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第649回 令和3年8月23日      
                                

 8月の例会は、コロナによる緊急事態宣言が解除されるどころか逆に感染者が大幅に増えたため、6月の例会と同じ方式の通信句会と致しました(全員5句出句)。


参加者

 瀬戸幹三・山戸暁子・浅野りょう

 植田真理・碓井遊子・覚野重雄

 草壁昴・西條かな子・鈴木輝子

 鈴木兵十郎・瀬戸橙・鶴岡言成

 寺岡翠・中嶋朱美・中村和江

 西川盛雄・根来眞知子・東中乱

 東野太美子・平井瑛三・宮尾正信

 向井邦夫・森茉衣・山田安廣
                                      (計24名)

 

兼題

 秋めく・稲妻(幹三)

 生身魂・木槿(暁子)

 当季雑詠

  通じて5句

選者吟
木槿白し少女時代のこと遠し     幹三
芦屋浜秋めくものに波の色    
眼光は今も武道家生身魂     

 

耳目悪し口も悪しとぞ生身魂     暁子
花木槿日日新しく生きゆかむ
秋めくや鏡拭ひて掃除終ふ

 
幹三選 
長雨の止んで辺りの秋めきぬ     言成
秋めくや草を咥えて歩く亀       橙
◎待つ時の闇の重さや稲びかり   眞知子
秋めきて人声遠し山の荘      太美子
◎天金の書の凭れ合ふ残暑かな    正信
キッチンの小窓の風も秋めきて     乱
大阿蘇の馬吹かれ居り秋嵐      盛雄
秋めきし風渡り来て川白し     兵十郎
風立ちぬ葉擦れの音の秋めける    瑛三
稲光塞ぎし隙間顕はにす      兵十郎
耳目悪し口も悪しとぞ生身魂     暁子
稲妻の切り取る闇の青白さ      重雄
減らず口衰へ知らぬ生身魂     かな子
いつまでも甘えん坊の生御魂     言成
よく揺れる竹の梢や夕涼み      遊子
◎クラス会ZOOMに並ぶ生身魂   兵十郎
◎改めて生身魂とは俺のこと     瑛三
◎花木槿今日一日は無為のまま    言成

生身魂紅白餅を配りけり       邦夫
いつのまにこんな年にと生身魂   太美子
秋めける靴の汚れの気になる日    輝子
立ち話秋めく日々に長くなり     朱美
ひぐらしや鎮守の森の中にゐて     橙
ボタ山を尖らせ夜の稲光       正信
◎生身玉身振り手振りで語らるる    橙
◎稲妻を浴びて開眼磨崖仏      盛雄
頑固こそ尊ぶべけれ生身魂      邦夫
   
幹三選句講評
・待つ時の闇の重さや稲びかり   眞知子
 暗さの中で息を凝らして待つ時間の長さである。目は落ち着かず空を眺める。闇が重く感じられるという感性に賛同。

・天金の書の凭れ合ふ残暑かな    正信
 古い洋書であろう。時代を感じる装丁である。鈍く光る金色どうしが傾ぎ合っているさまに感じた残暑である。

・クラス会ZOOMに並ぶ生身魂   兵十郎
 ZOOMが使えること自体お元気なのであるが、それなりの齢となった旧友の顔がずらり並んでいるのは「生身魂図鑑」のよう。俳味ある句。

・改めて生身魂とは俺のこと     瑛三
 そうなのである。実は自分こそが初秋の季語なのである。しかし「俺」と言っているところなどは、まだ生身魂になり切っていないのかも。

・花木槿今日一日は無為のまま    言成
 何ものからも影響されずあるがままに過す一日というのは、一日花と言われる木槿のことのみならず現代人の憧れでもあろう。

・生身玉身振り手振りで語らるる    橙
 何を語っておられるのであろう。少々誇張気味の若き日の冒険談であろうか。壮健さが目に浮かぶ。「生身魂」と。

・稲妻を浴びて開眼磨崖仏      盛雄
 稲妻にはドラマチックなところがある。何かが起きそうな、何かが始まりそうな予感。磨崖仏に霊が迎え入れられたという見立てに同感できる。

暁子選
木槿白し少女時代のこと遠し     幹三
◎長雨の止んで辺りの秋めきぬ    言成
秋めくや埴輪なでゆく風やさし    和江
秋めきて人声遠し山の荘      太美子
雲のさま何時しかかはり秋めける   邦夫
稲妻に映ゆ大阪の夜の雲       幹三
◎稲妻や遥か「戦火のホトトギス」   翠
薔薇香る納骨堂やmemento mori    遊子
やけくそで独居を通す生身魂     朱美
芦屋浜秋めくものに波の色      幹三
盆の月土砂災害の爪痕に       茉衣
減らず口衰へ知らぬ生身魂     かな子
秋めくや街吹く風の透き通る     重雄
秋めくや髪染め直し杖手入れ    りょう
甘き物知らぬ子であり敗戦忌     輝子
夕されば風透きとほる秋あかね   かな子
底紅や近頃紅もつけぬ日々     太美子
一二三便の山に祈りの魂祭      遊子
灯り消し稲妻見た日は子等が居た   朱美
いつのまにこんな年にと生身魂   太美子
眼光は今も武道家生身魂       幹三
ボタ山を尖らせ夜の稲光       正信
初めての恋置いて来し木槿垣     安廣
「長崎の鐘」ハーモニカで聴く原爆忌 瑛三
天空の青のニュアンス秋めきぬ    茉衣
◎窓越しの見舞ひに手振る生身霊   和江
◎稲妻に怯えし頃の妻いづく     和江

暁子特選句講評

・長雨の止んで辺りの秋めきぬ    言成
 まさに今年の季節の移り変わりはこうだった。高校野球も順延に次ぐ順延。その長雨が止んだとたん、作者は秋の気配を感じられ、その驚きを詠まれた。

・稲妻や遥か「戦火のホトトギス」   翠
 これは八月二十一日のETV特集「戦火のホトトギスー十七文字に託した若き将兵の戦争」という番組をご覧になっていない方にはわかりにくいであろう。戦争中、心の支えになった俳句の力を描いたドキュメンタリーであった。稲妻の閃光に記憶の中で遥かになってゆく戦火を思われたのであろう。こういう句はいつの世でも、誰にでも理解されるという作品ではないかもしれないが、心打たれた。

・窓越しの見舞ひに手振る生身霊   和江
 この句も何故窓越しであるのか、今の時代にしか理解されないかもしれないが、戦時中の記録と同様、現状の記録として残されるべきであろう。

・稲妻に怯えし頃の妻いづく     和江
 この句には類句類想があるだろう。よくあるのが「ごきぶり」か。しかし作者は実際に稲妻を怖がられた若き日の奥様を思い出されたのだ。類句を恐れず詠まれるとよいと思う。誰もが共感できる微笑ましい句である。

 

互選三句
朱美選        
秋めきてかすかに白き西の月     和江
稲妻の穂波照らせり宿の夜      邦夫
盆の月土砂災害の爪痕に       茉衣
 崩れた道、家屋、かぶさる土砂をくまなく照らしている

瑛三選        
天金の書の凭れ合ふ残暑かな     正信
秋めくや髪染め直し杖手入れ    りょう
稲妻に怯えし頃の妻いづく      和江
 お互いに年をとったが、今も可愛いい奥様。大切に。

和江選        
待つ時の闇の重さや稲びかり    眞知子
散歩道木槿の庭は三軒目       朱美
花木槿日日新しく生きゆかむ     暁子
 今日一日のために咲く花から生へのエールを感じます。

かな子選        
息切らし孫と戯る生身魂        乱
やけくそで独居を通す生身魂     朱美
「長崎の鐘」ハーモニカで聴く原爆忌 瑛三
 永井隆「この子を残して」。永久に語り継がねばならぬこと。

邦夫選        
稲妻の切り取る闇の青白さ      重雄
長雨に底紅のこと案じをり      幹三
天空の青のニュアンス秋めきぬ    茉衣
 夏から秋への移行は大空の青の微細な差異に感じられる。


言成選        
稲妻や光りてすぐに消えし夢    かな子
生身霊呆けも個性と宣へり       翠
冒険のジャングルジムに風さやか   安廣
 ジャングルジムの天辺には爽やかな風が吹いている。

重雄選        
木槿閉づ茜の雲はまだ消えず     暁子
秋めくや鏡拭ひて掃除終ふ      暁子
散歩道木槿の庭は三軒目       朱美
 日常の小さな楽しみ。


橙選        
芦屋浜秋めくものに波の色      幹三
秋めける靴の汚れの気になる日    輝子
長雨に底紅のこと案じをり      幹三
 雨の日々あの木槿たちはちゃんと咲いているのだろうか。


太美子選        
秋めくや草を咥えて歩く亀       橙
稲妻の切り取る闇の青白さ      重雄
生身魂紅白餅を配りけり       邦夫
 生身魂のお人柄、とりまく温かい環境が見えて素敵です。


輝子選        
待つ時の闇の重さや稲びかり    眞知子
イラストのような稲妻空にあり     橙
灯り消し稲妻見た日は子等が居た   朱美
 子等の居た若かりし頃。子等はきっと父母が居たと。

兵十郎選        
友逝きぬ稲妻走る広き野辺      安廣
ひぐらしや鎮守の森の中にゐて     橙
灯り消し稲妻見た日は子等が居た   朱美
 子が居れば母は強い。皆、今はどうしているのだろう。

昴選        
木槿白し少女時代のこと遠し     幹三
天金の書の凭れ合ふ残暑かな     正信
待つ時の闇の重さや稲びかり    眞知子
 待つ時の長さと闇の重さを重ね、その感覚を稲光が増幅。


茉衣選        
秋めきて人声遠し山の荘      太美子
音も無く遠山照らす稲光       重雄
秋めくや立原の詩を再読す     眞知子
 立原道造のソネットは大好きです。同好の士に拍手!

正信選        
稲妻に映ゆ大阪の夜の雲       幹三
眼光は今も武道家生身魂       幹三
稲妻を浴びて開眼磨崖仏       盛雄
 悟りを開いている仏が更に開眼。俳諧味のある句。

眞知子選        
キッチンの小窓の風も秋めきて     乱
秋めくや鏡拭ひて掃除終ふ      暁子
灯り消し稲妻見た日は子等が居た   朱美
 当り前だと思っていた賑やかな日々のなんたる短さ。

真理選        
大阿蘇の馬吹かれ居り秋嵐      盛雄
生身魂月下コタンの熊祭り      盛雄
眼光は今も武道家生身魂       幹三
 老武道家の気高い眼差しがありありと浮かびました。

翠選        
稲妻や意味なくスマホ握りしめ    暁子
バザールにバンダナ値切る生身魂   正信
ボタ山を尖らせ夜の稲光       正信
 一瞬浮かび上がるかっての人間の営々と生きた証。

盛雄選        
真夜突如稲妻豪雨大音響       瑛三
ボタ山を尖らせ夜の稲光       正信
クラス会ZOOMに並ぶ生身魂    兵十郎
 ZOOMに並ぶ同窓生の顔々に時が可視化されている佳句。


安廣選        
秋めきて子の体温の慕わしき     真理
落蝉やベンチに老いの影ひとつ   かな子
稲妻や負われし父の背の広き     輝子
 少し怖い稲妻も父の広い背で見るととても安心なのです。


遊子選        
秋めくや俳句競ふは老いの贅      翠
稲妻やひと世は刹那あとは闇    眞知子
クラス会ZOOMに並ぶ生身魂    兵十郎
 メディアを介した面々、生身魂にしてはどこか生々しい。


乱選         
友逝きぬ稲妻走る広き野辺      安廣
秋めくや髪染め直し杖手入れ    りょう
花木槿日日新しく生きゆかむ     暁子
 一日花の木槿は咲き萎れまた咲く。半ば永遠に。

りょう選        
秋めきて子の体温の慕わしき     真理
バザールにバンダナ値切る生身魂   正信
真夜突如稲妻豪雨大音響       瑛三
 本当にそうでした。不安な世界ですね。

参加者自選句
灯り消し稲妻見た日は子等が居た   朱美
「長崎の鐘」ハーモニカで聴く原爆忌 瑛三
窓越しの見舞ひに手振る生身霊    和江
稲妻や光りてすぐに消えし夢    かな子
頑固こそ尊ぶべけれ生身魂      邦夫
いつまでも甘えん坊の生御魂     言成
稲妻の切り取る闇の青白さ      重雄
分かれ道木槿をパクリ食べる犬     橙
窓に寄りなかなか発たぬ秋の蝉   太美子
夕まぐれ密やかに散る花木槿     輝子
窓閉むる朝の風の秋めきぬ     兵十郎
二階から木槿の花とにらめっこ    茉衣
天金の書の凭れ合ふ残暑かな     正信
秋めくや肌掛けぐいと引き上げぬ  眞知子
稲妻や君の手熱し軒の下       真理
稲妻や遥か「戦火のホトトギス」    翠
生身魂月下コタンの熊祭り      盛雄
生身魂とて小さきゼリーのほの甘さ  安廣
山清水を囲むパーティガスの中    遊子
木槿散り咲きて行人見え隠れ      乱
秋めいて指先濡らし風を見る    りょう

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