がりたる    兵十郎
麓まで路の左右なる冬田かな     邦夫
底冷えの堂に粛々深夜ミサ       乱
底冷の道場広し木太刀振る      安廣
冬の田を匍匐して行く雲の影      昴
一本のひよろ長い草食む兎       橙
光たる点字手すりの冷たかり    兵十郎
手も頬も膝も冷たき吾子帰る     輝子
下校の子みんな兎にさよならと    暁子
   
幹三特選句講評
・冬ぬくし教会でパン売つてをり    橙
 見たものをさっと写生した一句。この景が俳句になると直感したところがいい。教会と信徒さん達が販売しているパンという組み合わせが、暖かい冬の一日につながる。

・方言に囲まれ食べる牡蛎雑炊    暁子
 この雑炊はおいしそう。牡蛎のとれる海辺での食堂であろうか。適当に古びた鍋や碗。舌・目そして耳からの情報が総合して旨さになる。

・雑炊の味も染み込み金婚式      乱
 長い時間をかけて夫婦にいい味が出た(笑)。「染み込み」がどこにかかるのか、不明な点はあるがその曖昧さもこの句には合っている。

・うさぎ抱く当番なれば許されて   輝子
・野兎の跡直角に曲りたる     兵十郎
 「兎」という兼題。狩の獲物、食用、愛玩、姿かたち、習性、走る・跳ぶ・食べる、足跡など多様性豊かな句が揃った。一句目は愛玩動物としての兎。ふわふわの毛並と温かい感触が伝わってくる。そして「生きもの係」の女の子の得意げな顔という設定も憎い。二句目はワイルドな兎。足跡の様子から何かに気づいたか、怯えた様子を想像できる。真っ白い雪原という広い背景も伝わってくる。但し「野兎の跡」は少々乱暴。できれば「足跡」としていただきたい。

・古墳列ぶ河内平野の冬田道     盛雄
 木や草は枯れ見通しがよくなった。景の色も整理され土地の起伏がよく分るのである。墳丘の柔らかいかたちもあって、穏やかな河内の冬の気分がよく描かれている。

・雑炊や戦後の話疎まれて     眞知子
 食べ物から記憶は蘇る。蘇ると人に話したくなる。しかし何度も繰り返されると聞く方も辛い。雑炊の湯気のまわりにいる家族、結局「戦後の話」を聞くことになるのである。

 

暁子選
冬ぬくし教会にパン売ってをり     橙
嘘つきし舌雑炊に焦がしけり     幹三
万太郎のいのちの果てや豆腐鍋    遊子
冬の田に重なる熱気球の影      正信
◎里山を労はるやうに冬日差す    輝子
復活は喪失からと冬木立       茉衣
吾の冷たき手を吾子擦りまた擦り   真理
◎熱ひけば母のおじやの待ちてをり  和江
実験終ふ冥福祈り兎汁        瑛三
◎黙黙と締めの雑炊ひとり鍋     輝子
◎冬ごもりコロナごもりに拍車かけ  茉衣
踏み出した廊下の奥の冷気かな   眞知子
丸剥ぎの兎やあはれ吊されて    かな子
◎大冬田坂東太郎ゆるやかに     和江
嗚呼兎肉かしはと信じ賞味せり     乱
古墳列ぶ河内平野の冬田道      盛雄
宿の子の手柄話や兎汁        正信
兎小屋開けて園児の昼休み      正信
サイレンの夜の冷たさやコロナ禍の  盛雄
何時も兎の鼻の忙しなく        橙
冬暮れや手のひらに鉄棒の錆     真理
野兎の跡直角に曲がりたる     兵十郎
底冷えのグラウンド終業式続く    輝子
手に嵌めて冷たき父の時計かな    幹三
急ブレーキに悲鳴と拍手兎無事     翠
底冷えや名工の座す鍛治の小屋    和江


暁子特選句講評

・里山を労はるやうに冬日差す    輝子
 俳句には客観写生が必要であるが、観る主体が空疎であれば何も捕えることが出来ない。大切なのは観る人間の心、つまり表現者の人間性であろう。この句から作者の慈愛溢れる心が読みとれる。俳句は人間をうたうために、風景を求めるのだ。

・熱ひけば母のおじやの待ちてをり  和江
 成人になっても病気の時はお粥に梅干しが一番おいしい。子どもの頃、やっと熱が下がり、食欲の出てきた時、卵とじのおじやのおいしかったこと!

・黙々と締めの雑炊ひとり鍋     輝子
 鍋料理は幾人かでわいわい語り合いながらつつくものである。しかしひとり鍋は最後の締めまでしんとひとり。「寄鍋」という季題があるが、この句の場合、季重なりというほどではないだろう。「寄鍋の終止符を打つ餅入れる」(粟津松彩子)という例句もある。

・大冬田坂東太郎ゆるやかに     和江
 車窓から眺めていると幾駅もずっと田んぼの続いている風景に出会う。そんな時、狭い日本といえど広いものだと感心する。稲刈りのあと、しばらくは穭田のわずかな緑が見えるが、それも枯れ、ただ荒涼とした田が広がっているだけである。しかしそれは見方によっては田んぼが働いたあと、ほっとして休んでいるようにも見える。その中を利根川が慰めるように悠然と流れている。この川には筑紫次郎(筑後川)四国三郎(吉野川)という弟がいる。

・冬ごもりコロナこもりに拍車かけ  茉衣
 ただでさえ外出の機会が少ない老いの身にとってコロナこもりは心身の老化を加速させるものである。その上冬ごもり!小さい対抗策を試みては挫折している。

互選三句
朱美選        
中天の穴とひかりて冬の月     太美子
寂しくば鴉になれと冬田かな      翠
雑炊の湯気も旨さよめがね取る   眞知子
 家族皆で鍋を囲んだ頃が懐かしい。


瑛三選        
雑炊の湯気の向こうに誰も居ぬ    朱美
赤い花赤い実赤い目の兎       言成
宿の子の手柄話や兎汁        正信
 宿の子の得意気な顔が目に見える様だ。


和江選        
冬の田を匍匐して行く雲の影      昴
光たる点字手すりの冷たかり    兵十郎
うさぎ小屋にうさぎ係の女の子    幹三
 待っていた当番の日兎を抱く少女は嬉しそう。

かな子選        
雑炊や戦後の話疎まれて      眞知子
野兎の跡直角に曲がりたる     兵十郎
里山を労はるやうに冬日差す     輝子
 何やら懐かしい里山の原風景。「労はるやうに」が良い。


邦夫選        
夕暮れて冬田は青く沈み行く     安廣
手も頬も膝も冷たき吾子帰る     輝子
何時も兎の鼻の忙しなく        橙
 絶えず兎の鼻が忙しなく動いているとの鋭い観察力。


言成選        
里山を労はるやうに冬日差す     輝子
雑炊の湯気にくるまる家族かな    盛雄
哀しみの舞ふごと落ち葉ふりしきる かな子
 もうすっかり散り果てて冬木になってはいるけれど。

重雄選        
パソコンの指の冷たき徹夜稿     正信
雑炊に海老の手足の混じりゐし   兵十郎
石垣の冷たさだけの砦址       幹三
 史蹟の荒廃の様子を皮膚感覚で表現。


橙選        
雑炊の味も染み込み金婚式       乱
ふと触れし冷たき手の人振り向かず   昴
ちよつとした迷ひ失せたり冬田道   邦夫
 ちょっとした迷い、道を見失う冬田の広さを感じます。


太美子選        
雑炊の香の家に充つ妻のゐて     安廣
手も頬も膝も冷たき吾子帰る     輝子
冬の田を匍匐して行く雲の影      昴
 匍匐という言葉で、冬田の広さ雲の動く速度が見える。

輝子選        
冬ぬくし教会にパン売ってをり     橙
雑炊の湯気の向こうに誰も居ぬ    朱美
手に嵌めて冷たき父の時計かな    幹三
 形見の時計の冷たさに、父の亡き事を深く感じた作者。


兵十郎選        
冬ぬくし教会にパン売ってをり     橙
復活は喪失からと冬木立       茉衣
手に嵌めて冷たき父の時計かな    幹三
 父の形見の時計か。父の温もりとは別に時計は冷たい。


昴選        
雑炊や家族卓袱台消えたれど      翠
我が細胞の末枯れ来たる年の暮れ  かな子
家数戸かたまりてある冬田中     暁子
 これこそ寂莫とした冬田の風景だ。


茉衣選        
黙黙と締めの雑炊ひとり鍋      輝子
川べりに自転車倒れ冬日向       橙
一万歩冬田の畦も散歩道       言成
 新鮮な空気と田園風景の散歩には憧れます。


正信選        
寂しくば鴉になれと冬田かな      翠
冬の田を匍匐して行く雲の影      昴
月に着き餅つく兎いつ帰る       昴
 諧謔味に溢れる無季句。もし、月固有の兎ならば如何。


眞知子選        
雑炊の湯気の向こうに誰も居ぬ    朱美
一人居の居間に冷たし妻の椅子    瑛三
もぐもぐと一心に食む兎かな     邦夫
 この可愛さがあるから、兎は愛されるのでしょう。


真理選        
パソコンの指の冷たき徹夜稿     正信
川べりに自転車倒れ冬日向       橙
兎小屋開けて園児の昼休み      正信
 園児たちの朗らかな笑い声が聞こえて来るようです。


翠選        
嘘つきし舌雑炊に焦がしけり     幹三
冬の田を匍匐して行く雲の影      昴
冬の蟻死ぬ前一度振り返る      暁子
 目撃されたのでしょうか、心にグサッと来ました。


盛雄選        
バス停へ斜めにとほる冬田かな    幹三
兎小屋開けて園児の昼休み      正信
冬暮れや手のひらに鉄棒の錆     真理
 掌に鉄棒の錆が残るという冬の夕暮れの余韻がいい。

安廣選        
冬暮れや手のひらに鉄棒の錆     真理
ふと触れし冷たき手の人振り向かず   昴
一人居の居間に冷たし妻の椅子    瑛三
 残された亡妻の椅子の冷たさに淋しさも一入です。

遊子選        
冬の蟻死ぬ前一度振り返る      暁子
底冷の道場広し木太刀振る      安廣
耳立てる兎に明かす二心       和江
 兎を前に告白。長い両耳で聞き分けてくれそうですネ。


乱選         
雑炊の香の家に充つ妻のゐて     安廣
下校の子みんな兎にさよならと    暁子
兎追ふことなく長じ恋ふふる里     翠
 唱歌の「故郷」の本歌取り。各自の故郷が思われる。

参加者自選句
いっせいに飛び立ち戻る冬田の雀   朱美
雑炊に元気ふたたび庭仕事      瑛三
大冬田坂東太郎ゆるやかに      和江
我が細胞の末枯れ来たる年の暮れ  かな子
雲一つ無くまさをなる冬の空     邦夫
一万歩冬田の畦も散歩道       言成
冬田越し遠くの家を望むなり     重雄
顔洗ふ両手のなんと冷たさよ      橙
中天の穴とひかりて冬の月     太美子
底冷えのグランド終業式続く     輝子
鶴の田の暮れ残りたる山に果つ   兵十郎
冬の田を匍匐して行く雲の影      昴
復活は喪失からと冬木立       茉衣
冬の田に重なる熱気球の影      正信
はみ出した耳の冷たさ痛きまで   眞知子
吾の冷たき手を吾子擦りまた擦り   真理
双子座に星は流れず夜気冷た      翠
古墳列ぶ河内平野の冬田道      盛雄
駆け寄りし幼子抱けば頬冷た     安廣
万太郎のいのちの果てや豆腐鍋    遊子
底冷えの堂に粛々深夜ミサ       乱

即吟の部
 句会の最後に卓上の赤い実を着けた万両と白い花を咲かせた柊を席題に、みんなで即吟会。つぶぞろいの作品と自画自賛しました。


◎柊の花のぞきこむ大男     幹三 7
万両や句作に倦みし目にやさし  暁子 5
千両やいや万両と句座和む    輝子 5

bottom of page