待兼山俳句会
第675回 令和5年6月19日
会場 大阪俱楽部会議室
出席者 瀬戸幹三・山戸暁子・小出堯子
鈴木輝子・鈴木兵十郎・寺岡翠
東中乱・東野太美子・平井瑛三
向井邦夫・森茉衣・山田安廣
投句者 植田真理・碓井遊子・草壁昴
西條かな子・鶴岡言成・中嶋朱美
中村和江・西川盛雄・根来眞知子
出席者12名+投句者9名 計21名
兼題 鯰・六月(幹三)
青蔦・草引(暁子)
当季雑詠 通じて8句
選者吟
青蔦のはじより風の始まりぬ 幹三
池の面の一点を打つ夏つばめ
雨曇りとほくの人のうごく口
口ずさむロックのリズム草を刈る 暁子
わが憂さを断ち切るやうに草を刈る
果てしなく思へる庭や草を引く
幹三選
◎小さき虫殺め六月始まりぬ 和江
◎草引きて種をこぼしてゐるばかり 太美子
草抜きの妻の応ふや庭どこか 乱
水草やさつきの鯰髭を振る 邦夫
草引きやずぼりと根ごと抜けにけり 真理
◎果てしなく思へる庭や草を引く 暁子
根張る草種飛ばす草みな引きぬ 翠
川底の泥巻きあげて鯰消ゆ 安廣
紫陽花と雨傘続く六甲山 茉衣
草を引く日の出る前の小半刻 輝子
◎籐椅子のしつとりとしてまた眠る 真理
紫陽花の露あぢさゐの色に染む 安廣
青蔦の生垣越えて朝日浴ぶ 邦夫
風つよし皆うら返る蔦青葉 輝子
草引きやつくづく土を見つめけり 昴
釣りあげてはてさて如何に大鯰 輝子
◎口ずさむロックのリズム草を刈る 暁子
大鯰釣りし噂でもちきりに 輝子
六月の水音高き谷の底 昴
◎六月に白が眩しき日の在りて 堯子
石垣を崩す力や蔦茂る 兵十郎
学び舎を覆ふ青蔦かがやける 瑛三
大学に戻れと恩師大鯰 瑛三
六月のなにあるでなき日々過ごす 眞知子
六月の重き空気に竿を振る 安廣
大鯰小さき目玉をちよと揺らし 兵十郎
◎六月の花嫁と乗るエレベーター 瑛三
幹三特選句講評
・小さき虫殺め六月始まりぬ 和江
六月は緑の月でもあるが蒸し暑さの中に低温の日があったりして、安定を欠く時でもある。そんな月初に小さな殺生をしてしまった小さな後悔…この季節らしいと思った。
・六月に白が眩しき日の在りて 堯子
何が眩しいのかを読者に想像させる余白がこの句のいいところ。川か、鳥か、あるいはウエディングドレス?私はやはり空だと思う。六月の空の色は五月とも七月とも違うから。
・六月の花嫁と乗るエレベーター 瑛三
おめでたくて愉快で、六月という季語が生き生きしている句。大好きです。ジューン・ブライドとあの狭いスペースにどれくらいの時間乗り合わせたのであろう?その時の作者の表情なども想像しました。
・草引きて種をこぼしてゐるばかり 太美子
結局草々の繁殖を助けているのではないか、という気づき。草引きという、特に緊張感の伴わない作業をしながら生まれた一句。楽しいです。
・果てしなく思へる庭や草を引く 暁子
こちらの草引きは徐々に深刻さを増してきている。草の持つ旺盛な生命力、強さ、怖さが作者の嘆息と共に伝わってくる。
・籐椅子のしつとりとしてまた眠る 真理
吸い付くような感触、分ります。まどろみながら再び眠りに落ちてゆく時の気持ちよさ。極上の昼寝ですね。
・口ずさむロックのリズム草を刈る 暁子
手に刃物を持ちリズムに乗って、と来れば確かに「ロッケンロール」!すぱすぱ小気味よく刈られて いく草、作者はノリノリである。
暁子選
◎うつすらと笑うて鯰釣られけり 幹三
六月や河童顔出すイーハトーブ 和江
蔦青し地下のカフェの焙煎香 和江
◎老いの身にいのち見つむる傘雨の忌 遊子
◎紫陽花と雨傘続く六甲山 茉衣
◎草抜きの妻の応ふや庭どこか 乱
水草やさつきの鯰髭を振る 邦夫
地殻変動解明されても大鯰 翠
◎電動機器動員草取女八十路 翠
青蔦の中の窓より人の顔 幹三
川身近と知る六月や避難指示 翠
滝三筋残し青蔦川を埋め 乱
子ら歓声夜の仕掛に大鯰 昴
花柘榴樹上地上に朱を散らす 茉衣
紫陽花の露あぢさゐの色に染む 安廣
青蔦のカフェにママ友集ひをり 兵十郎
永久無窮ただひたすらに草を引く 乱
蔦青葉洋館医家は三代目 輝子
青蔦の窓よりピアノ聞こえ来る 安廣
甲子園今年の蔦の青々と 瑛三
髭剃らず鯰の如き暮らしかな 言成
◎青蔦の館の小窓は秘密めき 太美子
青蔦の蘇りたり甲子園 邦夫
六月の花嫁と乗るエレベーター 瑛三
池の面の一点を打つ夏つばめ 幹三
学び舎を覆ふ青蔦かがやける 瑛三
草引きや腰のラジオの歌ひをり 幹三
草かげに安らひ深し梅雨の蝶 太美子
暁子特選句講評
・うつすらと笑うて鯰釣られけり 幹三
鯰の真骨頂の描写。対象と一体になろうとする努力が個性的表現を生む。うっすらと笑う鯰、ユーモアというより一寸不気味である。
・老いの身にいのち見つむる傘雨の忌 遊子
五月六日は作家・劇作家・俳人である久保田万太郎の忌日である。彼が死の少し前に詠んだ「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」の本歌どりともいえよう。このようなテクニカルな句も味わいたいものである。私ならば「老いの身の」とするか?
・紫陽花と雨傘続く六甲山 茉衣
六甲山の紫陽花は有名である。細い山道を傘が一列になってゆく。その両側には紫陽花の列。雨の紫陽花も風情がある。
・草抜きの妻の応ふや庭どこか 乱
作者は何か用があって、庭仕事中の奥様を呼ばれる。返答の声は聞こえるが、姿は植木のかげになって見えない。かなり広いお庭が想像される。
・電動機器動員草取女八十路 翠
現代の世相描写。草取はかがむ体勢といい結構きつい。バイブレーション機能がついていて、振動で根が抜きやすくなる器具などがあるようだ。この句はもっと大きな電動機器を使う田草取の風景かもしれない。中国の俳句「漢俳(かんぱい)」は漢字十七字で表現するが、日本でも漢字ばかりで十七音(この句は十八音)の句を作る。
・青蔦の館の小窓は秘密めき 太美子
青蔦という季題では、予想通り甲子園と窓の句が多かった。窓だけを残し、青蔦の覆う建物は謎めき、不気味である。そんな感情をさらっと表現された。
参加者自選句
草引けば隣家の差し入れチョコ届く 朱美
六月の花嫁と乗るエレベーター 瑛三
六月や河童顔出すイーハトーブ 和江
朝地震す寝坊の鯰居るやらむ かな子
六月の晴るる朝夕頬の風 邦夫
髭剃らず鯰の如き暮らしかな 言成
早苗田に鏡の如く遠き嶺 堯子
青蔦の館の小窓は秘密めき 太美子
蔦青葉洋館医家は三代目 輝子
青蔦の先の先なる黄金色 兵十郎
六月の月ぼんやりと川のなか 昴
花柘榴樹上地上に朱を散らす 茉衣
六月や無沙汰続きのとの曇り 眞知子
籐椅子のしつとりとしてまた眠る 真理
ジャズ似合ふ古き洋館蔦青し 翠
六月は大阿蘇緑の炎萌え 盛雄
草引きを終へて芝生のやや広し 安廣
石楠花の蕊の奥なる太き蜂 遊子
顔形鯰可笑しや禅めきて 乱