待兼山俳句会
第657回 令和4年3月14日
例会は、コロナをめぐる「蔓延防止措置」がさらに春分の日まで延長されたため、3か月続けていつもの方式の通信句会となりました。 (全員5句出句)
出句者
瀬戸幹三・山戸暁子・植田真理
碓井遊子・草壁昴・西條かな子
鈴木輝子・鈴木兵十郎・瀬戸橙
鶴岡言成・寺岡翠・中嶋朱美
中村和江・西川盛雄・根来眞知子
華菱恋多郎・東中乱・東野太美子
平井瑛三・宮尾正信・向井邦夫
森茉衣・山田安廣(計23名)
兼題
東風・春田(幹三)
卒業・ミモザの花(暁子)
当季雑詠
通じて5句
選者吟
ひまさうに鳥の歩きて春田かな 幹三
荒東風を来る人踊るやうに来る
とびの輪の大きくなりぬ東風の谷
流されしこともありたる春田打つ 暁子
水張りし春田に白き雲遊ぶ
春田打つ離農の思ひ今は消え
幹三選
◎模造紙一杯大きな鳩よ卒園す 太美子
平和かな東風吹く庭に日射しあり 言成
夕東風や大河を渡る貨車の影 正信
花ミモザ最終講義の教卓に 翠
町中に残る春田を巡り来し 太美子
静まりて静まりて待つ春田かな 昴
春の田に会ひし媼の妣に似て 安廣
◎卒業の日はなにもかも透き通り 真理
◎ふらふらとミモザの花へ近づきぬ 橙
海東風や恐竜の骨出でし崖 正信
夕東風や庭のベンチにほてりあり 兵十郎
◎東風に身を晒せば遠く海のある 橙
◎戯れに春田踏み行く嬉しさも 乱
◎遠目にも満開と知る花ミモザ 兵十郎
壇上の壺に溢るる花ミモザ 輝子
夕日影煙るが如き花ミモザ 安廣
東風止めば苔の匂ひの摩崖仏 正信
大房のミモザの花を揺らす風 茉衣
◎足跡のまつすぐありて春田道 橙
聞こえ来る発声練習花ミモザ 暁子
ミモザ咲きママさんソフト始動する かな子
東風の来て巨き欅の目覚めけり 安廣
オルガンの日曜学校ミモザ咲く 瑛三
髪を切り歩き出す背に東風が吹く 朱美
斑鳩の塔を遠見に春田ゆく 瑛三
東風揺らす早やしなやかな庭の草 兵十郎
ミモザ咲く出合いがしらに惚れた人 眞知子
空の青晴れやかなりし卒業子 橙
寄せ書きの誤字に癖あり卒業子 正信
◎空青しもこりと動き初む春田 兵十郎
花ミモザ破れジーンズ闊歩する 眞知子
幹三特選句講評
・模造紙一杯大きな鳩よ卒園す 太美子
園児たちがわいわいと描き上げた卒園記念作品であろうか。巨大な鳩というのも面白い。まだまだ幸せで自由な幼子たちの顏が浮かぶ。
・卒業の日はなにもかも透き通り 真理
この感覚に同感。友達も教師も校舎も、そして思い出さえも不思議な清浄感に包まれる。卒業とはそういうものであった。
・ふらふらとミモザの花へ近づきぬ 橙
目の前に現れた巨大な黄色。圧倒されつつも、引きつけられていく。春の陽気のせいでもあろう。
・東風に身を晒せば遠く海のある 橙
微妙な句。東風の中にかすかな潮の香りがしたというのか、心の中にある海への思いが強まったというのか…。
・戯れに春田踏み行く嬉しさも 乱
さしたる理由もなく、とにかく春田に踏み込んだ。少々くどいと思わせるほどの楽しさである。春は人を機嫌よくさせる。
・遠目にも満開と知る花ミモザ 兵十郎
角を曲がって「はっ!」としている作者の気持ちが分る。ミモザの花の色は膨張してまるで家を覆っているようである。
・足跡のまつすぐありて春田道 橙
誰が何の用事で歩いた跡なのか。田んぼの様子を見に来た農夫であろうか…。「まっすぐ」に春の訪れがイメージされる。
・空青しもこりと動き初む春田 兵十郎
空からの視点移動が気持ちいい。春田の土が動くオノマトペとして「もこり」はぴったり。
暁子選
模造紙一杯大きな鳩よ卒園す 太美子
エンジン音春田の始動合図なる 眞知子
強東風に構はずクレーン伸びて行く 輝子
◎夕東風や大河を渡る貨車の影 正信
東風吹くや白雲隅に寄せられぬ 遊子
静まりて静まりて待つ春田かな 昴
卒業の証は暗き筒の中 幹三
春の田に会ひし媼の妣に似て 安廣
児を撃つな東風ごうごうとキエフの地 和江
とびの輪の大きくなりぬ東風の谷 幹三
卒業の日はなにもかも透き通り 真理
東風吹くや阿蘇街道に煙たつ 盛雄
海東風や恐竜の骨出でし崖 正信
朝東風や古木やおらに樹皮を脱ぐ 和江
卒業子送りてわれも職離る 遊子
花ミモザ贈らぬままに八十路越え 乱
戯れに春田踏み行く嬉しさも 乱
古希近しやっと卒業北新地 恋多郎
東風止めば苔の匂ひの摩崖仏 正信
◎花ミモザ窓辺に眠るペルシャ猫 和江
◎明日香野は石のオブジェの春田道 瑛三
卒業の日が始まりの日なるべし 盛雄
ミモザ咲きママさんソフト始動する かな子
◎オルガンの日曜学校ミモザ咲く 瑛三
斑鳩の塔を遠見に春田ゆく 瑛三
◎ひまさうに鳥の歩きて春田かな 幹三
癌切除頬に名のみの春の風 かな子
◎花ミモザ破れジーンズ闊歩する 眞知子
暁子特選句講評
・夕東風や大河を渡る貨車の影 正信
夕日さす中、長い長い貨物車が大河に影を映しながら鉄橋を渡ってゆく。ノスタルジーを誘う句。
・明日香野は石のオブジェの春田道 瑛三
ちょっと思い出すだけでも鬼の俎板、鬼の雪隠、亀石、猿石、酒船石、二面石、石舞台古墳などが、春田の間に散在している長閑な明日香野。
・ひまさうに鳥の歩きて春田かな 幹三
まだ何もない春田、それでも鳥には何かあるのだろう、ゆっくりと歩む鳥。
・花ミモザ窓辺に眠るペルシャ猫 和江
・オルガンの日曜学校ミモザ咲く 瑛三
・花ミモザ破れジーンズ闊歩する 眞知子
いずれもミモザとカタカナ語を合わせ、ミモザの花の雰囲気を表現した句。
互選三句
朱美選
強東風に構はずクレーン伸びて行く 輝子
道問へばミモザの花の咲く家と 輝子
児を撃つな東風ごうごうとキエフの地 和江
この句が世界中の声となってごうごうと届いてほしい。
瑛三選
堂々と二年遅れて卒業す 輝子
楠本賞親喜ばせ卒業す 乱
四修は卒業式も何もなく 言成
大秀才。何を贅沢な。言うてみたいだけ?
和江選
柔らかく草の萌え立つ春田かな 邦夫
寄せ書きの誤字に癖あり卒業子 正信
空の青晴れやかなりし卒業子 橙
祝福は空の青、卒業子に希望あれ。
かな子選
卒業子送りてわれも職離る 遊子
荒東風を来る人踊るやうに来る 幹三
ミモザ咲く出合いがしらに惚れた人 眞知子
リズム軽快で小粋。ミモザが鮮やかで効いている。
邦夫選
草を抱き豊作願う春田かな 朱美
卒業の日が始まりの日なるべし 盛雄
古家を覆ふミモザの花明り 幹三
ミモザは咲き満ちると古家の屋根瓦をほのかに照らす。
言成選
道問へばミモザの花の咲く家と 輝子
春の田の匂ひに弾む旅心 安廣
遠目にも満開と知る花ミモザ 兵十郎
家の前の寺池の対岸のミモザを詠まれたのかと驚いた。
橙選
宵闇に春田鈍く照らし合ふ 昴
寄せ書きの誤字に癖あり卒業子 正信
海東風や恐竜の骨出でし崖 正信
太古の昔も東風に吹かれていたであろう恐竜たちを思う。
太美子選
花ミモザ窓辺に眠るペルシャ猫 和江
東風の来て巨き欅の目覚めけり 安廣
荒東風を来る人踊るやうに来る 幹三
「踊るやうに」と中七の切れがとても効果的だと思う。
輝子選
とびの輪の大きくなりぬ東風の谷 幹三
寄せ書きの誤字に癖あり卒業子 正信
模造紙一杯大きな鳩よ卒園す 太美子
皆で描いた大きな鳩。子等の未来が平和であるように。
兵十郎選
児を撃つな東風ごうごうとキエフの地 和江
道問へばミモザの花の咲く家と 輝子
模造紙一杯大きな鳩よ卒園す 太美子
紙一杯の鳩で平和を祈る。その気持ちが溢れている。
昴選
とびの輪の大きくなりぬ東風の谷 幹三
花ミモザ贈らぬままに八十路越え 乱
児を撃つな東風ごうごうとキエフの地 和江
キエフに近いジトーミル市近郊のバルザック館の無事も!
茉衣選
水張りし春田に白き雲遊ぶ 暁子
道問へばミモザの花の咲く家と 輝子
人間をそろそろ卒業天仰ぐ 翠
卒業式の日程が決まっているといいですね。
正信選
町中に残る春田を巡り来し 太美子
明日香野は石のオブジェの春田道 瑛三
幾たびも帽子飛ばさる春一番 遊子
上五に風の強さ、その中を行く人の逞しさが良く表現。
眞知子選
床屋出て夕の東風とて心地よく 瑛三
青一髪ミモザの似合ふ地中海 昴
幼虫あまた鋤き起こされて春田かな かな子
あまたの幼虫の褥のこの春田、作物もよく育つはず。
真理選
水張りし春田に白き雲遊ぶ 暁子
東風に身を晒せば遠く海のある 橙
夕東風や大河を渡る貨車の影 正信
悠然とした光景に心が洗われます。
翠選
模造紙一杯大きな鳩よ卒園す 太美子
寄せ書きの誤字に癖あり卒業子 正信
花ミモザ破れジーンズ闊歩する 眞知子
花ミモザの雰囲気が若者のおおらかな明るさに似ている。
盛雄選
オルガンの日曜学校ミモザ咲く 瑛三
花ミモザ破れジーンズ闊歩する 眞知子
斑鳩の塔を遠見に春田ゆく 瑛三
遠くの斑鳩の塔は法隆寺か、懐かしい春田の風景である。
安廣選
静まりて静まりて待つ春田かな 昴
聞こえ来る発声練習花ミモザ 暁子
模造紙一杯大きな鳩よ卒園す 太美子
大きな鳩の絵を残して旅立つ園児達の希望を感じる。
遊子選
春の夜の眠り海の底のごとし 真理
壁打ちのテニスの跡や卒業す 正信
聞こえ来る発声練習花ミモザ 暁子
野外での歌唱か台本の発声練習か。ミモザ咲く中。
乱選
甘やかな気配の中へ花ミモザ 橙
梅東風の絵馬鳴らしゆく天満宮 暁子
静まりて静まりて待つ春田かな 昴
姿は変れどひたすら待ち続ける春田の姿。
恋多郎選
第一期だけが自慢の卒業生 瑛三
花ミモザ最終講義の教卓に 翠
侵略よ去れ真実の春来たれ 真理
旬な話題に共感しプラハの春を連想しました。
参加者自選句
陽を受けてミモザほころぶ女性の日 朱美
斑鳩の塔を遠見に春田ゆく 瑛三
朝東風や古木やおらに樹皮を脱ぐ 和江
弥生山父の齢を越えし夫 かな子
溜池を掠め朝東風村々へ 邦夫
制服を着ることもなく卒業す 言成
甘やかな気配の中へ花ミモザ 橙
これよりは追憶重ぬ花ミモザ 太美子
強東風に構はずクレーン伸びて行く 輝子
夕東風や庭のベンチにほてりあり 兵十郎
青一髪ミモザの似合ふ地中海 昴
牡丹の芽ボルドーワインの濃い紅 茉衣
寄せ書きの誤字に癖あり卒業子 正信
花ミモザ破れジーンズ闊歩する 眞知子
卒業の日はなにもかも透き通り 真理
花ミモザ最終講義の教卓に 翠
臥龍梅大地のたうつ息吹かな 盛雄
春の田に会ひし媼の妣に似て 安廣
迸る雪解の水や水車繰る 遊子
戯れに春田踏み行く嬉しさも 乱
古希近しやつと卒業北新地 恋多郎