待兼山俳句会
第671回 令和5年3月20日
会場 大阪俱楽部会議室
出席者 瀬戸幹三・山戸暁子・小出堯子
鈴木輝子・鈴木兵十郎・寺岡翠
東中乱・東野太美子・平井瑛三
向井邦夫・森茉衣・山田安廣
投句者
植田真理・碓井遊子・草壁昴
西條かな子・鶴岡言成・中嶋朱美
中村和江・西川盛雄・根来眞知子
出席者12名+投句者9名 計21名
兼題 霾(つちふる)・野遊(幹三)
彼岸詣・もろもろの芽一切(暁子)
当季雑詠 通じて8句
選者吟
野遊の子のするすると木に登る 幹三
鼓笛隊黄砂の中を進み来る
鳥潜るたびに輪となる春の水
幼子の歩むにまかせ野に遊ぶ 暁子
鳥の爪みたいな木の芽ぞくぞくと
霾や浪花の景の曖昧に
幹三選
◎霾や落書されしボンネット 輝子
◎崩し字の門札入れば梅充てり 遊子
新しき供花の明るさ彼岸道 盛雄
野遊びや小さき古墳に上り来て 兵十郎
◎お清汁や隣家の庭のさんしよの芽 邦夫
八重椿前庭に裏に薮椿 茉衣
◎野に遊ぶ心に庭を案内され 太美子
鳥の爪みたいな木の芽ぞくぞくと 暁子
遺跡公園野遊にそと弥生人 翠
◎草の名を忘るるもよし野に遊ぶ 輝子
◎野遊の子の帽拾つてやりにけり 瑛三
恋せしも恋捨てし日も霾る日 かな子
マネの絵を真似て野遊シート敷く 茉衣
犬猫も我が家族なり野に遊ぶ 翠
図書館の窓に芽立ちの光かな 盛雄
西門でお浄土拝す彼岸寺 輝子
彼岸道登れば見ゆる海の凪 邦夫
溝のふちずらりと並ぶ仏の座 朱美
ものの芽の喋り出すかに夜の庭 瑛三
霾や浪花の景の曖昧に 暁子
宮人の野遊びまねむ紫野 眞知子
行きずりの地蔵に参る彼岸かな 安廣
野に遊ぶ雲なき空の淋しかり 瑛三
霾や広き青空駐車場 邦夫
時報鳴る二上山に夕霞 堯子
幼子の歩むにまかせ野に遊ぶ 暁子
芽吹きして靄ふ木立や中之島 翠
幹三特選句講評
・霾や落書されしボンネット 輝子
ボンネットの汚れに春を感じるというのも面白い。何が書かれていたのであろう。見知らぬ誰かの「サイン」。軽いミステリーがまた霾である。
・崩し字の門札入れば梅充てり 遊子
歴史のあるお屋敷であろう。広い庭も手入れがいきとどいて‥‥と、想像が膨らむ一句。「梅充てり」の措辞がこの句自体の格式を高めている。
・お清汁や隣家の庭のさんしよの芽 邦夫
隣家からのいただきものと考えることもできるが、こちらの庭にはみ出してきたものを勝手にいただいたというのが私の解釈。「おすまし」に微妙な味わいが加わった。
・野に遊ぶ心に庭を案内され 太美子
野遊の心を以て、と鑑賞。野趣あふれるしつらえの庭を巡るうちに、作者も野に遊ぶ気分となっていった。庭のあるじの人柄もしのばれる。深みのある句。
・草の名を忘るるもよし野に遊ぶ 輝子
春の野に出たからには身も心もぼーっとしたいものである。俳句とか季語とか世間の憂さとか、なにもかも忘れてひたすら自然の中に身を置く。これぞ野遊。
・野遊の子の帽拾つてやりにけり 瑛三
作者にとっては春の散歩であったろうが、子ども達は常に目いっぱい外で遊ぶ。その元気と接点を持てたのが帽子であった。礼もそこそこにまた子供は遊び始める。
暁子選
雲を見るための野遊寝ころびぬ 幹三
崩し字の門札入れば梅充てり 遊子
芽柳や巴里憧れし朔太郎 和江
土筆摘み母と歩みし道何処 堯子
◎それぞれに子らの記念樹芽を吹きて 和江
修道女らライン岸辺の野に遊ぶ 遊子
草の名を忘るるもよし野に遊ぶ 輝子
卒業や笑ふ我が子と泣く我と 真理
マネの絵を真似て野遊シート敷く 茉衣
鴨動き波紋ひかりとなりにけり 遊子
犬猫も我が家族なり野に遊ぶ 翠
番鳥白と緋の木瓜つつきをり 堯子
やすやすと国境超える黄砂かな 堯子
草蔭に万葉歌碑や野に遊ぶ 兵十郎
霾るやかすむ彼方に戦火なほ 眞知子
ものの芽を味はふことも春らしく 言成
◎十年越ゆ孤の歳月や彼岸参 翠
入彼岸話題はまたも墓仕舞 輝子
◎終らむとして彼岸会の読経なほ 乱
三猿をわが身となさむ霾る日 兵十郎
雪消はや瀬あり淵あり若狭かな 遊子
◎漢字呉れし国の黄砂も呉るるなり 乱
◎鳥潜るたびに輪となる春の水 幹三
峰寺や彼岸の代参たのみけり 瑛三
水車踏済まし野遊川の土手 邦夫
芽吹きして靄ふ木立や中之島 翠
暁子特選句講評
・それぞれに子らの記念樹芽を吹きて 和江
お庭はかなり広いのであろう。お子様が生まれるたびに記念樹を植えられ、それがお子様と共に成長した。植物との共生。
・十年越ゆ孤の歳月や彼岸参 翠
伴侶を失われて十年以上経つ。振り返ると色々なことが思い出される。同時にこれから先の不安も。
・漢字呉れし国の黄砂も呉るるなり 乱
俳諧の一つの特徴である諧謔味のある句。諧謔を生むには心の余裕が必要。
・終らむとして彼岸会の読経なほ 乱
偶々これも前句と同じ作者。やはりどこか諧謔味がある。このようなことを言うと罰が当たるかもしれないが、お経は長い。聴く方にお経の意味がもっと分かっていれば有難いものなのだが。一族の集まる機会の一つであるお彼岸参り。そのあとの宴や観光が楽しみなのに、お経は延々と続く。
・鳥潜るたびに輪となる春の水 幹三
じっと佇んで観察された作者の発見。その発見を客観的に描くことによって、読者にポエジーが伝わる。
参加者自選句
雑草の中からすくっと仏の座 朱美
野に遊ぶ雲なき空の淋しかり 瑛三
それぞれに子らの記念樹芽を吹きて 和江
恋せしも恋捨てし日も霾る日 かな子
垂れたる枝にぽつぽつ柳の芽 邦夫
野遊びのママごと土の握飯 言成
土筆摘み母と歩みし道何処 堯子
野に遊ぶ心に庭を案内され 太美子
野遊や雲流るるを見てゐたり 輝子
彼岸会の移り香曳きて村の人 兵十郎
舞ひ舞ひて換骨奪胎野に遊ぶ 昴
マネの絵を真似て野遊シート敷く 茉衣
野遊びの果てし夕ぐれふと寂し 眞知子
ものの芽の怪物のごと出でにけり 真理
十年越ゆ孤の歳月や彼岸参 翠
新しき供花の明るさ彼岸道 盛雄
霾や物みな淡き模糊の中 安廣
崩し字の門札入れば梅充てり 遊子
パンワイン求め野遊び君若し 乱