待兼山俳句会
第665回 令和4年10月17日
例会はコロナ感染者数がかなり減少したため、3か月振りに会員の投句からなる清記を材料として大阪倶楽部で行われました。
兼題 林檎・秋深し(幹三)
菊・木の実落つ(暁子)
選者吟
挑む如齧りつきたる林檎かな 幹三
人を待つ長き午後なり木の実落つ
あらたまり聞き入る話木の実落つ
肩に落つ木の実君かと振り向けり 暁子
大き水輪小さき水輪や木の実落つ
この見合うまくゆきさう林檎むく
幹三選
無口なりし義父の形見や鉢の菊 安廣
林檎剝く皮に悔恨移しつつ 昴
蟷螂をくはへ揚揚猫帰る 輝子
白き歯のはりと林檎を齧る音 輝子
◎木の実落ち四天王寺の亀動く 盛雄
天守へと道一筋や菊の中 正信
秋深し漬物の樽日に干され 和江
なかなかに来ぬ人を待つ菊日和 かな子
林檎さくと齧る歯のまだありにけり 暁子
縁先に菊置く家のつづく村 輝子
◎秋深し音無き山に迷ひたり 重雄
◎秋深し河馬の歯磨く飼育員 正信
哀しみのほのかに苦し焼きりんご 真理
秋深し街に夕餉の気配して 安廣
◎この見合うまくゆきさう林檎むく 暁子
秋深むこれよりの日々ねんごろに 太美子
中腹に煙一筋秋深し 昴
榧の実の落ちて一山静もれる 輝子
落葉して林の空の広々と 安廣
◎大き水輪小さき水輪や木の実落つ 暁子
運動会ひときは歓声リレーらし かな子
遠く見る電照菊の明かりかな 重雄
裏木戸に訪ふ気配木の実落つ 昴
玉砂利を踏み金賞の菊の前 太美子
虫喰ひの林檎も並ぶ直売所 安廣
◎アルプスを視野の限りに林檎もぐ 正信
◎菊日和ひとは愚かなままなれど 翠
二階まで人声届く秋深し 朱美
良き日なれと朝餉の卓に林檎むく 暁子
抽斗のパリの木の実やいつのこと 乱
幹三特選句講評
・木の実落ち四天王寺の亀動く 盛雄
木の実は地面に落ちて次の命へつなごうとする。そんな日の亀、何か通じ合うものがあるのであろうか。四天王寺という設定もいい。
・秋深し音無き山に迷ひたり 重雄
気がつくと迷っていた。そして山が静寂に包まれていることに気がついた。秋の中にぽつんと置かれた自分を思うのである。
・秋深し河馬の歯磨く飼育員 正信
ぽっかり開いたカバの巨大な口、ごついブラシを使っての手慣れた作業、そしてそれを眺めている作者。秋のいい一日。
・この見合うまくゆきさう林檎むく 暁子
林檎をくるくると回しながら、思わず微笑みがこぼれる。幸せの予感とリンゴはよく似合う。
・大き水輪小さき水輪や木の実落つ 暁子
写生句ゆえに、森の池の静けさがよく伝わってくる。視覚で描かれているが、実は聴覚も生きている。穏やかな気持ちになれる句。
・アルプスを視野の限りに林檎もぐ 正信
秋晴れのもと、広いリンゴ園が目に浮かぶ。青い空、白い雲、色づいたリンゴ…往年の歌謡曲のようであるが、そこがまたいい。
・菊日和ひとは愚かなままなれど 翠
そもそも人とは・・・という総括的な措辞であるが「菊日和」という季語の斡旋がうまくいった。仙人風のたたずまいである。
暁子選
置手紙上に林檎の乗せありぬ 幹三
薄紅の透ける花弁や一重菊 兵十郎
ドンと来し津軽の林檎訳ありて 乱
林檎狩り食ひ放題と云はれても 瑛三
眠れぬ夜あれは木の実の落ちる音 眞知子
木の実落ち四天王寺の亀動く 盛雄
◎天守へと道一筋や菊の中 正信
パラパラとパラパラパラと木の実降り 乱
◎入院の一と月長し秋深む 瑛三
木の実落つ谷にせり出す露天風呂 兵十郎
なかなかに来ぬ人を待つ菊日和 かな子
縁先に菊置く家のつづく村 輝子
◎秋深し音無き山に迷ひたり 重雄
フロントに庭の林檎やプチホテル 太美子
人を待つ長き午後なり木の実落つ 幹三
秋深し河馬の歯磨く飼育員 正信
野路菊の紫濃くし小雨降る 茉衣
◎秋深し街に夕餉の気配して 安廣
校長の図書室自慢深む秋 和江
曲芸の象の踏みたる木の実かな 正信
祈る間も木の実落つ音しきりなる 太美子
飯盒に滾る焦げの香秋深む 正信
木の実蹴り朴歯の下駄で坂上がる 言成
◎遠くには戦火あれども菊日和 翠
目も口も消えし石仏菊の供花 幹三
暁子特選句講評
・天守へと道一筋や菊の中 正信
天守への道の両側に菊が植えられているのか、或いは品評会でもあって、その鉢が並べられているのか。天守と菊の取り合わせがよく、きっぱりとした句である。
・入院の一と月長し秋深む 瑛三
老人には何故か月日の経つのが速く感じられる。感覚が鈍って日々心に留まるものが少なくなるからであろうか。一か月はあっという間である。しかし何歳になっても入院中の身には時間は長く感じられる。病室の窓から季節の移ろいを眺めておられるのだろう。
・秋深し音無き山に迷ひたり 重雄
皆さんはどんな状況を思い浮かべられるだろうか。私はこの山は有名な山ではなく、近くの小さな山ではないかと思った。というのも迷ったといいながらも遭難するような深刻さはなく、余裕が感じられるからである。散歩気分で登られたところが、ふと道を間違えて迷われたのか。あたりは晩秋の静けさ、しんと静まり返り、出会う人もない。
・遠くには戦火あれども菊日和 翠 連日報道される戦争の様子に心が痛む。我々の国も色々問題はあるが、それでもとに角菊薫る平和な秋を迎えている。
・秋深し街に夕餉の気配して 安廣
つるべ落としの秋の夕暮れ、仕事帰りの人で街は賑わっているが、ちょっと表通りをそれると、台所の音が聞こえて来たり、夕餉の灯が洩れていたりする。深秋のそぞろ寒さも加わって、家族と離れている人などには何となく淋しさがこみ上げてくる時間である。
参加者自選句
二階まで人声届く秋深し 朱美
林檎木々に赤かりし日のハネムーン 瑛三
婚前夜姉の寿ぐ菊生花 和江
もってのほかその名を愛でつ温め酒 かな子
木の実降る森を抜くれば黄金色 邦夫
音もなく雨降る庭や秋深し 言成
南国に食す林檎や北の味 重雄
重陽に未だ蕾の日陰かな 堯子
玉砂利を踏み金賞の菊の前 太美子
白き歯のはりと林檎を齧る音 輝子
木の実降る坂の途中の木に寄れば 兵十郎
白菊のひかり纏わせ送りけり 昴
野路菊の紫濃くし小雨降る 茉衣
アルプスを視野の限りに林檎もぐ 正信
菊花展いま真盛りを競ひをり 眞知子
仏壇の菊背を伸ばし佇みぬ 真理
秋深し最後の夏着干し終へて 翠
木の実落ち四天王寺の亀動く 盛雄
無口なりし義父の形見や鉢の菊 安廣
愛の曲をのせて秋風クレタ島 遊子
抽斗のパリの木の実やいつのこと 乱